第26話 連行
「こ、これは?何が入っているのじゃ?」
「うふふ。開けてみてください」
そういわれて、おそるおそる小樽のふたをとった俺は悲鳴をあげる。中には赤紫色のムカデが入っていた。
「な、なんじゃこれは?」
「マーリン様からもらった、元気になるムカデをお酒につけてみました」
姫は悪気のかけらもない顔で言う。
「ふ、ふざけるな。こんなの飲めるか!」
思わず大声をあげてしまうと、とたんに姫は悲しそうな顔になった。
「そんな。王子のために作ったのに……私って駄目な姫ですね。王子の婚約者でいる資格はないのでしょうか」
地面に座り込んでめそめそするので、俺は慌てて慰めた。
「そ、そんなことはないぞ」
「でも……所詮は政略結婚ですし…王子は私が嫌いになったのでしょう?こんな私は王子に愛される資格なんてないのでは……チラッ」
あれ、今なんかチラ見されたような気がするぞ。
「い、いや。嫌いになどなっておらん。愛しておるぞ。姫よ」
真っ赤になりながら俺がそう告げると、姫はこの上なくうれしそうな顔になった。
「うれしいです……あなたの婚約者になれてよかったです」
姫があまりにも喜ぶので、見ていた子供たちから生暖かい視線が注がれている。
気まずくなった俺は、次の小樽に手をのばした。
「そ、それより、これはおいしそうだ。いただこう。ごくごく……ぶっ」
魚臭いぬるぬるしたのど越しに、俺は思わず吹き出してしまう。
「こ、これはなんだ?」
「精力と魔力の回復によいとされる、やまうなぎを漬けてみました」
ふたをあけてみると、ぬるぬるした足のあるウナギが泳いでいた。
「だぁーっ」
おもわず吐いてしまうと、姫が悲しそうな目で見てきた。
「……やっぱり私って駄目な姫ですね。これ以上ご迷惑をかけられません。子供を連れてジパングに帰らせていただきます」
姫はタマキンを抱き上げて、泣きまねをした。
「ギャウウウ」
タマキンも悲しげな鳴き声をあげる。
「そ、そんなことないって。愛しておるぞ。姫よ」
「うれしい……サクラ、幸せです」
また姫は嬉しそうな顔になる。俺は助けを求めるように周囲を見渡した。
「あはは。仲がいいわね。でも白面ちゃんをいじめちゃだめよ」
「そうそう。いい酒場の太客……じゃなくて、私たちとも友達なんだから。ひとりじめはだめ」
俺の視線を受けて、俺がよく通っている酒場の嬢たちがやってきてかばってくれた。
彼女たちを見て、姫の目が吊り上がる。
「……その女性たちは誰ですか?」
「え?そ、その、ただの友達というか……」
やばい。なんだか姫が怖い。それにとっても後ろめたい。姫は無言で俺に近づくと、みぞおちめがけてパンチを繰り出した。
「ぐえっ」
「王子、浮気はだめですよ。まず私との間に子どもをつくってからです。いいですね」
「は、はい。ああ……私ってだめな王子ね」
静かな声で叱られて、俺は思わず落ち込んでしまう。
「あはははは。なにこのコント。息ぴったり」
「ギャウギャウ」
それを見て、カゲロウとタマキンが腹を抱えて笑っていいた。
「う、うん。仲がいいことはいいことなんだが……なぜかもやもやするな。なぜ二人は政略結婚なのに、ここまで打ち解けあっているのだ。出会って間もないくせに、幼馴染の私より……」
落ち込む俺のそばで、エリスは何事かつぶやいていた。
私はエリス。今は孤児院でパーティの警護をしている。
王子たちが盛り上がっていると、孤児院の表が騒がしくなり、憲兵たちがやってきた。
「おとなしくしろ。ここで違法な酒類の販売をしていると通報が入った」
偉そうなひげを生やした太った憲兵が、無理やり押し入ってくる。
「待て!まだ酒など売ってはいないぞ。これから申請して許可を取ろうと……」
「問答無用」
私の静止を振り切り、兵士たちは酔っ払っている姫を拘束した。
「お前が主犯だな。逮捕する!」
「え、ええっ?なんで姫が?」
カゲロウ殿は驚いているが、すでに姫は酔っ払っていて平気な顔をしていた。
「あらあら、逮捕だなんて。面白いですね」
姫が兵士たちによって連れていかれそうになったとき、タマがその前にたちふさがる。
「ギャウギャウ」
「ど、ドラゴンだと?こんな危険な魔物まで飼っていたのか。許せん。没収だ」
憲兵たちが動き、タマを捕まえた。
「待て。貴様たち、そのお方が誰だかわかっているのか?恐れ多くも……」
「やかましい。言いたいことがあるなら憲兵本部で話せ、とにかく、そこの女とドラゴンは逮捕だ」
ひげの憲兵は、どうしても姫たちを連れていくといって聞かなかった。
「王子、話が通じないようです。それでは、私が姫についていって誤解を解こうとおもいますが」
「いいよーん」
仕方なく、私は姫について馬車に乗る。兵士たちに取り囲まれながら、私たちは軍務所に連れていかれるのだった。
姫が連れていかれてしまったが、まあエリスがついているから大丈夫だろう。さすがにチンピラたちとは違って国の正式な憲兵たちだ。誤解がとければ頭を下げて謝ってくるだろう。
そう思ってパーティを続けていると、鋭い目をした男がやってきた。
「楽しそうですな。私も一杯いただけますかな」
「お前は……ええと、誰だっけ」
まずい。酒によっているせいか、すぐには頭に思い浮かばない。
「あ、こいつあの地上げ屋だよ」
カゲロウの言葉で、やっと思い出した。
「ああ、チンピラたちを裏で操っていたやつか。今日は何をしにきたんだ。ヒック。いくら金を積まれてもこの土地は売らんぞ。さっさと帰れ」
シッシッと追い払う仕草をしたら、ゼニスキーはバカにしたように笑った。
「そんな態度をとっていいのですか?ここの大事な聖女とドラゴンが二度と帰ってこないかもしれませんよ」
「なんだと?」
一気に冷水を浴びらせれたように、酔いが醒めた。
「ぐふふ。私のバックにいるのは、帝都の治安を任されているアクダンカン憲兵隊長なのです。彼にかかれば、誰を罪に落とそうが自由自在。聖女を返してほしければ、ここの土地を私に売って……」
「ウィンドショック!」
俺は怒りのまま風魔法をふるう。ゼニスキーは吹き飛ばされて、孤児院の壁に激突した。
「貴様たち、姫とエリスをどこにつれていった」
俺は倒れたゼニスキーを見下ろす。おしろいに染まった顔が怒りに震えるのをみて、ゼニスキーの顔に脅えが走った。
「姫に何かしたら、殺してやる」
「ひ、ひいっ。すいません。彼女たちはアクダンカン様の屋敷に連れていかれました」
カゲロウに剣を突き付けられて、ゼニスキーは彼女たちが連れていかれた場所を吐いた。
「まずいよ……早く助けないと」
「カゲロウはこいつをヒラテ爺のところに連れていってくれ。事情を話して助けを呼ぶのじゃ」
俺はゼニスキーを縛り上げる。
「わかった。王子は?」
「余は姫を助けにいく」
そういい捨てて、アクダンカンの屋敷に向かって走り出した。
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