第27話 リポップ
天空城の主にして、12枚の翼を持つ力ある大神プッチョン。
かつて邪神を封印した存在で、そのレベルは邪神と並んで200と言われている最強の存在だ。
まあ昔は、の話ではあるが。
邪神封印後、戦う敵を失ったプッチョンは長きに渡って放蕩生活を続ける。
その結果、逞しかったその肉体は見る影もない程に肥え太ってしまっていた。
公式の設定では、脂肪の付きすぎたその体が天空城の玉座にがっちり挟まり、彼はその場から一歩も動けなくなっているとなっている。
メインストーリーで邪神復活の際、世界の危機にもかかわらずこいつが討伐に現れないのも、贅肉の付きすぎた尻が挟まって動けなかったからだ
その設定を反映してか、ゲームの戦闘では、プッチョンは一ミリたちとも動いてこない。
座ったまま部下を召喚したり、天罰的スキルを乱射して来るのみだ。
因みに太った弱体化後の、このダンジョンボスとしてのレベルは100である。
そのレベルだと、メインストーリーのラスボスであるレベル200の邪神より弱いんじゃ?
そう思うかもしれない。
その通りで、実際弱い。
但し、本来の邪神よりは、ではあるが。
ラストバトルの邪神は、主人公だけが扱える力で大幅弱体化させられ、更に対邪神用の必殺武器まで使われる事になるからな。
隠しダンジョンのプッチョンより、ずっと簡単に狩る事が出来る。
「あいつにしよう」
広大な広間の、外壁付近にいるエアインに目をつけた。
俺は相手の視認範囲に入り、外壁ギリギリの位置までエアインを釣る。
ここなら、余程馬鹿みたいに時間を掛けさえしなければ他の奴が寄ってくる心配はないだろう。
心置きなく戦えるというもの。
「きゅわぁ」
エアインが化け物じみた見た目に反し、可愛らしい声を上げてその手を叩きつけて来る。
この天空城に置いて、奴の速度が最も低い。
それもこいつを選んだ要因の一つだ。
だが。
それでも。
エアインの速度は、レベル43のエヴァン・ゲリュオンを大きく上回る。
そのため、その巨体から繰り出される攻撃を回避し続けるのは不可能に近い。
だからこその、ダブルシールド。
俺は両手を掲げる様に合わせ、頭上から振り下ろされたエアインの巨大な拳を受け止める。
「ぐっ……」
想像以上のその威力に、思わず膝が屈しそうになる。
俺は歯を食い縛り、それを堪えた。
守護者武器の盾効果には、衝撃――パワーを緩和する効果がある。
更に貫通ダメージの減少も。
にもかかわらず。
それも両手を使って――効果は2倍――しているにもかかわらず。
ガード上から入るダメージ。
これが隠しダンジョンのモンスターの強さだ。
もし直撃してたなら、きっと今頃虫の息だった事だろう。
「きゅえ……」
直後、エアインの動きが止まり、俺の体にかかっていた負荷が消えた。
――状態異常の発動
ショックの発動率はそれ程高い訳ではないが、両手でガードすればその確率は2倍になる。
「よっしゃ!」
俺は力の抜けたエアインの腕を弾く。
そして自由になった右手を奴に向かって振り上げると同時に、魔力を込めた。
盾から腕の延長線に、白金に輝く斧が生まれる。
俺はそれに――
「
――スキルをのせ、状態異常でスキだらけのエアインへと叩き込む。
隠しダンジョンの武器に宿るスキルだけあって、その威力は俺のデビルクラッシュを大きく上回る。
欠点としては、威力に比例した長い再使用期間がある事だ。
「きゅおうん!」
俺の一撃がエアインの体を大きく削り取り、奴は呻き声と共に数歩後ずさった。
そこに更に一歩踏み込んで、俺は追撃を――
しない。
「慌てる何とかは、貰いが少ないって言うからな」
下手に踏み込んで反撃を喰らえば、偉い事になってしまうからだ。
事は慎重に進めなければならない。
忍耐こそ至高の秘訣である。
俺は再び両手の盾を構え、守りに入った。
「ちょっと違うか……」
威力から逆算するに今の一撃で2割と言った所だろう。
後カウンター5発と言いたい所だが、スカイバスターは再使用までの時間が長い。
そうポンポン使えないので、次からは威力の劣るデビルクラッシュだ。
そしてデビルクラッシュが使えなければ、更に威力の低いパワースラッシュを使うという感じになる。
なので倒すまでには、攻撃を最低でも10発以上叩き込む必要が出て来るだろう。
盾による
「まあ問題ないけどな」
一撃喰らえば、大ピンチになる相手ではある。
だが慎重に防御に徹していさえすれば、速度差があっても俺が直撃を喰らう事などありえない。
確実に俺が勝つ。
その自信があったからこそ、俺はこいつでのレベル上げを選んだのだ。
死ぬ様な相手なら、アイテムだけ取って通常狩場で地道にレベル上げしてるさ。
「きゅわああ!」
エアインが再び襲い掛かって来る。
俺はそれを両手の盾でガード。
ガード。
ガード。
デバフ発動で攻撃を叩き込む。
それのループを地道に、慎重に繰り返す。
周囲に此方に近づいて来る魔物の気配はない。
それを確認しながら、俺はエアインをじっくりと削っていく。
やがて奴と戦い始めて15分程が過ぎた頃――
「きゅぅん……」
――全てのHPを削り切られたエアインがその場に崩れ落ち、消滅する。
「よし!」
大量の経験値の流入。
俺のレベルが一気に5つも上昇し、48まで上がる。
美味すぎ。
「しっかし……予想以上に梃子摺らされたな」
当初の予定よりも、デバフの発動具合が宜しくなかった。
下ぶれって奴だ。
お陰で貫通ダメージでかなり削られてしまい、指輪の効果まで使わされてしまっている。
「指輪様様だぜ」
俺の残りHPは7割。
もし指輪による全快復が無かったら、完全にあの世行きである。
まあある事が前提だから、その過程に意味はないが。
「ドロップは、まあしゃあないな」
ドロップは特殊なクリスタルだけ。
いわゆるノーマルドロップだ。
天空城の敵は、超低確率で防具を落とす事がある。
乱獲必須の確率なので、ソロ狩りで狩れる数で手に入れるのは厳しいだろう。
出たらラッキーって所だ。
因みにボスドロップは、プッチョンの指輪だ。
2個目以降が欲しい場合は、ボスを倒せば手に入れられ様になる。
エアインが消えた場所。
そこに転がっているクリスタルを拾おうと。俺は手を伸ばす。
その時――
直前まで俺の体に降り注いでいた、太陽の光が急に遮られた。
俺の全身を、背後からの影が覆う。
背筋に寒気が走り、慌てて振り返ると……
「――っ!?」
エアインがそこに立っていた。
俺は目を見開く。
「まさか真後ろにリポップ……嘘だろ!?」
「きゅおうん!」
奴が腕を振りかぶる。
そしてその手は、俺に向かって振り下ろされた。
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