(E) 仕事

神里カミサト快児カイジは、絵にかいた様な平凡な人間だった。


平凡な家庭に生まれ。

学校ではそこそこの成績と、友人関係を築き。

高校時代には彼女も出来た。


そんな彼に大きな転機が訪れたのは、ニ十歳の時だ。


高校時代から付き合っていた彼女に振られた快児は、失恋の傷を癒すため海外へと一人旅に出る。

そしてその旅先で、彼は誘拐されてしまう。


――そこから、平凡だった神里快児の運命の歯車が大きく軋む事となる。


彼を誘拐したのは、シャドールという犯罪組織だ。


そこではある研究が進んでいた。

それは強力な人造人間を生み出し、兵士や暗殺者とする研究。


人造人間の開発は、躯体の方はほぼ完成している状態まで進んでいた。

残る部分は頭脳のみ。

だが、その部分だけが一向に進まない。


そこでシャドールは頭脳の開発を諦め、禁断の手段に手を伸ばす。

それは生きている人間から脳を取り出し、人造人間の躯体に移植してそのコントロールにあてるという物だ。


その実験の為に多くの人間が攫われ、神里快児もまたその一人となる。


数百人の犠牲を出す事となるその悪魔の実験。

その中で、移植に成功したのはたった2例のみ。

神里快児ともう一人。


「君達の脳に埋め込まれてある制御装置は解除しておいた」


移植に成功した二人にそう告げたのは、シャドールで研究主任を任されていたコーナー博士だった。


人造人間は、組織の支配下に置くため脳に細工を施される。

だが彼は、それを解除したと言う。

その目的は――


「私は組織に脅されて、無理やり研究さをさせられてきた。私が自由になる為には君たちの協力が必要だ。そして君達が生き延びるにも私の力が必要不可欠。どうか力を貸してくれ」


強制されていたとはいえ、自分達をこんな体にしておいて何を言う。

そう思った二人だが、現在の状況を切り抜けるのに、コーナー博士の協力が必要なのは間違いない事実だ。

もし断れば、彼らに待つ未来が今より悲惨な物になる事は考える間でもない。


だから人造人間となった二人は協力する。


博士の指示に従って組織の研究施設を破壊し、そのデータを全て灰に変える。

そして外に出た彼らは、博士の手引きで国外へと脱出。

組織に見つからぬ様過去を捨て、3人は新たな名と身分で日本で生活する事となる。


神里快児かみさとかいじ山田太郎やまだたろうという名に。

コーナー博士は小赤継利こあかつぎとしとして。

そしてもう一人も、別の名を名乗った。


それから4年。

小赤博士がどこからか持って来る仕事をこなし、山田太郎は生活していた。


その仕事内容は――


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふむ……」


エヴァン・ゲリュオンが小赤継利からのメールを開くと、そこにはこう書かれていた。


『暗殺依頼:汚職検事・山岸和夫

 裏取り〇

 仔細情報は別途データにて添付』


と。

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