第3話 冒険者ギルドへ
無事にバカ王子デビューを果たした俺は、勉強や修行を免除され、自由に過ごすことができるようになった。
しかし、それでもヒラテ将軍だけは俺をなんとか更生させようと必死である。
「王子、どこに行かれるのです⁉」
「ちょっと城下町まで散歩に」
こっそりと城を出ようとする俺の前に、ヒラテ爺が立ちはだかる。
「なりません!。お部屋で勉強を!」
「ええ?やだーん」
「やだじゃありません。戻りますぞ」
襟首をつかんで引きずっていこうとするので、俺はとておきの風魔法を使う事にした。
「『霧化』」
「あっ」
肉体が霧と化したので、着ている服がするりと脱げてしまう。
振り返った爺が見たものは、尻丸出しで逃げていく俺の後ろ姿だった。
「王子!お待ちなさい」
「やだよーん」
俺は脱兎のようにヒラテ爺から逃げ出す。そうしておいて、鎧や武具が置いてある備品室に逃げ込んだ。
「王子!どこにいったのです?」
「しつこいな。こうなったら……」
俺は適当に備品室にあった騎士の鎧を着こむ。しかし、小柄な少年の体なので、上半身を着たところで丈が余ってしまい、腰の部分を身に着ける事ができなかった。
「まあいいか。なんとかち〇こは隠れるし」
鎧の腹部分で前は隠れるが、少しかがむだけで後ろは丸出しになる。
俺は鎧の上半身に長めのアーマーブーツを着た姿で、備品室から出た。
廊下を歩いていると、メイドたちをひきつれたヒラテ爺とすれ違う。
「これ。そこの騎士よ。トランス王子を見なかったか?」
「いえ。存じ上げません」
半月形のマスクで目元を隠した俺は、声色を使ってそう返事した。
「まったく。あのバカ王子め。ようやく受け入れてもよいという属国が決まったことを伝えようとおもったのに。まあよい。王子を見つけたら拘束しておいてくれ」
「はっ」
俺はそう返事をして、ヒラテ爺とすれ違った。
その時、ヒラテ爺についていたメイドが首をかしげる。
「あれ?あの騎士様って、鎧の腰部分を着ていたかしら」
疑問に思って振り返ったメイドが見たものは、尻丸出しの変態騎士だった。
「き、きゃぁーーーー⁉へ、変態」
メイドの叫び声を聞いて、ヒラテ爺もびっくりする。
「な、なんだ!いきなり叫び声をあげて」
「あ、あの騎士、お尻丸出しで……」
メイドは必死に訴えるが、その時すでに俺は遠くに逃げ去っていた。
「うまくいったぞ。よし、この恰好で外を散策しよう。まさか王子が尻出して歩いているとは誰も思わないだろうしな」
俺は上機嫌で、城から抜け出していった。
「これが帝都モンゴリアンか。大都会だな」
俺はのんびりと帝都を見物しながら散歩する。帝都モンゴリアンは世界最大の帝国モンストルの首都にふさわしく、大勢の人でにぎわっていた。
白い肌、黒い肌、黄色い肌の人種にとどまらず、獣人族やエルフ、ドワーフの姿も見かける。彼らは人間に征服された属国の民だった。
彼らは一応奴隷ということになっているが、文明国モンストルにおいての奴隷とは従業員に近い存在である。ちゃんと主人は給料を払わないといけないし、むやみに虐待することも禁じられている。また数年働けば、自分自身を買い戻して市民権を得ることも可能だった。
奴隷の中には、貧しい辺境国の暮らしを嫌って自分自身を売却し、この首都に流れてきたものたちもいる。
彼らによって、帝都の日々の暮らしは支えられていた。
「さて。自分の力でいきるためには、何か職を身につけないといけないな」
そう思った俺は、職業ギルドに赴くが、すげなくあしらわれてしまった。
「あんた、何か生産的スキルを持っているのかい?」
「スキル?そういわれても……」
俺は言葉につまる。王宮で教えられていたのは帝王学や剣技、魔法なので、生産的な技能とはいえなかった。
「魔法や剣はそこそこ使えるぞ」
「うーん。なら、兵士になるしかないが……」
冗談じゃない。兵士として国に仕えるのって、今の立場より悪くなるだけだ。俺はいざという時のために、国と無関係でもいきていけるような立場を手に入れたいんだ。
「あ、あと漫才とか笑劇とかできるぞ」
「残念だけど、劇場は美人とかイケメンじゃないと採用されないよ」
どうやら、この世界は不細工の芸人が人気者になるといったお笑い文化はまだないらしい。
「仕方ない。なら肉体労働で……」
「残念だが、今帝都では奴隷になりたがる奴がどんどんやってきて、人余りの状況だ。奴隷になるなら仕事は見つかるかもしれないが……」
それは嫌だ。
「うーん。なら、冒険者にでもなってみるか?」
「冒険者?」
「魔物の肉や素材を取ってきたり、遺跡にもぐって財宝を探す仕事だ。ちょっと脛に傷を持つ奴が集まる仕事だが、それでもいいなら紹介できるぞ」
職業ギルドの職員の申し出に、俺は飛びつく。職員から紹介状を貰って、冒険者ギルドに赴くのだった。
冒険者ギルドは帝都のはずれ、半ばスラム街と化している地域にある。
近づくにつれ、通行人の恰好が変わっていった。
帝都の貴族街のような上品さも、商業街のような清潔さもなくなり、頭をモヒカンにしたり、ハゲにしたりと強面の者たちが増えてくる。彼らは着ている服も獣の皮などを加工したもので奇抜だった。
(いいねぇ。ワイルドで。ここでなら俺が生きていく力を磨けそうだ)
俺はそんなことを思いながら冒険者ギルドの扉を開ける。中に入るなり、酒をのんでいる冒険者たちの視線が集まってきた。
(どういうことだ?騎士の鎧を着た奴が来たぞ)
(大方、貴族のボンボンが冒険者にあこがれて家出してきたってとこかな。ちょっとからかってやろうか)
(まあ、待てよ。何か依頼に来たのかもしれねえぜ。手をだすのは奴が冒険者手続きをして、正式な新入りになってからだ)
冒険者たちはニヤニヤと笑いながら、俺を見つめてくる。彼らの視線を感じながら、俺は猫耳の受付嬢の前にたった。
「い、いらっしゃいませ。お仕事のご依頼ですか?」
「冒険者になりに来た」
それを聞いた冒険者たちが、互いに乾杯している。
「あ、あの。冒険者というのはもっと身分が低い者たちがなる職業で、恐れ多くも騎士様のご子息には……」
「かまわない。手続きしてくれ」
俺が重ねて申し出ると、しぶしぶ入会書類を持ってくる。
「仕方ありません。この書類をご記入ください」
「感謝する」
俺は前かがみになって、書類を掻き始めた。
それと同時に、後ろで武器を構えていた冒険者たちの動きがピタリと止まる。彼らの視線は俺の下半身に集中していた。
「な、なんだあいつ……」
「後ろが……」
俺が前かがみになった拍子に、後ろの冒険者たちに尻が見えてしまったらしい。ひそひそ声が聞こえてきた。
俺は自分の尻に視線が集中するのを感じ、ひそかに悦に入っていた。
(ふふふ。俺の尻は奇麗だろう。俺の尊敬するコメディアンは尻一つで何億円も稼いだんだぜ)
見せつけるように尻を振ってやると、冒険者たちからおそれの気配が伝わってきた。
面白くなってきた俺は、振り向いて手をふってやった。
「みんな、よろしくな!」
「きゃーーーーー⁉」
俺の後ろをみてしまった猫族の受付嬢が叫び声をあげるが、俺は気にしない。
「こ、こいつ。やばいやつだ。人前で尻を出すとは、よっぽどのアホか、自信があって挑発しているのか、はたまた特殊性癖を持って誘っているのか……なんにしろ。関わりたくねえ」
俺に恐れをなした冒険者たちは、こそこそとギルドを出てくのだった。
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