第3章 飛躍する物語の章

第27話 シルザールの街でまた捕まった

 シルザール守護隊の詰所で牢屋に入れられてしばらく放置された。連れて来られた理由は教えてくれなかった。師匠も来ない。突然の展開に俺はちょっと付いて行けてない。


「おーい、誰か事情を説明してくれないのかぁ?」


 叫んでみても誰も来ない。俺は不貞腐れて眠ることにした。牢屋は出られないしどうしようもない。魔法で破れるかとも思ったが、ケルンの守護隊詰所とは違って魔法に対する防御が施されているようだ。俺程度の火球ではどうしようもない。


 一晩牢屋に入れられて次の朝になってしまった。


「おーい、流石に朝飯は出してくれるよなぁ」


 大きな声で騒いでいると、看守の男が朝飯を運んできた。


「なあ、俺は何でここに入れられてるんだ?」


 看守に聞いてみたが、やはり答えてくれない。それどころか一言も発しないで行ってしまった。


「うっ」


 なんだ、急に具合が悪くなってきた。まさか、毒か。いきなり毒殺かよ。


 しばらくすると、目覚めた。一回死にかけたようだ。死なないのはいいが、この痛かったり苦しかったりするのは勘弁してほしいもんだ。そこへ看守が戻って来た。俺の顔を見て驚愕の表情を浮かべている。


「お、おい、朝飯は食べなかったのか?」


 思わず看守が聞いてきた。見ればわかるだろう、完食したさ。


「全部食べたぜ、なにかあったのか?」


 俺は知らない顔して答えた。


「いや、それならいい。食器を引くぞ」


 そう言うと看守は急いで外に出て行った。誰かに報告に行ったのだろう。そして別の男を連れて戻って来た。


「おい、さっきの朝飯は本当に全部食べたのか?」


「そう言っているだろう。残したら農家の人に悪いからな」


 看守ではない男が重ねて聞く。


「率直に訊こう。お前はなぜ生きている?」


「なんだよ、なんで俺が死ななければいけないんだ?何かしたのか?」


 俺は惚けた。相手から言わせたかったからだ。


「さっきの食事には致死量の毒が入っていたはずだ。当然お前は死なないとおかしい」


「なんだと、毒殺しようとしたのか?なんで俺は毒殺されるんだ、何か罪を犯したのか?裁判にもかけられないで毒殺なんて酷すぎるじゃないか」


 俺の剣幕に男は少し牢籠いだ。元々後ろ暗い気持ちもあったのだろう。


「いや、まあ、私は命令に従っただけで詳細は知らないのだ」


「そんなことでいいと思っているのか?ヴァルドア・サンザールはどうしたんだ?」


 師匠も呼び捨てだ。師匠の所為でこうなったのだから責任を取って欲しいものだ。


「それにヴァルドア・サンザールを探していた筈が、居なかったからといって俺を捕まえて、剰え毒殺しようとするなんて、この街はどうなってるんだ?」


「いや、確かにヴァルドア・サンザールを探していたのは確かだ。あ奴はシルザール公爵様の宝物庫から公爵家の家宝である『赤い太陽の雫』を勝手に持ち出して行った泥棒だからな」


 なんだそれは。師匠が泥棒?それに、もし本当にそうだったとしたら、なんでノコノコとシルザールに戻ったんだ?


「その『赤い太陽の雫』というのは何なんだ?」


「なんだ、お前はそんなことも教えてもらわなかったのか。『赤い太陽の雫』というものは無限に自分のマナを補充してくれる国宝級のアイテムだ」


 それは反則だろう。師匠の魔法スキルで無限にマナが補充されるのであれば無敵というやつだ。でも、そうか歳には勝てない、というのはそういう事だったのか。マナの回復が追い付かないのだ。師匠のような高度の魔法を使うとマナの消費量も半端ないはずだ。それで国宝級のアイテムを必要としていたのか。


 盗む理由は判ったが、シルザールに戻った理由が判らない。自称五百年も生きているのだ、流石にそんな間の抜けたことはしないだろうとは思う。だからこそ、戻った理由が判らない。自分が盗んだことを忘れてしまったのか?この世界にも当然認知症はあるだろし、師匠の年齢(実年齢は不明)なら発症していてもおかしくはない。


 まあ、国宝級アイテムを盗んだ犯人の仲間だと思われているのだ、捕まっても仕方ない。だが師匠の居場所を吐かせようとしても実際知らないのだから答えようもない。これから拷問が始まるのであれば気が重い。


 あれ?もしそうであれは毒殺は性急すぎないか?殺してしまえば師匠の居場所を吐くこともできないのだ。結局、どう考えても結論が出なかった。


「そんなものを師匠は盗んだのか」


「師匠?お前はヴァルドアの弟子の魔法使いなのか」


「ああ、まあそんな者だ。ただ弟子にはこれからなるんだがな」


「これからなる、だと?」


「そうだ。弟子になって修行するためにシルザールに来たんだ。その初日にこうして捕まったから何一つ教えてもらってなどいないがな」


「それが本当だとすると、なぜヴァルドアは戻って来たんだ?」


「それはこっちが聞きたいさ。なんで師匠はわざわざ戻ってきたんだ?もしかしたら犯人じゃなくて冤罪なのか?」


「他に犯人が居るというのか。それで『赤い太陽の雫』が盗まれたことも知らずに戻ったと?」


 話をしていて、そんな気がしてきた。そうでも考えなければうかうかと戻ったりはしないだろう。


「それが正解なのかも。それにしてもいきなり俺を毒殺はやり過ぎじゃないですか?誰の指示です?」


「そ、それは」


 男は言い淀んだ。気持ちとしてはヴァルトアが犯人ではない説を信じ始めているようだ。それなのに弟子を毒殺するのは確かにやり過ぎだ。


「ちょっとここで待っていろ、確認してくる。魔法使いだとしても逃げたりするなよ。逃げると認めることになるぞ」


「判ったから、ちゃんと調べてくれよ。大人しく待っているからな」


 俺は本当に大人しく待っているつもりだった。他にすることもなかったからだ。

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