もう一人の転生者
マコトちゃんがあの男を倒してから二日が経った。
私たちはノーズウェルは完全に防衛に徹することに成功し、チェンヴィラムの動きを待っている状況。
チェンヴィラムがセプラテラを攻撃するまでにどれだけの時間がかかるのだろうか……
私は、いつも通りマコトちゃんにメイド服を着せていた。
「非の打ちどころがない可愛さだ」
私は腕を組み頷く。
頬の傷は二週間ほどで治りそうだ。
跡も残らなそうで何よりだけど、やはりあの男への怒りは収まらない。
「おい、聞いてくれ!!」
アトラクが叫んだ。
「なんだ? 」
マコトちゃんが聞く。
「あの男からの情報だ、もう一人転生者が攻撃を仕掛けているらしい」
アトラクが焦ったように言った。
「ハッタリだろ」
マコトちゃんがそうつぶやいた瞬間、兵士が入ってきた。
「西側のテントにて、50名、丸々死亡していました」
マコトちゃんは眉をひそめて、可愛く口をとがらせた。
兵舎に到着する。
兵士50名の死体がそこら辺に倒れていた。
「争った跡もなく、血も流れていません。 しかし、全員が『変死』しています」
兵士が言う。
何よりも不可解な点、それは死体が全て満足したような安らかな表情をしていたという事。
本来であれば、苦しく、苦痛の表情になるはずだ。
不気味すぎる。
この事実だけで背筋が凍る思いだ。
「テントは濡れていない、形も変わっていない」
マコトちゃんは冷静に周りを見渡し観察し始めた。
「雨も降っておらず、濡れた形跡も無いが、窒息死ではないのか……」
マコトちゃんは顎に手を当てて考えた後に、死体に目を向けた。
「おい、これを見てくれ」
マコトちゃんが一人の死体の腕を指さす。
「痣……」
私はつぶやく。
何にぶつけたかわからないが、一人の兵士の腕が青く変色していた。
そして、その男の近くの机を見ると、へこみがあった。
「不可解だ、男はありえない力で机を叩いていたというのか? 何のために? 」
マコトちゃんは顎の下に手を当て考える……
「敵の能力を伝えるダイイング・メッセージ?」
私はマコトちゃんに聞く。
「いや、まだ、わからない…… けど、何か原因の一つだと思う」
私たちは、元に居たテントに戻ることにした。
その四日後の夜中。
50人ほど入る大きなテントの中には机が並ぶ。
周りの兵士の騒がしさを無視し、マコトちゃんは考えた。
いつ襲ってくるのか?
どんな方法で襲ってくるのか?
「すいません、いらっしゃいますか? 」
急にテントの入口の方から声がする。
全員がそこに注目した。
「私が出る……」
私は、胸元の内ポケットから杖を取り出す。
そして、杖の先を入口に向けながらゆっくりと開ける……
「よかった、いらっしゃったんですね!!」
そこには、アルミ製のコップを持った少年が立っていた。
「私、吟遊詩人の『私の背骨』と申します。 芸をさせていただきたいのです」
私はマコトちゃんの方向を向いた。
マコトちゃんは考えた後に手招きのジェスチャーをした。
そして「兵士を楽しませられる人が一人でも多ければ、僕が楽になる」と大きく口を動かした。
魔法少女…… そんなに嫌なのかな?
「入って」
「ありがとうございます」
私は、その少年をテントに招き入れた。
少年は、テント内の上座の方に向かい、舞台に立った。
「マコトちゃんは、いつも『やる側』だもんね」
私はマコトちゃんの隣に座る。
「……」
マコトちゃんは可愛く、耳を真っ赤にさせた。
「それでは、始めさせていただきます」
少年は頭を下げ、芸を始める。
「こんな兵士は嫌だ!!
えーっと、敵兵を斬った後、床に残った血を掃除する」
周りの兵士達はクスクスと笑い始めた。
「こんな兵士は嫌だ!!
防衛線で『はい、バリアー!!』って言って、敵兵は『うちの砲弾は貫通できる~』とか言い出して小学生!!」
私たち含めてみんなが笑い始める。
「こんな兵士は嫌だ!!
部下に滅茶苦茶甘い!!」
テントの中で笑い声が大きくなっていく。
私は腹がよじれそうになりながら、こう思った。
『なにが面白いんだろ? 』
確かに私は笑っていた。
しかし、この笑いの面白さに笑っているのではない。
何かがおかしい。
後ろから「バンバン」と言う机の音がした。
笑いすぎた兵士が泣きながら机を叩く音だ。
呼吸も出来ない笑いの苦しさを貫くようなゾクゾク感。
引きつった腹筋の奥の胃を掴まれるような感覚は何と言えばいいのだろうか。
あの少年は転生者だ。
私は杖を構え、少年に向ける。
「こんな王女様は嫌だ!!
男!!」
「ブッフゥウ!!」
私は噴き出して、杖を落してしまった。
そして、そのまま床に転がる。
息が、出来ない。
隣にいるマコトちゃんの顔が真っ赤になりタコのようになっている。
アトラクとサムも立ち上がるので精一杯みたいだが、お腹を抑えて魔道具を用意する隙すら与えない。
周りの兵士は、自分が攻撃されていることにすら気付いておらず、腰に用意された剣を抜こうとすらしないで笑っている。
この笑えない、笑える状況。
助かる手段はないのだろうか……
それは、笑いにおける心拍数が最高にまで達し、息も出来なくなり気絶しそうになった瞬間だった。
周りの空気感がガラッと変わった。
「quid facimus?」
「縺ゅl?溘??菴輔〒隨代▲縺ヲ縺溘s縺?縺」縺托シ」
「0j0k0L0J0M0_0n0`」
私は気を失った……………………
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