第18話 方向転換
「さて……どうしたもんか」
デブラーの屋敷を出た俺は、人気のない道を歩きながらで一人呟く。
現状、ゲヘンが子供達を人質にとる様な無茶な事をして来る心配はなくなっている。
彼らはあくまでも将来の手下候補でしかないと説明したし。
更に、相手の顔を立てて滞在中は下に付くと返事して来た訳だからな。
少なくとも、俺がこの街に滞在する間は問題は起こらないはず。
そう、俺が滞在している間は……だ。
俺は一月後には、街を出ていかなければならなかった。
でないと主人公にロックオンされ、延々追いかけ続けられる羽目になるからだ。
それは絶対避けなければならない。
因みに、ゲヘンと組んで主人公を始末するとかそう言った選択肢は無しだ。
悪事を働いてない正義の人で、純粋な被害者であるレイヤを殺すなんて嫌だし。
何より、主人公であるあいつが死ねばこの世界は滅びる事になってしまう。
そして邪神が倒せなければ、当然俺も死ぬ。
そうなったら本末転倒も良い所である。
「ふーむ……」
一月後に俺が黙って姿を消せば、間違いなくデブラーの不興を買う事になるだろう。
穏やかに好待遇を示したり、おやつ接待?してきたのは、アイツが俺を取り込む気満々だったからだ。
それを無碍にする様な真似されれば、確実に怒り狂うはず。
そしてその怒りの矛先は、俺がいない以上、親しくしていた人間――子供達に向く事になるだろう。
それを防ぐ方法は、子供達を一緒に連れて街をでるか――
「あんまり気は進まないけど……やるしかないか」
何を?
もちろん、ゲヘンの壊滅だ。
無くなってしまえば、子供達が組織から危害を加えられる心配は無くなるだろう。
「けど……」
正直、迷う。
壊滅自体は、それほど難しく事ではない。
数が多いとはいえ一般構成員のレベルは10ちょっとだし、ナンバーワンツーですら20代前半だ。
エヴァン・ゲリュオンの敵ではないだろう。
問題があるとすれば、それはメインストーリーに関する事だ。
ゲヘン壊滅は、主人公であるレイヤが関わるメインストーリーの一部になっている。
それを俺が横取りしてしまうと、色々と問題が起こりかねない。
仲間に入る奴が入らなくなったり、倒すべき敵が減った事でのレベル不足など。
この辺りがパッと思いつく弊害だ。
レベル不足と仲間の欠員が同時に起こったりした日には、それこそ目も当てられない事態になる。
メインストーリーのラストは、邪神の討伐だからな……
戦力不足で主人公が負ければ、この世界は滅びる事になるだろう。
なので、レイヤには絶対に勝って貰わないと困るのだ。
「それでなくても、ゲリュオン関連が丸々無くなってる訳だからだからなぁ。レッカの件もどう転ぶかわからんし……」
クッソ強いゲリュオンは、主人公からすれば経験値の塊だ。
だが俺が戦わず逃げるという選択肢を選んでしまっている以上、レイヤ達にその大量の経験値を獲得する機会は決して巡って来ない。
レベル不足待ったなしである。
世界の為を思うのなら、俺は主人公に倒されるべきと言えなくもない。
が、世界運命と自分の命。
天秤に賭けたらどっちが重いかなど、考えるまでもないだろう。
――もちろん自分の命だ。
良く分からん世界の為に、犠牲になんてなってたまるかよ。
俺が生き延びたうえで、レイヤには世界を救ってもらう。
それこそが真のハッピーエンドだ。
因みに、元の世界に帰りたいとかは特に考えていない。
どうせ現実の世界に帰っても、退屈で糞詰まらないだけだからな。
「せめてカルマ値が0に出来てりゃな……」
それなら主人公対ゲヘンの戦いに合わせて、街から抜け出せばいいだけだった。
だが0所か、この2か月間、1たりともカルマ値は増えていない。
マイナスは150のまま。
この数値だと、同じ街に居ると絶対見つかってしまうだろう。
「ギリギリまで粘って、子供達を連れて街を出るってのが……」
世界の事も含めて考えると、それが一番丸い気がする。
ただその場合、高確率でチャゴ達はゲリュオン山賊団として国に指名手配される事になってしまうだろう。
脱出した翌日辺りに主人公がゲヘンを壊滅してくれれば、そうならずに済むかもしれないが……
流石にそれを期待するのは、頭がお花畑過ぎるというもの。
「うーむ…………」
俺が主人公にはみつからず。
メインストーリーにも影響を与えず。
更に、子供達の将来を明るい物にする。
そんな名案がないかと思案するが、当然そんな都合のいい考えなど俺の知能では浮かんで来る筈もない。
「よし!滅ぼしちまおう!」
色々熟考した結果、俺はゲヘンを滅ぼす事を決める。
影響はどうするのかだって?
――危機感を煽ればいい。
主人公も馬鹿なじゃないので、力不足を痛感すれば強くなろうと努力するだろう。
サブイベント熟すとか。
訓練したり、魔物を狩ってレベル上げするとかして。
そうして強くなれば、レイヤ達は邪神に決して負けないだろう。
そのための危機感をどうやって煽るのか?
簡単な事だ。
姉の仇である俺が壁になる。
主人公の歩く王道に立ちふさがる、大きな壁に。
俺が強ければ強い程、姉の仇を取る為主人公は強くなる筈だ。
「逆転の発想って奴だな」
今までは、どうやって主人公から逃げ切る事しか考えて来なかった。
だが、逆に見つかってもいいのだと考える。
攻撃してくるのなら、返り討ちにすればいいのだ。
「我ながら名案だ」
もちろん、それは簡単な事ではない。
何せ主人公達はゲリュオン程ではないとはいえ、天才の集団だ。
こっちは単独なので、ストーリーが進んでレベル差が縮まりメンバーが増えてくれば、圧倒するどころか逆にボコボコにされるのは目に見えている。
――普通なら、だが。
「勝手知ったるゲーム世界だからな。ここは」
ゲームは攻略したらそこで終了するタイプと、攻略後に隠しダンジョンなどのエンドコンテンツを用意してあるタイプがある。
前者は周回系のゲームが多く。
後者は長編物なんかで多い。
そしてジャスティスヒーローは後者で、クリア後に隠しダンジョンが用意されている。
俺はそれを利用するつもりだ。
え?
クリア後にしか入れないんじゃないかって?
問題ない。
何故なら――それを無視できるバグがあるからだ。
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