第24話 ルスカナの街で魔法対決だ
『絶対防御が結局最強』異世界転生って若い奴らの話じゃなかったのかよ、定年間近にはキツイぜ!
第2章 回り始める物語の章
第24話 ルスカナの街で魔法対決だ
「その人はワルトワではありません」
セリスの最後通告のような叫びだった。ウォーレン家お抱えの中級魔法士ワルトワ・サムストールではないと言うのなら誰なのだ。
「ああ、ワルトワと言うのは儂の弟子じゃな。弟子と言っても二、三魔法の手ほどきをしてやっただけで儂の元で修業をしておった訳ではないので、奴が儂の弟子を名乗るのは烏滸がましいというものじゃがな」
「じゃあ、あんたのその師匠の?」
「そうじゃな、儂がヴァルドア・サンザール。ちょっと旅の途中にワルトワのことを思い出して宿代わりに訪れた、という訳じゃ」
宿代を浮かすために弟子とも言えない者を頼って来たのか。中々食えないおっさんだ。
「それで、そのヴァルドア様が何の御用でここへ?」
「いやな、暇なので少し屋敷の周りを散歩して追ったら、お主たちを見かけて声を掛けたという訳じゃ」
「それにしては隠蔽魔法を掛けて近づくなんて、ちよっと非常識じゃないか?」
相手の真意が判らないので、俺は少し突っ掛かってみた。
「まあそう言うでない。隠れていたのを忘れていただけじゃ。だから普通に話しかけたであろう。そのお嬢さんが家主の娘さんじゃな。それで今一度問うが、そのお嬢さんを連れて何処に行こうというのだ?」
見た目は少し小汚いおっさんにしか見えないが、その言葉には何か力が込められているかのように強かった。応えずにはいられない、という感じだ。俺の知らない何かの魔法だろうか。もしそうなら俺に対処のしようは無い。
「お嬢さんは最近お屋敷から出ていないので、少し外に出て気晴らしをされたいと仰って今から出ようとしていたところだよ」
俺は口から出まかせを絞り出した。本当の事を口にしそうになっていたが、なんとか堪えたのだ。
「ほほう、そうであったか。じゃがお屋敷にはワルトワとその弟子どものひよっこが三人、他に魔法使いは居ないと聞いておったが、やはりお主何者じゃ?」
ああ、色々とバレている。
「俺か、俺は通りかかりの魔法使いさ」
もう無理だ。この魔法使いを倒すか何かしないとセリスは連れ出せないし、俺たちも捕まってしまう。ただ、この魔法使いは得体が知れない。強さが図れるレベルじゃなさそうだ。
「ジョシュア、セリスを連れて逃げろ」
俺はここで死ぬ決心をした。魔法使いと一戦交えるのだ。出来る限りのことをしよう。死んでも死なないのだ、まあ、なんとかなる。捕まってしまって実験台にされるのは勘弁してほしいものだが、まあ、それもセリスとジョシュアがちゃんと逃げ切ってさえくれれば、やった甲斐があるというものだ。
「儂とやる気か。偉い、偉い。だが自分の力を過信する出ないぞ。お主のマナの量はそこそこ見る物があるが魔法そのものは拙すぎる。それではワルトワ辺りにも勝てんぞ」
そうか、俺は中級魔法士にさえ勝てないレベルなのか。結構修行して火球なんて極めたと思っていたんだがな。
「そっちの二人にはあまり興味が無いが、このまま見逃してしまうと、ここに泊めてもらえなくなっても困りそうだからな」
「いや、申し訳ないが見逃してもらえないか。事情は説明するから」
俺は情に訴えることにした。魔法では絶対に勝てない。
「事情とな。よかろう、聞いてやろう。だが、それでも儂が納得せなんだら、奴らを追いかけるぞ。多分直ぐに追いつけよう」
確かにこのおっさんなら直ぐに見つけて連れ戻されそうだ。ジョシュアたちが少しでも遠くに逃げてくれるのを祈った。
「実は」
それから俺はその魔法使いにそれまでの事情を包み隠さず全て話した。
「なるほどな。それでお屋敷を逃げ出そうとしておったのじゃな。確かにベルドア・シルザールという御仁は少し変わっておってな」
「ご存知ですか」
「うむ、薄い血縁ではある。ちゃんと修行を付けた魔法の弟子でもあるな」
「シルザール公爵は魔法使いなんですか?」
「まあな、そこそこ筋が良かったので教え甲斐があったぞ。まあワルトワよりはかなり使えよう。認定は受けておらんが上級魔法士にでもなれようぞ」
「それほどですか。直接対決は避けないと、ですね」
「なんだ、お主、シルザール公と争うつもりか?」
「いや、まあ、そんなこともあるかと。セリスが欲しいと言った公の真意がわかりませんので。とりあえずは辞退されたようですが、いつなんどきまた所望されるかわかりまんから」
「なぜお主はセリス嬢の肩を持つのじゃ?先ほどの話では一緒に逃げたあの男がセリス嬢を好いておるのであろうに」
「そうですね、俺は特に関係ないんですが、まあ、ジョシュアの思い人なので、二人とも幸せになって欲しいんです、ただそれだけですよ」
「変わった奴じゃの。その異世界から来た、ということも関係しておるのか」
「いや、それはあまり関係ないと思いますよ。それで、どうですか、追いかけますか?」
「どうしようかの。事情は判ったのじゃが、儂には関係ないことじゃでな。それよりも宿が無くなってしまうことが問題かの」
食えないおっさんだ。事情が判った上で追いかけるつもりか。
「もしかして追いかけるとか?」
「なんじゃ、駄目か?お主にはそれほど関係ないと思うが」
「さっき説明したじゃないですか。俺はジョシュアとセリスが幸せになって欲しいんだって」
「それがそれほど大事か?」
「大切ですね。というか、大切さが判りませんか?」
「なんだか非難されているように聞こえるな」
「非難していますよ。他人の幸せを邪魔するんじゃないよ」
俺は少しキレかかっていた。ここで大決戦だ。
「火球、火球、火球ったら、火球!!」
俺は突然魔法を放った。ノーアクションで詠唱もなく放った火球だ。それも俺からすると相当大きく鋭い火球の連射だ。弾かれるとしても多少の打撃は与えられるだろう。そうじゃなきゃ背立つ瀬がない。
ヴァルドアの周囲が火球の炎に包まれた。これで無傷だったりしたら引くぞ。
「熱い、熱い。それなりの火球じゃな。密度をもっと上げれば効果的じゃ」
ノーダメージのようだ。無理だ、全く歯が立たない。
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