第19話 別れと再会
ゲヘンに呼び出されてから、じき一月たつ。
幸いな事に、奴らからは何か仕事を依頼される様な事はなかった。
まあちょくちょく、ランチなんかには誘われて顔を出してはいたが。
その際、デブラーとのやり取りで組織の情報を引き出し集めておいた。
奴らの殲滅を効率よくするためと。
危険な構成員の把握をする為に。
万一そういう奴らを残すと、報復として町に残った子供達を狙って来る恐れがあるからな。
確実に始末しなければならない。
「皆聞いてくれ……以前から言っていた様に、俺がお前らと一緒にいられるのは今日までだ」
最後の夕食を終え、俺は子供達に別れの言葉を告げた。
期限については既に話してある。
ないとは思うが、それを外部に漏らさない様一応口止めをして。
万一ゲヘンにその話が流れでもしたら不味いからな。
「……」
子供達が俺の言葉に、悲しそうに俯いた。
俺としても、数か月寝食を共にした彼らとは別れがたい気持ちだ。
だがこればっかりは仕方がない。
壁になると決めはしたがまだ準備は出来ていないし、ここでそれを始めてしまうと子供達に何らかの被害が出てしまう恐れがある。
主人公が直接子供に手出しする様な事はないだろうが、周りまでそうとは限らないからな。
だからここで別れるのが、彼らにとってはベストなのだ。
「もうお兄ちゃんには会えないの?」
カニカが泣きそうな顔で聞いて来る。
「そんな事はないさ。また会える」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
ぶっちゃけ、凶悪指名手配犯である俺と、これ以上拘わっても碌な事にはならないだろう。
だから、もう会いに戻ってくるつもりはなかった。
まあそれを面と向かって、まだ幼い彼女達にいうつもりはないが。
俺自身、心情的にそれを口にしたくなかったというのもあるし……
俺もカニカ達も、時間が経てばお互いの事をそのうち忘れていくだろう。
きっと時間が解決してくれるはずだ。
「だから、また会う時まで……それまで、逆境なんかに負けずに頑張るんだぞ。約束だ」
子供達には、この半年で生き抜くための最低限の備えは教え込んである。
ゲリュオンの所持金の大半も与えてあるので、数年は食うに困る事はないだろう。
だから、余程の事がない限りは大丈夫なはずだ。
まあ初めてあった時のカニカみたいに、病気でって可能性がないとは言い切れない。
けど、それを考え出したら切りがないからな。
俺に出来る事は、これからのこの子達の人生が幸福である事を願う事のみだ。
「うん。俺達……絶対負けないよ!」
「私頑張る!」
「僕も!」
「大丈夫だよ!だから……」
俺に心配をかけまいとしてか、子供達が顔をくしゃくしゃにしながらも強がって声を張って応えてくれる。
強い子達だ。
「おう、信じてるぞ」
その日は一つの小屋に集まって、ぎゅうぎゅう詰めの中で眠りについた。
ああ、最初寝床だったのは木を組んだだけの掘っ立て小屋だったが、今は俺が小屋を幾つか建ててそこで寝泊まりしている。
造り自体はそう立派な物じゃないけど、それでも初期に比べたら天と地だ。
まあ全員集まっているので、今は狭苦しいけど。
「さて……」
皆が寝静まった頃に、俺はゆっくりと起き上がる。
まあチャゴとゴンザはまだ眠れないのか目を瞑ってるだけの様だったが――気配で分る。
彼らはそのまま気づかないふりをしていた。
俺は一人一人の頭を撫でていく。
そして最後に――
「チャゴ。ゴンザ。トラブったら、他の奴らの事ちゃんと守ってやってくれな」
「わかってる……」
「うん……」
この二人。
特にチャゴの方は、並の相手では務まらないレベルだ。
「渡した金、無駄遣いすんなよ。じゃあな」
そう言って小屋を出た俺は、外で素早く黒尽くめの服に着替えた。
更に顏を布で覆って隠し、ハイパーステルスを発動させる。
これなら例え見られても、誰が襲ったかは分からないだろう。
まあ既に指名手配されているので身分を隠す意味合いは薄いが、一応な。
「さて、始めるか」
まずは幹部連中の中で、分かってる奴らの家からだ。
そいつらを始末し、その際ついでに細かい情報――他の奴らの居場所等――も仕入れる。
拷問でも何でもして。
それから、屋敷に行ってデブラーだ。
――更に、俺はこの街の都市長である貴族のヨクバン・ゲイズも排除するつもりだった。
都市長は、ゲヘンと強い繋がりがある汚職まみれの人物となっている。
更に婦女暴行や衝動的な殺人の常習犯でもあり、カルマ値はマイナス500オーバー。
つまり、どうしようもない悪党って訳だ。
ヨクバン・ゲイズは。
ま、それでもエヴァン・ゲリュオンよりかはマシに分類されているが。
こいつを排除するのは、こいつが居座り続ける限り、この街の治安に難が残ってしまうからだ。
新しい都市長に就任して貰う為にも、こいつは始末しておく必要がある。
ゲームのストーリーでもそうだしな。
「ん?」
人気の全くない、真っ暗な深夜の裏路地。
人目に触れない様、こっそりとそんな道をすすんでいると、まるでとおせんぼするかの様に立つ、二つの人影が前方に見えた。
人影は大きな物を背負っている様だったが、背丈自体は低く、恐らく子供だと思われる。
なぜこんな夜中に、子供が?
少し気にはなったが、今の俺にはやるべき事がある。
ハイパーステルスを発動しているので、相手は此方に気付いていないだろう。
そう思って、他の道に行こうとしたら――
「待ってください」
「――っ!?」
高い女の子の声が路地に響いた。
そして二つの人影が、真っすぐに俺の方へと近づいて来る。
こっちに気付いたのか……
ハイパーステルスによって、気配は完全に遮断されている。
更にこのスキルは視覚にも影響があるので、暗い裏路地では目視も殆ど効かないはず。
にもかかわらず、相手は俺に気付いた。
どう見ても子供の背格好だが、ただ物ではないと判断し、俺は拳を構えて警戒する。
斧を取り出さなかったのは、狭い場所で扱うのに向いていないからだ。
此方が戦闘態勢に入った事などお構いなしに、ドンドンと近づいて来る二人の子供。
暗い中でも、顔が判別できる距離。
そこまで来て、やっと俺は相手が誰だかを理解する。
「ん?君は……」
「お久しぶりです。ヤマダさん」
それは以前助けたドワーフの少女。
メエラだ。
そしてもう一人は――
主人公の仲間になる予定のキャラクター。
レッカ・ドワーブンだった。
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