第4話 悲鳴

山を抜け、街道から外れたけもの道を俺は真っすぐ南へと向かう。

悪名高い山賊として手配されているので、堂々と街道なんかを進む訳にはいかないからな。


「ふぅ……もうちょいだな」


俺の目的地は、アイルー村のずっと南。

ブレイブ王国南部、エーテル地方にある大きな沼だ。

そこには、人を丸呑み出来てしまう程大きな蛇の魔物が住み着いていた。


そんな大蛇出る以上、当然危険な場所になる訳だが……


この沼地には超が付くレベルの貴重な薬草が極稀に取れるという事で、それ目当てで多くの人間が訪れる。

そのため、大蛇による被害は毎年結構な数に上っていた。


「人間の欲望ってのは、恐ろしいもんだよな。まあ俺なら絶対、命を賭けてまで金儲けしたりはしないけど」


因みに、沼地の大蛇退治はすでに何度も行われていたりする。

全部失敗に終わってしまっているが。


これは大蛇の強さというよりも、その類稀なる危機察知能力の高さのせいと言えるだろう。

要は死ぬ程勘がいいのだ。

そのため大蛇は自分より強い者、もしくは自身を殺しうる集団の前には、絶対に姿を現さない。


……殺せる相手の前にしか姿を見せないんだから、そりゃ退治なんて出来るはずもないよな。


じゃあどうやって倒すのか?


優秀な隠密系のスキルや魔法は、危機察知能力すら欺く。

なのでゲーム内では、主人公は仲間の一人が使う強力な隠密系の魔法を活用して退治している。

俺もそれに習うつもりだ。


「ゲリュオンは基本、何でもできる天才だからな」


高レベルの隠密系のスキルを、奴は習得していた。

逃亡も視野に入れる必要がある山賊活動には、必要だと思ったのだろう。


……ま、主人公の持つ正義属性の探索スキルの前では無意味だった訳だが。


「ハイパーステルス!」


沼地も近くなって来たので、俺は早い目にスキルを発動しておいた。

此方の気配に気づかれると、そのまましばらく姿を現さない心配があるからな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ハイパーステルス


一般的な隠密スキルである、ステルスの上位互換版。

習得が相当難しいスキルではあるが、その分気配遮断効果は高く。

更に傍に寄るまでその姿が見えない、簡易的な可視透過機能も備わっている。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


このスキルは時間当たりのMP消費が若干大きめなのがネックだが、ゲリュオンは並の魔法使いなどより最大MPがよっぽど多い。

更に自然回復能力――激しく動くと効果が低下する――を大幅に高めるスキルも習得しているので、無駄に暴れたりしない限りはこのスキルだけでMPが枯渇する様な心配はなかった。


因みにゲリュオンの能力は――


【ネーム:エヴァン・ゲリュオン】


Lv :42

HP:3220

MP:2710


才能:森羅万象

属性:光・火

特殊性質:悪鬼


カルマ値:-681


スキル:・スラッシュ・パワースラッシュ・光刃斬・光波輪・デビルブーメラン・デビルクラッシュ・デビルハンド


特殊スキル:悪食・ハイパージャンプ・ステルス・ハイパーステルス


魔法:光魔法Lv3・火魔法Lv4・水魔法Lv2・風魔法Lv2・土魔法Lv2・雷魔法Lv2・闇魔法Lv6


装備:バトルアックス


――といった感じだ。


ゲームだと筋力なんかのステータスも見れるのだが、俺自身でそれを確認する事は出来なかった。

まあ多分、プレイアブルキャラではなく敵キャラだからだろうと思われる。

主人公勢が敵ステータスを特殊魔法で確認する時に見えるのが、こんな感じになってるし。


才能はレベルアップ時の成長や、訓練時の成長速度に影響して来る物だ。

森羅万象はその最高ランクで、ゲーム中ではエヴァンともう一人だけがこのランクになっている。

味方側で最高ランクの主人公はワンランク落ちる神才なので、実質敵専用の才能と言っていいだろう。


属性はステータス補正がかかり、対応した属性の魔法習得速度や効果が上がる。

基本的に一つだが、稀に複数の属性を手に入れる者がいたりする。

主人公やゲリュオンがそうで、これは多い方が確実に有利だ。


特殊性質は、ほとんど持っている者はいないレアな物だ。

主人公の様に生まれつき持っている人間は極稀で、特殊な資質のある人間が強い精神的ショックを受けた時なんかに発露する事が多い。

ゲリュオンは過酷な監獄生活の中で、悪鬼と言う特殊性質を覚醒させている。


効果は悪鬼系列のスキル習得――デビルの名前が付いているスキルがそれ。

闇属性魔法を自然習得――レベルに合わせて自然と使えるようになる。

全ステータスの大幅上昇――50%アップ。

そして状態異常に対する耐性の四つとなっている。


習得魔法が光Lv3や、火Lv4と表示されているが、これは覚えている属性魔法の中で最もランクの高い魔法が――魔法は効果でランク分けされている――基準になっている。

そのため火Lv4と表示されてはいても、そのランクの火属性魔法が全て使える訳ではない。


「さて、さっさと見つかってくれると有難いんだがな……」


大蛇のレベルは30くらいだったはずなので、まず負ける事はないだろう。

まあ仮に同レベル帯だったとしても、蛇は所詮サブイベントのボスで、こっちはメインストーリーで強敵となる天才中ボスである。

それでも負ける心配はない。


「ひぃやぁぁぁぁぁぁ!!」


沼近辺にまで近づいた所で、少し間抜けな高い声の悲鳴が聞こえて来た。

ひょっとしたら、レアな薬草目当てに来た採集者が大蛇と遭遇したのかもしれない。


「チャンスだな」


悪い奴を倒せばカルマ値は上がる。

そして、他人のピンチなんかを救っても同様にカルマ値は上がってくれる。


危機的状況の人間を救助しつつ。

大蛇を倒す。

まさに一石二鳥だ。


俺はステルスは維持しつつ、急いで声の聞こえた方へと向かうのだった。

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