第16話 招待

「いやー、驚いたぜ。偶々街であんたを見かけた時はよう」


ザコッパはニヤケ面だ。


かつて脱走の際、奴はゲリュオンにしっぽ切りされている。

当然その事を恨んでいだろうから、ここへは復讐の為に現れたと考えるのが妥当だ。

顔が笑っているからと言って油断はできない。


てか、ムカつく顔してんな。

こいつ。


「何の用だ?まさかとは思うが……俺を殺しに来たなんて、つまらない冗談を言いに来たわけじゃないだろうな?」


俺はザコッパに、殺気を込めて威圧的に接する。

威嚇だ。

俺に手を出せば、死ぬ事になるっていう。


因みに、以前ゲリュオンのやった事を俺が代わりに謝るという選択肢はない。

出来れば穏便に済ませたい所ではあるが、ゲリュオンの記憶にあるザコッパはどうしようもない屑だった。

そんな奴相手に謝罪して穏便になんてのは、絶対に無理だ。


とにかく、今は相手をビビらせてここから追い払う。

そして奴らが去ったらハイパーステルスを使って後をつけ、人気のない辺りで始末する。

子供達の見ている前で人を殺すのは、教育上宜しくないからな。


「は……ははは、俺だって身の程は弁えてるさ。そんなつもりは更々ねぇよ」


俺の殺気にザコッパが一瞬顔を引きつらせるが、奴は直ぐにムカつくニヤケ面へと戻る。


「実は今、俺はゲヘンに所属してるんだよ」


「……」


ゲヘンは、この街を実質取り仕切っている犯罪組織である。

どうやらザコッパは脱獄後このメゲズの街に流れつき、お似合いの組織に入った様だ。


……こいつが堂々と俺に接触してきたのは、大きなバックがいるからか。


ちょっと面倒臭い事になった。

ザコッパに手出しすれば、組織から狙われる事になるだろう。

俺一人だけならともかく、子供達を守りながらと考えると少々厄介だ。


「でよう。そこのボスが、是非あんたに会いたいって言ってるんだ。俺が今日ここに来たのは、その伝令の為さ」


「俺に会いたいだと?」


「あんたの悪名は、この国じゃちょっとしたもんだからな。ボスは是非とも、ゲヘンに勧誘したいみたいだぜ」


どうやらザコッパがここに来たのは、大きな後ろ盾を笠に着て復讐しに来たのではなく、俺を勧誘する為だった様だ。

まあ、どっちにしろ厄介な事に変わりはないが。


「てな訳で、ボスの屋敷にまで付いて来て貰えるか?まあ、嫌なら無理強いはしねぇよ。けど、その場合ボスがどう出るか……」


ザコッパ俺の背後を見て、ニヤリと笑う。

拒否すれば、子供達を標的にすると言わんばかりに。


今の俺と子供達の関係を、完全に把握されてしまっている様だ。


一か所に長く留まった弊害か……

一応、関係が周囲に広がらない様、塒の外では同伴しない様気を付けてはいたんだがな。


今この場で一緒に食事していた事もそうだが、食糧や、子供達の衣類なんかを大量購入している事。

それに街中をうろついて金目の物を拾ったり、仕事を探していた浮浪児が姿を見せなくなった事。

其の辺りの情報を組織的に調査されたら、まあ隠し通す方が難しい。


「……」


奴の言葉に、俺は押し黙る

正直、その気になれば子供達を守り抜く事は可能だ。

側にいる間は。


だが俺は、主人公レイヤが来る前にこの街を離れなければならない。

マイナスの大きい状態で同じ街に留まれば、確実に俺の存在を捕捉されてしまう。

正確に奴の到着タイミングが分かるのならともかく、それが分からない以上、早めにこの街から出ていく必要がある。


――つまり、俺の離脱からレイヤの到着までにはタイムラグが発生する事になるのだ。


組織の奴らは『ゲリュオンが消えたからしょうがない』では済まさないだろう。

確実に子供達に危害を加えようとするはず。


チャゴとゴンザの腕はもう中々の物だし、カニカや何名かは、最低限の魔法が使えるようになっている。

ちょっとした相手なら、撃退するぐらいの力はあると言っていいだろう。


だが、相手がこの街を仕切る組織となれば話は別だ。

非力な他の子達を守る中、物量で押されればきっとひとたまりもない。


……ほんとに参った。


取り敢えず――


「わかった。会いに行こう」


――敵対するという選択肢は、一旦封印する。


それが子供達の安全を守る為にとれる、一番の手だ。


彼らを連れて、街を出ればいいじゃないか?


それは安易に使っていい手ではない。

もしそれを決行した場合、チャゴ達がゲリュオン山賊団の一員として指名手配されるる可能性が高いからだ。

ゲヘンは、貴族である都市長と繋がってる訳だからな。


浮浪児として肩身の狭い思いを強いられていた彼らに、更に凶悪犯罪者のレッテルまで着せるなんて真似はしたくなかった。

だからもし、彼らを連れて逃げるのなら、それは本当にどうしようもなくなった際の最後の手段だ。

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