痺れた空気

 紫炎とサムが居なくなり。

 僕とアトラクが協力して男を倒すこととなった。

「一緒に戦うなら伝えておく、俺の能力は……」

「鉄を操る能力だろ」

 アトラクの言葉を遮り僕は答える。

「さっきまで操っていた黒い粉は砂鉄、紫炎に巻きつけた『あれ』と言うのは鉄製の何かを糸で巻いたのだろう……」

「察しが良いな……」

 アトラクが落ち着いた声で言う。


 男は、空に瓶を投げた。

「アレが来る」

「パリーン」

 僕がつぶやいた瞬間、空で瓶が割れる、周りはアルコールの匂いが充満した。

 何より、アトラクの身体に多くアルコールがかかった。

 男はそれを見ると、ニヤリと口角を上げ、指を鳴らす。


『圧縮熱』

 空気を一気に圧縮することにより熱が発生する。

 あの能力では、本当に小さな所だけに熱を発生させる事しか出来ないのだろう。

 しかし、アルコールに引火させるには充分の熱だ。


 アトラクの身体に火が移る。

「どうすればいい!!」

 アトラクは僕の方を向いて叫ぶ。

「剣は持ってるな!!」

「あぁ、双剣だ、二本ある」

「よし、僕のも含めて三つだ。 柄を真ん中にして、一本は縦に、一本は右下、一本は左下に刃が向くように目の前に配置して、回転させろ」

「なるほど、刃は少し傾けた方が良いな? 」

「そうだ」

 アトラクは僕の指示通りに剣を目の前に浮かせて、素早く回転させた。

 いわば、巨大な鉄の扇風機。

 強い風を身体に浴び、アトラクの身体から火は消えていた。

 これが、鉄を操る能力か。


「はぁ、はぁ……」

 消火に成功したのは良かったが、アトラクは疲れていた。

「どうやら、この方法は燃費が悪いらしいね」

 男は頬が上がり楽しそうに手を叩く。

「さぁ、その体力、どれだけ持つかな!!」

 男は、また瓶を投げてきた。

「アトラク!! 疲れてる所、悪いが、剣を逆回転させろ!!」

 僕は叫ぶ。

「わかった!!」

 空中で瓶が割れ、破片が飛び散り、僕の頬を掠る。

 その瞬間、アトラクは剣を回転させ、風を逆向きに発生させた。

 降ってくるアルコールはその風に飛ばされ、男とその足元を濡らす。


 ツーっと頬から血が出て、顎まで伝い、そのまま地面に落ちるのを感じる。

「これで、炎は使えねぇな」

 僕は男に向かってニヤリと笑った。


 男と僕は、互いににらみ合う。

 空から、急に大雨が降り始め、頬に流れる血を洗い流す。

 しかし、その雨は男の頭上には降っておらず、僕とアトラクだけに滝のような水を浴びせる。

「チェックメイトだ」

 男が言う。

「俺が作り出した真空とは空気がない状態だ。 その状態で能力を開放すれば左右から風が吹き込みぶつかり合う。 ぶつかり合った風は空へと逃げていく『上昇気流』という奴だ」

 男の説明を聞き、僕はこれから起きることを察する。

 背筋が凍る感覚と喉を締め付けられる感覚に襲われる。

「空気の中には少なからず水蒸気が含まれる。 上昇気流で舞い上がった水蒸気は冷やされ雲になる。 その雲の中では氷がぶつかり合い、電気を発生させる」

 僕とアトラクは、男の勝ち誇った表情を見た。

「魔王の城に『聖なる雷』を落としたのは、俺だ!!」

 男は衝撃の事実を僕たちに叩きつけた。


 雷が来る……

「この、男が『システム』だとでもいうのか」

 アトラクが言う。

 逃げたい気持ちはわかるが、僕はその男をどうしても倒してやりたいと思っている。

 頭を使えば突破口は見えてくるんだ。

 僕はアトラクに耳打ちした。


「さぁ、魔王を滅ぼした、聖なる雷を食らえ!!」

「伏せろ!!」


 僕とアトラクは身をかがめ目を閉じた。

 瞼越しの光、激しい轟音。

 事が終わり眼を開く。


 そこには、4メートルほどの砂鉄で出来た避雷針があった。

「やるね、アトラク」

 僕はつぶやく。

「俺は言われた事をやっただけだ」

 アトラクは平然とした態度をとる。


 雨雲はどこかへと移動していった。

 能力を使用していても、ずっと維持するのは難しかったみたいだ。


「う、嘘だ、そんなはずでは……ありえない、ありえない」

 男は、何度も同じ言葉を繰り返しながら自分の髪を引っ張っていた。


「アトラク、僕のお願い通りなら、避雷針は若干浮かせているはずだ」

「そうだな」

「ほとんどの電気は地面に逃げただろうが、多少は砂鉄に帯電しているはずだ。 それを男の足元のアルコールにぶつけてやれ」


 アトラクは避雷針だった砂鉄を男の足元に移動させる。


「バチッ」


 アルコールに一気に火が付き、男の身体に引火する。

 頭から炎を吹き出し、肌はただれていく。

 服がはだけて、胸元にフラスコの形をしたネックレスが出てきた。


「勝負ありといったところか……」

 アトラクはつぶやく。


「うあぁああああああああああ」

 炎の中苦しみもがく。


 そして男は、燃えながら『目を閉じ、口を大きく開いた』


「違う、僕たちの負けだ」

 僕はアトラクに言った。

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