第20話 イーグルウグイス
ケンシー森の奥、神殿の周囲の梅林
「きれいですね。ちゃんと整備すれば公園になりそうです」
きれいに咲き誇る梅の花を見て、私はそう思ってしまいます。
私たちは孤児院の子たちを連れてやってきてしました。
「お姉ちゃん。ここで何するの?」
小さな子たちが無邪気に聞いてきます。
「私もわからないのですが、ここの実を採取して欲しいとのことでした」
私たちは色とりどりの花がさいている場所を避けて、実がなっている木が生えているエリアに行きます。
「でも、ここの実はすっぱくて、誰も食べようとしませんよ。果たして売れるのでしょうか……」
セリナさんが不安そうにしていますが、王子はいろいろと発想が豊かなお方です。ここは彼を信じてみましょう。
「さあ、みんな頑張って拾いましょう」
私たちは手に籠を持って、梅の実を拾い集めるのでした。
夢中になって拾い集める事数時間。
「お姉ちゃん、こんなにとれたよ!」
子供たちは、籠一杯になった梅の実を見せてきて、笑顔をうかべました。
「これくらいでいいでしょう。それでは、帰りましょうか」
私がそう言ったとき、バサバサという音がして、日の光が遮られます。
思わず空を見上げた私の目に入ったものは、大きな翼をひろげるウグイスでした。
「ケキョケキョケキョ」
「あら、風流ですわね」
その鳴き声に聞きほれていると、上空のウグイスの影がどんどん大きくなっていきました。
「あら?大きなウグイスですね」
「ち、ちょっとまって。サイズがでかすぎない?」
私の隣にいたカゲロウが警戒している間にも、ウグイスはどんどん近づいてきます。
「こ、これはだだのウグイスありません。魔物です」
エリス様が叫び声をあげます。私たちの前に現れたのは、ワシのような鋭い目と爪を持つウグイスの魔物でした。
「くっ。姫様。お逃げください」
「私たちが時間を稼ぐよけ」
エリス様とカゲロウが立ち向かってくれます。私はそのすきに、子供たちを連れて逃げ出しました。
しかし、空を飛べるウグイスは、私たちが逃げようとする方向にすばやい動きで回りこんできます。
「ケキャーー――!」
「こ、これは何?体が動きません!」
何か電流のような刺激が体中を走り抜け、私たちは体を硬直させてしまいました。
麻痺の効果をもつ鳴き声で私たちの動きをとめたウグイスは、私に狙いをつけたようで、鋭い嘴を光らせて迫ってきます。
「もうだめ!神様!」
セリナさんの叫び声が聞こえてきて、思わず目をつぶった時―。
「ギャァァァァ」
いきなり突風が吹き、ウグイスが悔しそうな鳴き声をあげます。
「大丈夫か?」
目を開けると、私はたくましい男の人に抱きかかえられていました。
ええ、私はこのお方をよく知っています。
私のヒーロー、ハンケツ仮面様が現れ、また私たちを救ってくださったのでした。
少し前、メディナ孤児院
梅の実の採集は姫に任せ、俺はハンケツ仮面の衣装をまとって、必要なものを購入していた。
「よし。これでそろったな」
「ハンゲツ仮面さん、まいどあり。しかし、孤児院に蒸留酒を大量に届けて欲しいって、どういうつもりだい?」
俺がよく利用している酒場のおやじが探りをいれてくるが、俺はとぼけた顔をしてごまかした。
「いやいや、ここで酒飲み大会を開こうと思ってな」
「おいおい。ここはお子様たちがいる孤児院だぜ。酔っ払いが寄付なんてしてくれると思えないけどな。まあいいや。いい稼ぎになった」
ホクホク顔の親父はそういうと、ちょっと首をかしげた。
「ところで、ここの子供たちはどこにいったんだ?」
「ああ、ケンシー森の梅林までピクニックに行っているぞ」
俺の言葉を聞いたおやじは、顔色を変えた。
「あんた知らないのか?あそこは最近ウグイスの魔物であるイーグルウグイスが縄張りを作っていて、少しの前から誰も近寄らなくなっているんだぞ」
「えっ?」
なんだって?魔物をよせつけない梅林が生えている森だから安全だろうと思っていたけど、そんな奴がいたのか!
「それはまずい。すぐに連れ帰らないと!」
俺は『浮身』で浮きあがると、全速力で飛んで行く。
ケンシー森の梅林に到着すると、巨大なウグイスが姫たちを襲っているのが見えた。
「まずい」
俺は急降下し、風魔法を使って襲われそうになっている姫を救い上げる。
「あっ……ありがとうございました」
俺に助けられ姫は、真っ赤になって礼を言ってきた。
「おう。礼はまたいつか。形のあるものでな」
そう軽口を返すと、俺は姫を地上に降ろす。
「ハンケツ仮面。来てくれたんだな」
「姫を助けてくれたんだね。おりがとう」
エリスとカゲロウが来て、姫を受け取ってくれた。
「ギャウ」
俺の鎧の下から金色のドラゴンが出てきて、エリスの頭の上に乗る。すると金色の結界が張り巡らされて、周囲を取り囲んだ。
「空を飛べる魔物に対抗できるのは風魔法の使い手だけだ、お前たちは姫と子供たちを守っていてくれ
彼女たちに言い捨てると、俺は再び空に飛びあがる。イーグルウグイスは、鋭い目で俺をにらみつけ、嘴を開いた。
「ケキョケキョ」
「うわっ。危ない」
俺は風の魔力を放出して、全身をガードするが、ウグイスの嘴から発せられた超音波が俺の体に伝わってきた。
衝撃が伝わり、俺の動きが鈍くなる。
「くっ。風の麻痺魔法か。なかなかやるな。『ウインドスピア』」
「ケキョ」
俺が放った風の槍は、音波で打ち消されてしまう。これでは勝負がつきそうになかった。
「風魔法は互角か。それなら、召喚魔法だ。『アポーツ』」
俺はイーグルウグイスの死角である上空にまわり、城の備品室からありったけの槍を召喚する。
大小さまざまな槍は、重力に従って穂先を下に落ちていった。
「グァッ」
イーグルウグイスは慌てて回避しようとしたが、何本かの槍に翼を貫かれて、バランスが保てなくなる。
「とどめだ!」
風の魔力をこめて短剣を投げつけた短剣が、喉に突き刺さる。
イーグルウグイスは一つ叫び声をあげると、地面に墜落していった。
「やりました!」
地上で戦いを見ていた私たちは、ハンケツ仮面様の投げた短剣が魔物の喉を切り裂いたのを見て、歓声をあげました。
「やった!倒した」
「すごい。討伐賞金をかけられているモンスターを、たった一人で倒すなんて」
カゲロウとエリス様も感動しています。ふふ、お二人もハンケツ仮面様のファンなのですね。
「ギュウウ」
ハンケツ仮面が下りてきて、タマちゃんを肩に載せました。タマちゃんは嬉しそうにすりすりと身をよせています。
「お前たち、無事みたいだな。それじゃ、俺は用があるから行くぞ」
「ち、ちょっと待ってよ。モンスター討伐の報酬はどうするの?」
カゲロウが問いかけますが、ハンケツ仮面様は私たちに手を振ると、お尻を向けて飛び去っていきました。
「あの兄ちゃん……カッコいい!」
「決めた!ボクも大きくなったら、冒険者になる!」
子供たちは、あこがれの目をしてハンケツ仮面様を見おくりました。
「これ、どうしましょう」
エリス様が、地上に落ちたウグイスの死体を見て困惑しています。
「これ、賞金かかっているモンスターだよね。こういう場合、どうなるんだろう」
「とりあえず、冒険者ギルドに相談しましょう」
冒険者ギルドに連絡しますと、職員の方が何人も来てイーグルウグイスの死体を運んでいきました。
「いや、ありがとうございます。このモンスターは魔物よけの梅の実も効かず、 徐々に縄張りを広げていて、放置していれば帝都にまで被害が及ぶところでした」
中年のギルドマスター様は、私の手を握って感謝してくれましたが、このモンスターを倒したのは私たちではありません。
「イーグルウグイスを倒したのはハンケツ仮面様なんですが、彼は何も言わず去っていきました」
「そうですな……」
ギルドマスター様は難しい顔をして考えこんでいましたが、にっこりと笑って私たちに大金が入った袋を差し出してきました。
「この場合、冒険者資格をもつカゲロウ様がハンケツ仮面とパーティを組んで討伐したということになります。賞金はあなたに支払われます」
「ボク、何もしてないんだけど……」
カゲロウが困っているので、私が判断を下しました。
「それでは、いったんお預かりしておいて、次にあったときにお返しすることにしましょう」
私たちは梅の実と賞金を持って、孤児院に戻ります。すると、王子がお酒が入った樽を用意して待っていました。
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