お気に入りの空

猫又大統領

読み切り

 僕の町は人間と僕らが争っている場所からとても近いが、町で一目置かれている長老たちが力を使って守ってくれている。

 その力はこの町を人間からはただの森に見せるというものらしい。僕にはただの町にみえているので長老のすごさはまったくわからないけど、町の人たちはとても感謝していた。

 そんな町が見下ろせる深い緑色の山へ二人で最後になるはずのピクニックにきていた。

 この山に登ると、てっぺんからいつもマトの日記を読むのが習慣になっていた。その日記は明日に起きることがわるというものだった。この能力はとても特殊で様々な能力を持って生まれる僕らの中でも聞いたことがなかった。

 「ねえ、明日から戦場に行くって本当?」

 町を眺めながら近所に住む同じ年のマトが聞いてきた。

「うん」

 僕はマトを異性と認識するようになってからマトの笑顔に幸福を感じていた。僕が彼女を幸せにできないことは知っているのに。

「ごめんね……」

「あやまらないでよ。決まったことだよ。逃げるなんて臆病なことはしないよ」

 僕もマトもきっと原因はわかっていた。この町から初めての徴兵が何故僕なのか。

「でも……」

「暗くなるからそろそろ帰ろう……」

「え……ちょっとまだ大丈夫だよ」

 これ以上この話をすれば僕は感情を出してしまいそうだったから僕は帰りたかった。

「ああ……あのね。明日の日記見る?」

 マトは赤い日記帳を取り出した。』

「いいよ……この町を明日離れる僕には関係ないから……」

「あのね。明日のタイトルは『お気に入り空』今はそれだけ教えてあげる」

 そういうと彼女はきれいな笑顔を作った。

「晴れるってことかな。空も俺を見送ってくれるのかな」

「どうだろう」

 少し下を向きながらマトがこたえた。

 それから、マトと僕は無言で山を下りた。でも僕は山を下る道を歩きながらあの時のことを思い出していた。道に迷い、暗くなった道につまづいてマトは足にケガをしてしまった。僕は背負いながら街灯が照らす町に戻った。町ではマトが居なくなったこで騒ぎになっていた。

 僕が町でぬれぎのを着せられたとき、山で一晩寝ても誰も探さなかった。マトがいつもの時間に帰宅をしていないと町大騒ぎになる。何故ならマトのおじいちゃんが長老の一人だったからだ。

 あの出来事で僕は現実を知った。もとから知っていたけど叩きつけられたことは初めてだった。

 長老を輩出するような家系に僕のような流れ者が不釣り合いだということなのはわかっていた。

 僕はマトの友人としてこの町から離れることを決めた。 


 僕は昨日から緊張と準備でほとんど寝ていないのに山に登ったので帰宅すると疲れがどっときてすぐに眠ってしまった。

「おきて! おきて!」

 マトの声がした。

「ど、どうしの」

「山、最後だから山にいこう。ね。最後のお願い」

 僕は黙って聞きいれ。二人で本当に最後になるてっぺんについた。 

「ねえ。ほらみて」

 

マトの指さす空の遠くから、たくさんの小さい粒がみえた。しばらして轟音と物体がはっきりと目でとらえることができた。何百という航空機が町の空を覆い、町は炎と煙に飲み込まれた。


 マトは澄んだ瞳で僕に笑顔をくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お気に入りの空 猫又大統領 @arigatou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説