イケニエ・ロック・フェス

高取邦彦

イケニエ・ロック・フェス(上)


「ウェイ、2枚渡すわ」


 自分が大富豪になったとき、相手に渡すカードは何が最も優れているか?

 手札に2枚ある3最弱? あるいは毒にも薬にもならない7や9真ん中?


「おう、じゃあ代わりのカードこれな」


 俺は、本来は真ん中辺りのカードを適当に散らして渡す派のタイプの人間だ。

 だが今俺の手にあるのは4枚の4と、数枚の中央値のカードたち、、

 そして貧者から徴収することによって得た多量のキングとエースと2。


 仮に革命が成ったとしても、革命成立の一瞬はまだ4枚のカードを通す隙間がある。

 この強い強い手札において革命を長引かせる必要性は一つもない。革命を打たれたら何も考えずに革命を返してしまった方がいい。

 また、逆に言えばそのタイミングでしか4を4枚出すことはできないだろう。

 そうなると通常状態で3を2枚出すことなんて早々ない。適当に絵札をポンポンと出していれば勝てる。


 となれば渡すカードは使い所のなさそうな3を2枚。

 本来であれば革命のときに勝ち筋として残すべき2枚であるが、残念ながらこの場において革命は起こり得ないのだから。


「じゃあ俺から。6を4枚で革命スタートでシャス!」

「革命は許さんよ。4を4枚で革命返しだ」


 ゲームが始まり、懸念事項の革命も4枚残した4できっちりケア完了。

 これで俺の勝利は――


「ん。10を4枚出す革命返し返し

「圭ィィィィ! ふざけるなァァァァ!!」

「アッハハハハハ笑笑」

「俺大貧民でそんな顔するやつ初めて見たわ笑笑」


 無くなったのであった。ちゃんちゃん。



――――――――――――



「じゃあ俺ペ○シ」

「あーしはコ○コーラ」

「わたしド○ペ」

「全員炭酸なのはいいとしてせめて統一しないか?」


 俺――葉加瀬 湘はかせ しょうは、都内の大学1年生。周囲の人とあまり関わらない孤高なソロプレイヤータイプの人間。

 ……なのだが、新入生オリエンテーションで一緒になったヤツに誘われ、

 彼の生まれた純恋島じゅんれんとうに招待されたのであった。


 季節は夏、それも大学1年目の夏季休暇。

 家から出る必要もない季節と時期なのに、なんでこんな離島の、しかもちょっとデカい家に居るか……は、とりあえず後で千屋に聞くとして。


「ペ○シとコ○ラとド○ペて……ウケる笑」

「ウケるな」

「で湘は何派? やっぱド○ペ? 葉加瀬だけに?」

「俺は午○ティーだが……」

「んっふ笑笑 ぽいわー」


 この失礼に片足を突っ込んでいるチャラいノリの男が千屋 来人ちや らいと

 フェリー2本を乗り継いで来るような離島の出身であり、俺とか他の奴らをここに呼んだ元凶みたいな男。

 この離島への旅行代を持ってくれたのと、今ここにいる家のサイズと一人いるお手伝いさんみたいな人を見ると、たぶん地元の豪族みたいな生まれなのだと思う。

 口調はアレだけど。


「というかそもそも離島に似たような色の炭酸3つもあんのか?」

「あーし前来たときコンビニにあったからあるっしょ」

「無いなら湘に貸しが作れるから問題はない」

「喜屋武さんはともかく圭は問題しかねえだろ。ド○ペで貸しを作るな。そもそもお前あんまり飲まねえだろ。」

「大丈夫っしょ湘。確か全部あるから」

「あるんかい。凄いな離島のコンビニ」

「チッ」

「いや圭は圭で舌打ちするなよ」


 いかにもギャルギャルしい口調で喋るのは喜屋武 流子きゃん るこ。ここにいる全員は誰も呼ばないがあだ名はギャル子。

 この島に誘った張本人である千屋の彼女で、口調の見ての通りギャル。

 そして俺の都を落としたのが風間 圭かざま けい

 俺の高校時代からの友人であり、ギターとかいう陽の趣味を持ちながら俺と同じソロプレイヤー側で俺以上の出不精人間であったはずだが、なんかこいつもついてきた。


「まあ負けたから買ってくるけど……贄川にえかわさーん、今からコンビニ行きますけど、なにか買ってくるものはありますかー?」

「いえ、私は特に……。ですが、ご歓談の邪魔になるようでしたら私が行きますが……」

「いや罰ゲームですしお仕事の邪魔をするわけには……じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ。お戻りの時間に食事ができるようご用意させていただきます」


 というわけでお手伝いさんにひと声かけ、大貧民である俺は富豪たちのパシリをするのであった。



――――――――――――



「ザッス。ウマかったッス」

「えー冷製パスタとかセンスありすぎー。撮っとけばよかったかもー」

「いえ、このくらい普通です」

「フツーでそんな手の込んだヤツあーしには無理だって!

 あっ贄川さんL○NEやってます? 来人の好みとか聞いてみたいんで!」


 帰ってきたタイミングでちょうど昼食が完成しており、早速頂いた。

 自分がクソ暑い日差しの下にいたのもあり、頂いた冷製ソースのパスタは最高に美味しかった。


「俺も美味しかったです。ご馳走様でした」

「湘くんメッチャ礼儀いいじゃん。俺より良いんじゃね?」

「いや美味いものに美味いって言って感謝するのは礼儀でもなんでもなくあたりまえだろ」

「おっ紳士ィ! さっすがー!」

「褒め方が雑だな……あ、なにかお手伝いしましょうか?」

「……いえ、お客様のお手間を取らせるわけにはいきません。では何かご用があればお呼びください」


 と、お手伝いさん――贄川にえかわさんはそれだけ言い、食べた後の食器たちを片付けていった。


「…………」

「てい」

「痛ェ。手を踏むな手を」

「なんかムカついたから。つい」

「ついじゃねえよ」


 そんな贄川さんの姿を目で追っていたら圭に足を踏まれた。

 ……いやしゃあねえだろ、スタイルのいいおしとやかで綺麗なお姉さんが目の前に居たら、男はそういう気持ちちょっと持っちゃうだろ。

 お前と違っておっぱいおっきいんだぞ。ゲヒヒとかウヘヘとか思っていいだろ。

 ……と言いたいが、この場にいる男は俺と千屋(彼女持ち)しか居なかったため口に出すのはやめておいた。


「……で、じゃあ本題に入るか」

「おっ本題入っちゃう?」

「いやお前が呼んだんだろ。なんか問題があるーって言って俺にこの島まで来てほしいって言ってただろ」

「あー……」


 少し真剣な表情になった来人は、部屋の扉や窓が閉まっていることを確認してこう言った。


「……この島の、18年に一度あるフェスのことで相談があって……」

「18年に一度、えらい中途半端だな。ってか祭りの読みはフェスなのか」

「わらべ唄に合わせて儀式をして、生贄の命を神様に捧げる的なよくあるフェスがあって」

「生贄の命を捧げるフェスが現代日本にポンポンあってたまるか」

「ついでにいうとそのフェスは明後日ある」

「タイムリミットが唐突すぎる」

「……そのフェスを、どうにかできないか、と思って相談したかったんよ」

「まあどうにかしたいタイプの祭りではあるな……」

「お願いっ! あーしらの知り合いで賢そうなのハカセっちくらいしか居なくて頼む相手も居なかったの!」

「俺も生贄とか命を捧げるとかアホらしいから、どうにかしたいんだよ! このとーり!」


 来人に加え、喜屋武さんも頭を下げてきた。

 言葉はともかく、普段チャラチャラしている二人がここまで真剣に頼みこんでいて、本当になんとかしたいんだろうなという気持ちは伝わってきた。


「あー……ここまで来たしまあそれはいいんだけど」

「ナイスハカセっち!」

「サンキュー湘! そのオタクな頭脳で贄川さんを救ってくれ!」

「オタクな頭脳ってなんだよ……って、贄川さん?」

「そう。……生贄ってのは、贄川さんのことなんよ」



――――――――――――



「これは、あーしらが先月行ったラブソングフェスの時に聞いたんだけど……」

「待て、奇祭の説明の導入で奇祭を用いるな」

「? ただカノジョの好きなところを歌に乗せて競い合って、勝ったら永遠の愛を約束される的なよくあるフェスよ?」

「わたし、千屋にお願いされてギター教えた。意外と上手だった」

「えっ俺以外知ってるの? ラブソングフェスとかいう奇祭を知らないの俺だけ?」

「まあそこで優勝して、【若旦那】の称号を俺たちは得たわけなんだが」

「情報のノイズが凄い」



『愛を叫んだ新しい【若旦那】には、ちょうど来月に最初のデッカい仕事がある!

 それは――――、【イケニエ・ロック・フェス】のメインボーカルとして、そのわらべ唄を歌い上げることだ!!』



「イケニエ・ロック・フェス」

「俺も初めて聞いたからじっちゃんに聞いたんだけど、島で一番ノリの悪いヤツを神へ生贄に捧げるフェスらしいんだけど……」

「いやそういうのって神への供物だから清らかな乙女だとかそういう理由で若い女性が選ばれるんだろ。ノリの悪い奴ってなんだよ。というか大体こういうのって島の外から来た俺らみたいなのが生贄になる話だろ」

「それはない。わたしたちは離島に来た時点でノリが良い寄り」

「うわ凄い納得感」

「はい論破」

「いや論じた覚えはないが……」


 そんな茶々を入れながら、千屋の話に耳を傾ける。


「……俺さ、ガキの頃からこの島で育ってて……贄川さんにはお世話になってたんよ。

 家族はみんな毎月ある祭りの運営で忙しいし、この島には同中(おなちゅう)の奴らも一人も居なかったし……。

 そんな中でお手伝いさんとして来てくれた贄川さんは……ぶっちゃけ初恋とかそんな感じの人なんよ」

「ちょっと来人、あーし初恋の人の下り聞いてない」

「しかもえっちじゃん贄川さん! そういう意味でもお世話になってたんだよ!」

「来人?」

「それなのに俺の歌に合わせて贄川さんの命を神に捧げるとか……ありえねえっしょ! えっちなお姉さんの初めては同年代の男の子がいい! 神様とかそんなオッサンに奪われたくない!

 だから……頼む! 俺に手を貸して痛い痛い痛い絞まってる絞まってる」

「欲望ダダ漏れで神への冒涜が華々しすぎる。命どこ行った」

「女性の初めては同年代の男の子がいいは大賛成だけど、口に出されるとわたしですらちょっと引く」

「来人? 隣りにいるカノジョのことなんだと思ってる?」

「ちょっと待ってるー痛い痛いギブギブ首は危ないダメダメ」


 強い想いを吐き出した千屋(と、息を吐き出せなくしている喜屋武)。

 その中身はまあ置いておいて、それだけ長い時間を共にした人を、間接的にとはいえ自分の手で殺すようなことはしたくないだろう。


「まあさっきも言った通り俺は協力するが……」

「当然。わたしも協力するけど……」

「とにかく情報が足りないな。まずは情報収集だ。聞き込みとか、儀式の中身とかから調べないとな。

 ところで、お前が歌う予定のわらべ唄はどんな内容なんだ? こういうのって大体わらべ唄にヒントがあったりするだろ」

「ハーッ……ハーッ……あ、それはサブスクにあるからそっちから落としてほしい。【純恋島】の【生贄】ってタイトルの歌だ」

「サブスクに落ちてる因習わらべ唄ってなんだよ……」

「……すごい。本当にあった。ダウンロード数124だって」

「あるのかよ……じゃあまあそっちは圭に任せるとして……」

「儀式のことについては俺とるーがリハに呼ばれてるから、そこで聞いてみんよ」

「なら俺は贄川さんに聞いてみるか。……本人はよく知ってるだろうしな」


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