第27話 屋敷

私たちは憲兵に拘束され、帝都の商業街近くにある豪華な屋敷につれてこられてしまう。

「なぜ憲兵本部ではないのだ?」

「ぐふふ。長官命令だ。貴様たちは憲兵隊長アクダンカン様がじっくり取り調べてやる」

ひげの憲兵の言葉に、私の不安が高まっていく。

「ギャウギャウ」

タマも見知らぬ場所に連れてこられて不安になったのか、不安そうに鳴いていた。

「大丈夫ですよ。お話すればきっと分かってくれると思いますから」

姫はそんなタマを抱き上げ、宥めていた。

私たちは屋敷の中庭に面した応接室につれてこられる。

待っていたのはいかにも悪そうな顔をした中年男だった。

「ぐふふ。こいつが聖女とやらか。それに金色のドラゴンとは、高く売れそうだ」

その中年男は私たちをみるなりいやらしそうな眼付でなめまわし、タマを値踏みした。

「無礼者!私は王族護衛騎士エリス・フォン・ヒラテ。そしてこちらは第五王子トランス様の婚約者、サクラ・ミズホ・ジパング様だぞ、控えよ!」

私はそういって脅しつけたが、中年男はせせら笑った。

「……嘘をつくな。何が騎士に姫だ。そんな高貴なお方が孤児院で酒など飲んでいるわけがない」

中年男は私の言葉を鼻で笑うと、威張りながら名乗った。

「ワシは帝都の治安を守る憲兵長官アクダンカン様だ。貴様たちが孤児院に居座るせいで、迷惑しておる。だが……」

アクダンカンは姫をねっとりと見つめる。

「下賤の者とはいえ、聖女と呼ばれるだけあって美しい。ぐふふ。そのほう、ワシの妾にならんか?スラム街にいるより贅沢をさせてやるぞ」

「お断りします」

姫はにっこりと笑いながら、差し伸べられた手を払いのけた。

アクダンカンは一瞬不愉快そうな顔をするものの、すぐにいやらしい笑みを浮かべる。

「ぐふふ。いくら反抗しても無駄じゃ。おい。アレをもってこい」

「はっ」

傍に控えていたひげの憲兵が部屋を出てい行く、しばらくしてもどってきた奴は、その手にまがまがしい黒い首輪をもっていた。

「それはなんだ?」

不安になる私をあざ笑いうのように、アクダンカンは得嬉々として話し出した。

「これは、重犯罪者用の『隷属の首輪』だ。奴隷よりさらに地位が低い『奴婢』に対して使われる。これを漬けられた者は、主人の命令に逆らえなくなるのだ」

アクダンカンは首輪をもてあそびながら、憲兵たちに合図する。憲兵たちによって、私たちは押さえつけられた。

「放せ!」

「ぐふふ。まずはドラゴンからだ」

動けない私の目の前で、アクダンカンはタマをつかまえる。

「ギャウギャウ」

「くくく……ドラゴンの血は若返りの薬となり、鱗からは伝説の武器が作れると聞く。殺さぬようにじわじわと血と鱗をはぎ取って、永遠に金づるにしてやろう」

暴れまくるタマを押さえつけ、首輪をつける。

「ギャッ」

「ふはは。今日からお前の主人は私だ。動くな」

首輪をつけられた瞬間、タマの体に電流が走り、ぐったりと倒れて動かなくなる。

「くくく……首輪が正常に作動しているか、試してみるとするか」

アクダンカンは動けないタマの尻尾のの鱗を一枚はぎ取り、そこから流れ出た血をビンに入れた。

「ギュィィィィィィィィィィィィィィィィ」

無理やりしっぽの鱗をはがされたタマは、痛がって泣きわめく。

「放せ!」

タマの私はこれまでにない怒りを感じ、そのまま強引に押さえつけている男たちを振り払い、タマにかけよった。

「ギュ……」

タマは私の腕の中で、苦しそうにあえいでいる。

その時、抱きしめているタマから強力な魔力が伝わってきた。

「タマ……お前だけは守ってみせる」

私はタマを守りたい一心で、全身から魔力を放出した。

「な、なんだこの光は……結界?」

タマを中心とした球形の結界が生まれ、私たちを守るかのように包み込んでいった。


アクダンカンの屋敷に着いた俺は、まずは穏便に交渉しようとした。

「ここに余の婚約者であるサクラ姫が連れてこられたと聞いた。すみやかに釈放するのじゃ」

礼儀正しく要求したつもりだったが、憲兵たちには相手にされなかった。

「そんな事実はない。とっとと失せろ」

仕方ないので、俺は自分の身分を明かす。

「なんじゃと?余の命令が聞かぬと申すか?余は第五王子であるぞ」

仕方ないので王子の権威をもって脅しつけたが、応対したひげの憲兵はなぜか自信たっぷりにあざ笑ってきた。

「ふん。俺たちの上司アクダンカン様は、今もっとも皇帝に近いといわれている第三王子トラスト様と懇意にしているんだ」

「ああ、バカ王子のたわごとなど、誰も相手にされないだろうよ」

くそっ。俺の評判の悪さが裏目に出たか。こんな下っ端ですら命令にしたがわないなんて。

「もう一度言う。さっさと失せろ」

「……わかったぞよ」

くそ。こうなったら爺が来るのを待つしかない。そう思って引き下がろうとしたとき、屋敷の奥からタマキンの鳴き声が聞こえてきた。

「ギュイイイイイ」

聞いているだけで痛みが伝わってくるような、悲痛な叫び声である。

「貴様、タマキンになにをした」

「ああ、あのドラゴンならアクダンカン様に献上したぜ。いい金になるって喜んでいたな」

ひげの憲兵は、ニヤニヤと笑っている。

「今ごろ隷属の首輪をかけられているころだろうぜ。ドラゴンは高く売れるらしいからな。俺たちにも少しはおこぼれが……」

「ウインドショット」

最後まで聞く気になれず、俺は風魔法をふるう。ひげの憲兵は突風に吹き飛ばされて、壁に激突した。

「この野郎。俺たち憲兵に暴力をふるうつもりか!」

憲兵たちが、剣をふるって迫ってくる。

「国の役人だとおもっておとなしくしていれば、勝手なことばかりしやがって。こうなったら、容赦しねえぞ。『アポーツ』」

俺はハンケツ仮面の鎧を取り寄せて身に装着すると、襲ってくる憲兵たちに向き合った。

切りかかってくる兵士たちに対して、俺は慎重に空気の対流から判断してその動きを見切る。

「くそ。なんだこいつ!」

「ちょこまかと逃げまどいやがって」

俺に交わされた兵士たちは、ムキになって剣をふるうが、狭い部屋内なので互いの体が邪魔になって実力を発揮できなかった。

俺は兵士の顔の前に握りこぶしをつきだすと、パっと開く。

「なんだ?握りっ屁のつもりか?そんなのが通用するわけ……ぐぅ」

俺の手のひらの空気を吸い込んだ兵士は、一瞬で昏倒した。

「貴様、何をやった?」

「真空魔法『パスカル』だ。拳の中の酸素濃度を15%まで下げて、相手に吸わせれば、一瞬で酸素欠乏症になって昏倒する。接近戦なら無敵だ」

俺は兵士の口元に低濃度酸素の塊を放つ。それを吸い込んだ兵士は、瞬く間に倒れていった。

「う、うわぁぁぁ」

「だめだ。とてもかなわない」

仲間が次々と倒されるのを見て、兵士たちは逃げていく。

「待っていろよ。エリス、姫、タマキン」

俺は屋敷の奥へと侵入していった。


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