第22話 サクラの説教

今、私たちは孤児院の庭で、ささやかなパーティをしています。

「白い顔の兄ちゃん。強かったなぁ。やくざたちをボコボコにして」

「いやいや、俺はハンケツ仮面が強いと思う。あんなでっかいモンスターを倒したんだぜ」

子供たちが、今日私たちを救ってくれた二人のヒーローについてお話しています。

彼らはどっちが強いか言い争っていました。

そうですね。私も王子がまさかあれほど魔法を使えるとは思いませんでした。

「ギュウギュウ」

その王子は、タマちゃんに焼き肉をあげています。

「そうかそうか。おいしいか。たくさん食えよ」

「ギャウ」

タマちゃんは嬉しそうに、王子に身を摺り寄せました。

あれ、そういえばなんでタマちゃんハンケツ仮面様と一緒にいたのでしょう。

疑問に思った私は、王子に聞いてみることにしました。

「王子はハンケツ仮面様と親しいのでしょうか。タマちゃんをお預けするぐらいに」

「そ、そうじゃ、親友、いや兄弟といっても過言ではないのぅ」

王子はとぼけた顔をして、あさっての方向をむきます。

『余』という自称を使い、王族にしか現れないといわれる伝説の竜尾鱗を持つハンケツ仮面様。王子が彼と同じ風の魔法を使い、タマちゃんが二人に同じように懐いているということは……。

私の頭の中で、いくつかのピースが繋がったような気がしました。

「王子、ぶしつけなお願いですが、お尻を見せてくださいませんか?」

そう言われた王子は、ビクッと体を震わせて首を振りました。

「い、いやじゃ。恥ずかしい」

「何が恥ずかしいんですか。いつもお尻丸出しで城内を逃げ回っているくせに」

エリス様が呆れていますが、今の態度で確信しました。

「そうですか。それでは、王子からハンケツ仮面様によろしくお伝えください」

王子が動揺して汗だくになっているので、これ以上の追求はしないことにしました。

(ふふ。王子との結婚は政略目的で、好きも嫌いもないとおもっていましたが、なぜか今はうれしいですね。この人が婚約者でよかったです)

そんな温かい気持ちに浸っていると、セリナさんがやってきました。

「あの……えっと……お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」

セリナさんは、なぜかもじもじしながら聞いてきました。

「そうじゃな。余のことは白面の旦那とでもよぶがいい」

「白面様。私たちを救ってくださいまして、ありがとうございます」

上気した顔でぺこりとお礼をします。そういえば、彼女は王子に救われたんでしたっけ。

「余は何もしておらんぞ。そなたたちを救ったのはハンケツ仮面じゃ」

「いいえ。私たちが自立して生きていけるよう手を尽くしてくれたのは白面様です。心からお礼申し上げます」

セリナさんは、王子に真っ赤な顔でお礼をいいました。

「それで……あの、私をあなた様の奴隷にしていただきたいのですが」

「ど、奴隷?」

王子はびっくりしています。もちろん私も耳を疑いました。

「な、なにゆえ?」

「その、お借りした金貨1000枚の代わりになるとはおもえませんが、頑張ってご奉仕しますので」

セリナさんは、恥ずかしそうにスカートをたくし上げながら申し出てきました。

「ご、ご奉仕?ぐへへ」

あらあら、一瞬だけ王子から邪悪な気配が。ここは私がたしなめないといけませんわね。

「あらあら。いけませんよ。あなたみたいな少女がそのようなことを言うのは。自分の身は大切にしないと」

こほん。ここは年長者として叱ってあげないといけません。私は優しく微笑みながら、諭してあげました。

「でも……」

「お気になさらず。あなたが今なすべきことは、孤児院の仲間を大事にすることです。王子もいいですね」

「は、はい」

王子は素直にうなずいてくださいました。よろしい。

「ひ、姫が怖いぞ」

「あんな姫初めてみた。どうしちゃったんだろう」

エリス様とカゲロウが何かひそひそお話しています。

なんですかそのおびえた顔は。私は人としてのモラルを説いているだけですよ。少女に手をだすなど、たとえ王子であっても許されることではありません。

「王子。婚約者として少しお話があります。こちらに」

「は、はい」

そのあと、たっぷり説教させていただき、王子としての心構えを学んでいただくのでした。


私はエリス。女騎士にして帝国の名門貴族の子女だ。我がヒラテ家は初代皇帝である勇者シムケンの親友である竜騎士カトぺーの末裔で、代々王族に仕えてきた。

私もいつかドラゴンに認められ、竜騎士になるのが夢なのが……。

「ㇷガッ。ギャウウ」

タマにえさをやろうとしたら、ひっかかれてしまった。

「あらあら、どうして食べてくれないのでしょうか?」

「タマちゃん。王子以外からは絶対に餌を貰おうとしないんだよねー」

姫とカゲロウ殿も可愛がろうとするが、プイッと顔を背けて飛んで行ってしまう。

なんで懐かれないんだろう。私たちはこんなにタマの事を世話しているのに。

悲しくなった私は、勤務時間が終わった後にマーリン殿に相談しようと彼女の研究室に赴く。

そこには、なぜかタマがいて、椅子にちょこんと座ってマーリン殿と向き合っていた。

「ギャウギャウ」

「タマ?マーリン殿と何を?」

意外な組みあわせだったので、私は首をかしげる。

「タマちゃん、私に良く魔法を習いにきてるわよ。見せてあげたら?」

「ギャウ」

タマは頷くと、全身から魔力を放出する。まぶしい金色の光がタマをつつみ、その中から小さな人影が現れる。

タマは、6歳くらいの可愛い女の子に変化した。

「か、可愛い」

「ㇷガッ。グルルルル!」

私はおもわず抱きしめようとするが、タマは一言うなり声をあげると逃げて行ってしまった。

私はさびしい思いでその後ろ姿を見送ると、マーリン殿に愚痴をもらす。

「竜騎士になるためにはドラゴンに認められないといけないのですが、なぜかタマが懐いてくれないのです。それだけではなく、姫やカゲロウ殿にも敵意をむきだしにして」

それをきいたマーリン殿は苦笑した。

「それはね。嫉妬しているのよ」

「嫉妬?」

はて、タマに嫉妬されるようなことが私にあったか?

「そう。ドラゴンはご主人様と結ばれる可能性がある異性に対して嫉妬するという習性があるわ」

どういうことだ?私が王子と結ばれる可能性があるとでもいうのか?

「失礼ですが、それはありえませんね」

「あらあら、エリスちゃんは王子の幼馴染で仲良しさんだったじゃない」

マーリン殿が私の黒歴史を指摘するので、顔が赤くなるのを感じた。

「そ、それは昔の話です。恐れ多くも王子にたいして不敬かもしれませぬが、最近の王子は、その、我が身をささげるのにふさわしいとは思えません」

そうだ。確かに以前の王子に対しては尊敬の念を抱いていたが、今はただのバカだ。それに私に対してセクハラするし……あんな奴は大嫌いだ!

私にふさわしいのは、もっと勇敢で高潔な男だ。そう、あのハンケツ仮面のような。

「あらあら、エリスちゃん。もしかして本当に王子がバカになったと思っているのかな」

マーリン殿がからかうような顔でいうので、私はムッとなった。

「どういう意味ですか?」

「あれは演技よ」

マーリン殿が自信を持って断言するので、私は否定した。

「そんなわけがありません。演技であんな恥ずかしいことができるわけがありません」

城内をお尻丸出しで逃げ回っているんだぞ。

「そうねぇ。まあ、見限るのは早いと思うわよ。もう少し見守ってあげてもいいんじゃないかな」

マーリン殿がそうなだめてくるので、私はしぶしぶ頷くのだった。

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