第3話 天才

手下達を一掃した俺は、村を出て険しい山中を進む。

足取りを追われない様にするためだ。


エヴァン・ゲリュオンはお尋ね者だ。

なので、気を付けなければならないのは主人公だけではなかった。


「さて、どうしたもんかね……」


レイヤがスキルを習得し、騎士学園を卒業するのは約半年後だ。

可能ならば、その期間でカルマ値のマイナスを何とかしたいところ。


だが、それは現実的に考えて無理があった。


「凶悪な山賊団を殺して、たった+1だもんなぁ……」


ゲリュオンの――俺のカルマ値は、現在マイナス681。


「山賊団681個壊滅を半年……うん、むり」


ゲリュオン山賊団くらい凶悪な山賊団を、681個も半年で壊滅させるなど無理ゲーも良い所である。

そもそも大陸中探し回っても、681個も絶対ないだろうし。


「まあ半年での達成は諦めて、対処としては国を出るとして……」


レイヤの悪人を見つけ出す魔法の範囲は、相当広くはあるが決して無限ではない。

そのため、この国を離れさえすれば半年以上の猶予を稼ぐ事は可能だ。

なにせ卒業後しばらくは、国内での活動がメインだからな。


「山賊狩り以外の、効率のいい行動も候補に入れないと駄目だな」


とは言え、それで稼げる時間は残念ながらそれ程多くはない。

なのでどちらにしろ、可及的速やかにカルマ値を稼がなければならない。


「まあ多少リスクは上がるけど、ある程度大物を狙っていくとするか」


人々の生活を脅かす凶悪な魔物。

理不尽な統治で、民衆を苦しめる貴族。

そして、メインストーリー関連の邪教の徒達。


カルマ値を一気に上げるには、その辺りの大物を狙うのが手っ取り早い。

すくなくとも、ゲーム内で主人公のカルマ値を上げる時はそうだった。


え?

山賊如きが大物なんて始末できるのかだって?


可能だ。


ジャスティスヒーローは、公式サイトに敵を含めた各キャラの設定などが置いてあった。

その中には当然エヴァン・ゲリュオンのデータもあり、もし味方になっていれば、主人公を超える大エースになっていたと記載されている。


つまり、超が付く程の天才なのだ。

エヴァン・ゲリュオンは。


かつて世界を救った勇者の血を引いているのは伊達じゃない。


「ゲームの戦闘でも、10対1で戦って何とかって感じで表現されてるからな」


まあゲームの方はレベル差もあっての事だが。

何せゲリュオンは人を殺しまくって――人を殺しても経験値は入る――るからな。


「取り敢えず、適当な奴を狩りにいくとするか」


主人公はパーティーで行動しているのに対し、ゲリュオンはソロである。

いくら才能があったとしても、カバーしてくれる人間がいない以上、無理をするのは危険だ。

なので出来る限り、安全に倒せそうな奴を狙って行く事にしようと思う。


パッと思いつくのは――


「沼地の大蛇だな」


俺は思いついた大蛇狩りの為、南へと向かう。

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