あなたは信じられますか?

物部がたり

あなたは信じられますか?


 ジャーナリストのれいは、以前から「ヨウム真言教」という新興宗教団体を調べていた。だが、ヨウム真言教のガードは固く、政治的な力も働き容易に内部情報を知ることはできなかった。

 そんなある日、信者の女性かられいのもとに情報が入った。

 ジャーナリストをしていると、以前からヨウム真言教の良くない噂を耳にすることはあったが、政治的問題から教団内にメスを入れることはタブー視されていた。

 そのため、女性は政治的圧力に屈しないことで有名だったジャーナリストのれいに直接コンタクトを取ってきたらしい。


 女性は教団内で起こっている、教祖を始めとした幹部たちによる女性への性的暴行や、暴行・恐喝、霊感商法、金品の喜捨、信仰の強制などの内部情報を打ち明けた。

 そして、これが最も重要な情報だった。

「ヨウムは化学兵器の研究をしているんです……」

「化学兵器?」

「はい……。早く手を打たないと、取り返しのつかないことになってしまうかもしれないのです……」

「取り返しのつかないこととは? 厳密に言うと」

「テロ……」

「テロ?」

「信じてください! 本当なんです!」

「信じますよ。以前から良くない噂があるのは確かなんですから」

「ありがとうございます。この証拠を役立ててください」


 それは、ヨウムの内部文書と録音データだった。

「これがあれば、どうにかなるかもしれませんよ」

 れいは、この情報をどのように公開したものか思案した末、以前から世話になっているカストリ雑誌に、公開してもらうことを決めた。

 小さな出版社だが、いや小さな出版社だからこそ圧力に屈しないことで定評ある出版社だった。

 預かった証拠データを公開できれば、教団を破滅に追いやることはできないまでも、政府は動かざるを得なくなるだろう。

 だが、出版社に情報を提供して数日後、ありもしない濡れ衣を着せられ警察に捕まった。

 

 もちろん、れいは何の罪も犯していなかった。れいを捕らえるため政治的力が関与しているのは明白だった。

 れいは無実を訴えるが、話しにならなかった。何日にも及ぶ尋問、ときに拷問とも取れる肉体への責苦を受けた。

 れいは睡眠も許されず、精神的にも肉体的にも追い詰められ、とうとう身に覚えのない罪を認めてしまった。

 正気に戻ったれいは再び無罪を訴えたが、一度認めてしまったが最後、虚偽は真実となってしまう。


 れいは刑務所に入れられた。外部との連絡手段を絶たれ、鉄格子の中に閉じ込められた。

「れいさん。お薬とお食事を持ってきましたよ」

 れいは食事を持って来た看守を捕らえて訴えた。

「ここから出してくれ。早く真実を世間に公表しなければ取り返しのつかないことになるんだ!」

「はいはい、そうですね。良くなったら出られますからね」

「何をいってるんだ! 今すぐ出してくれ! 僕は無実だ。早くしないとヨウム真言教がテロを起こしてしまうかもしれないんだ!」


「何度言えばわかるんですか。オウムだか、ヨウムだか知りませんが、そんな宗教団体はありませんよ」

「あなたは何をいってるんだ。そうか、やっぱり警察もグルなんだな」

「だからぁ、私は看護師だといってるじゃないですか」

「看護師? あなたは何をいってるんだ……。おかしいんじゃないのか!」

「はいはい、わかりましたから。落ち着いてください。食事がすんだら、お薬飲んでください。落ち着きますからね」 

 看守は再び鉄格子の向こう側に消えた。


』 

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