第25話 天空城

転移先は、天空城プッチョン前方に広がる庭園。

巨大な庭園には色取り取りの花と、グミの木が植えられている。


「ゲーム通りの景色。特に変な部分は無いか」


庭園には白い翼を生やした、上半身だけの人型の機械が無数に巡回していた。

機械天使――ガーディアン・エンジェル。

庭園の守護者だ。


こいつらのレベルは80。

単体の強さで言えば、隠しダンジョン中最弱である。

ただしそれでも、HPが低い以外はメインストーリー後半に出て来る大ボスと同等以上。

当然勝ち目など一切ない。


まあ戦わないけど。


「初見殺し共はノンアクティブだからな」


機械天使は此方から攻撃を仕掛けない限り襲ってこない、ノンアクティブと言われるタイプの魔物(?)だ。

それでも転移直前にハイパーステルスを発動させたのは、想定外に対する保険の様な物である。

俺の知らない別の魔物が混じってて、急に襲って来るとかあったら洒落にならないからな。


機械天使は、別名初見殺しと呼ばれていた。

その理由は――


一匹殴ると庭園内にいる全ての(100体以上いる)機械天使共に一斉に襲われてしまうからだ。


そう、こいつはいわゆるリンク――味方の戦闘に反応して襲って来る――タイプ。

しかもそのリンク範囲は庭園全体と来ている。


隠しダンジョンである天空城に来て、試しに一匹狩ろうと機械天使に手を出した結果庭園中がリンクして全滅。

プレイヤーあるある話である。

正に初見殺し。


因みにこいつらに勝とうと思ったら、最適化した最強装備にレベルカンストが必要不可欠である。

ぶっちゃけ、天空城のボスを倒すよりもずっとキツイ。


「さて、城に行くか」


広い通路をちょこまかと動き回る天使共と、俺は接触しない様に気を付け庭園を進んで行く。

態々躱すのは、ぶつかると攻撃扱いになってしまうからである。


肩をちょこんとぶつけた程度で『おうわれ、どこに目つけとんじゃ!』的に襲われるのだ。

何処のチンピラだよ全く。


「さて……ここからは気を引き締めて行かないとな」


西洋タイプの城。

天空城の大門前に辿り着いた俺は、気合を入れる。


巨大な門を抜けて広場に入ると、そこからは能動的に攻撃をしかけて来る魔物が出現するからだ。

ただぶつからなければいいだけの機械天使たちとは違い、此処からは敵が寄って来た瞬間、例の水の入った瓶をぶつけて相手の攻撃欲求を静めなければならない。

万一外すと偉い事である。


中庭には人型をした巨大な綿あめの様な魔物が徘徊していた。

象並のそのサイズの体には、かなり小さなピンクの羽が生えている。


――エアイン


ぱっと見、もこもこしたピンクの化け物にしか見えないが、一応こいつは天使型の魔物という事になっている。

レベルは82で、超がつくパワータイプだ。


隠しダンジョンの魔物の中では、こいつが一番倒しやすい上に経験値も多い。

装備が手に入ったら、俺はこいつを狩ってレベルを上げる予定である。


「ハイパーステルスはやっぱ役に立つな……」


敵は目視で此方を見つける訳だが、このスキル使用中は遠くからでは俺の姿を見つける事が出来ない。

そのため、主人公なら余裕で発見される様な距離でも、気づかれる事無くスルー出来ている。


「楽ちん楽ちん」


魔物を避けつつ広場を抜け、天空城の正門へとたどり着く。

幸い、敵に襲われる事はなかった。

まあここはかなり敵の密度が薄いので、ハイパーステルスが効く以上楽勝である。


だがここから先はそうもいかない。

城内には狭い通路もあり、そこで魔物と遭遇したらスルーは絶対に無理だ。


「取り敢えず、まずは指輪からだな」


城内には特に光源はないが、滅茶苦茶明るい。

外よりも明るいレベル。


青いフルフェイスの全身鎧を身に着けた、白い羽の生えた騎士ががチラホラ見える。

戦乙女――ヴァルキッチョ。

レベルは86。

一応中身は美しい女生の姿をしている設定だが、アーマーパージしたりしないので中身を覗く手段はない。


こいつはHPが3割以下になると高確率で『神の御許おんもとに!』とかいうほぼ即死ダメージとなる自爆をして来るので、相手をするには一気に押し切る火力が必要だ。

もちろん俺は戦わない。

仮に装備を揃えても、ソロで自爆阻止できる程の瞬間火力を叩き込むのは難しいからな。

無理ゲー。


「おらっ!」


近くにいた一体のヴァルキッチョが、此方に気付いて突っ込んで来た。

俺はそいつに向かって泉の水が入った瓶を投げつける。

それが当たって砕け、中の水が青い鎧に付着すると魔物はピタリと動きを止めた。


その事からも分る様に、水は生身に当てる必要はない。

装備や体の一部でも問題なかった。


攻撃欲求を押さえる効果は30秒。

それを超えるとまた攻撃してくるので、俺はさっさと移動を始める。


「おらおらおら!」


道中何度か絡まれるが、全てビショビショにしてやり過ごす。

気分は正に戦乙女との聖水プレイ。


なんて事はもちろんない。

中身はともかく、鎧しか見えないし。

流石にな。


敵を捌きつつ、俺は城内の部屋の一つに入る。

そこは円形の広い造りをした空間で、その足元には青い魔法陣が描かれていた。

そしてその魔法陣の中心部分には、小さな青い指輪が浮いている。


隠しダンジョンのみで手に入る、通常プレイでは手に入らない装備。

プッチョンの指輪だ。

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