第7話 雪国編(1)

■第7話■


扉絵


異界その星は何かが原因で自転をしないようだ球体の半分は陽が当たらず、見わたす限りの雪の大陸だ日の射さぬ黒い日陰の半球それが今回の舞台雪の王国であるグラン・ケ・フレディシマ王国だ曲がった地平線の陽があたる地表に黒くかがやく城それは日光領土を支配する大公爵家が支配するノルドン大公国の城だこちら側の国は常夜大中小の月が三つならんで浮かぶ


1頁 フレディシマ領地


針葉樹林に覆われた氷山の火口から間欠泉のごとく滝壺の獣のゲロが吹きあがるゲロゲロゲロゲロゲロゲロ〜ッ!!「ひゃっほー!!」ウルスラ、ボッチ、ルーシーの登場「あれッ!!」


三人は空中で瞬く間に凍ってガチガチガチガチ………凍ったまま雪上に落ちるドサックマの親子が歩いてきて、ウルスラに噛みつくガブッゴリッ「グヘッ!!」歯が欠ける母グマ母グマは頬を両手で押さえて立ち去ろうとする子グマはナイフとフォークで食べようとする(…やめなさい、食べてもきっと不味いわよ…)親子グマは立ち去る(ママ、今日はハンバーガーがいい)(昨日食べたでしょ!!)(まわる寿司は!?)(あそこは食中毒でまだ営業停止……)


翌る日の夜雪はしんしんと降りつづける雪像になって雪に突き刺さるウルスラ、ボッチ、ルーシー遠くから狩猟する貴族が現れる貴族たちはそれぞれ、四頭だての橇、スノーモービル、エアスパイダー、ドローン、ラジコン機などに乗ってマンモスを追いかける凄まじい勢いで貴族は雪原を走り抜ける貴族の服にはノルドン公爵家の紋章が見えるガンッ、ガンッ、ガンッウルスラ、ボッチ、ルーシーは跳ねられる六本の足だけが雪原に突きだす翌月の夜狩猟を終えた貴族たちはノルドン大公国の城へとまた走り去っていく翌々月の夜ドドドドドドドッ雪崩が起き、ウルスラ、ボッチ、ルーシーは雪崩にのまれる雪中のなか、隣に凍ったマンモスがある翌翌々月の夜女王が城へ向かうカボチャの橇巨大除雪車が道を作っていくガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ巨大除雪車に弾かれるウルスラ、ボッチ、ルーシー、マンモス


4個の雪像は凍った湖に落ちる湖底に沈むウルスラ、ボッチ、ルーシー、マンモスは巨大魚に食べられる麦わら帽子をかぶった巨人が釣りをしにやってくる巨人はスコップでせっせと穴を掘り、キャンプ用の椅子に腰かけ糸を垂らす。怪物魚がかかる


バシャッ


月あかりを背に怪物魚が飛びあがる影巨分は薪に火を焚べて巨大魚を丸焼きにするボト、ボト、ボト薪が燃える上に落ちる三人


あぢ〜ッ!!


三人は飛びあがる!!麦わら巨人にぺこりと深くお辞儀をする三人熊に誘われて三人は一緒に魚を食べる「ありがとうございました!」


ぱちぱちと炭は爆ぜる「で、ここが、パブロ爺の文通相手のいる…」周りを見わたすボッチ傾いた道標が火にあたってみえる《☟ここ、グラン・ケ・フレディシマ王国領地》《☜あっち、グラン・ケ・フレディシマ城》《☞だいぶ向こう、ノルドン大公国》《︎☝︎そこ、出会いの酒場》と書いてあるボッチは「ここはフレディシマ王国で」「あっちがそのお城で」「かなり向こうがノルドン大公国で」「酒場はそこです」ウルスラはうなづいて「なるほど〜……へぇ〜」「って読んだだけやないかいッ!!」ウルスラはツッコむ。ボッチはイタリア語辞典をだして「フレディシマは…」パラパラとページをめくる「…スラングでクッソ寒い!!」「つまりこの国の名前は…」「クッソ寒い!!王国です」ズコッー!!


ルーシーはガタガタ震えているウルスラは明かりがついたログハウスを指さして「ルーシー、あそこの酒場で温まろう!!」「ぬる燗があるかも!!」ボッチはさけぶ「お嬢ッ!!」


2頁 出会いの酒場


カラン酒場のなかは暖かい。つくりは質素だがテーブルには肉料理やワインや魚料理や果物などがならぶ。繁盛している。カウンターではスーツを着た疲れた男が焼き魚をつつき、奥では若い赤髪の女がグラスを傾けているトイレの手前の小あがりの座敷では氷の妖精の家族が韓国焼肉を食べている。網の上に蛇腹ダクトがついた椅子席では狩人や騎士がジンギスカンを摘まんでいる。《reserved》とプレートがある奥の個室では貴族がどんちゃん騒いでいるカウンターをみると髭を生やしたコップを拭くマスターがいう「食券を買って」「ショッケン?」「後で頼むんなら、赤色のボタン」「食券制度ですね」テーブルを忙しなくまわるバニーガール姿のウェイトレスがやってきて「まずはそれを押して。突き出し代だから」「これ。ですか…」「あとでゆっくり頼めばいいわ」ウェイトレスは去っていく


3頁 三人の賞金


壁にデカデカと三枚のポスターがある「ぎゃっ」「どうしよう………」先ほどの巨人が窓を叩く窓からは巨人の片目だけが見える「あら、まっちゃんどうしたの!?」巨人のまっちゃんは窓の外で、盃をクイッとやる「死神殺しね。先週樽で入ったから裏にまわって」まっちゃんはウルスラたちに気づくウルスラたちはマイムで賞金首のポスターをさすと気づくまっちゃん、毛皮のコートを三つを窓から投げ入れる。三人、毛皮にまとうボッチは食券を買う。三人は顔を隠して奥の方のカウンターに座る若い赤髪の女はウルスラとボッチとルーシーとポスターを交互に見るそれから酔って真っ赤になった顔をパッと破顔させ「マスター、この三人に…」「大吟醸十六代を一合ずつ…私の払いで」赤髪の女はいう「太っ腹だねえ、サクラちゃん」マスターは答える「ああ、金なんか命あるときに使わないとね」サクラはカウンターに突っ伏す「そりゃそうだな」マスターはコップをふき、笑う。サクラはぼやく「命がなくなったら金なんて意味はないさ……」カウンターに突っ伏したまま赤髪の女は泣き始める「どうしたんですか? このお嬢さまは」「泣きたくなるときは誰にだってあるさ」マスターは、サクラに「カードで?」「ガルディで?」「ガルペイで?」サクラは「いや現金で」えーんえーん


ボッチはタコワサビと蛤とサザエの磯焼きとオムライスとお子様ランチ二人分を頼む「まいど」マスターはいうボッチはマスターにエッダの写真を見せる「この美女、見かけませんでしたか?」マスターはいう「ほう、こりゃまた…美人だねぇ…」「…王女ヒルデさまとどっこいどっこいだ」


4頁 変身できますか?


ウルスラはいう「おじさん」マスターは二人のお子様ランチのライスにフレディシマ国旗とヒルダ女王の顔の旗を立てる「なんだい?」「変身できるとこある?」ズコッー!!ボッチとルーシーはズッコケる「変身ねえ………」マスターはコップを拭き、考える「そんなとこあるんかいなッ!」ボッチはツッコむマスターは網に蛤とサザエを乗せ、取り箸でたこわさびを小鉢に盛りつける「あそこの、オランド・キアラ夫妻はできるんじゃない?」カウンターに入ってきたバニーガール姿のウエイトレスは、小上がりで韓国焼肉をつついている氷の妖精の家族を指さす「アケミちゃん、家族で食事中なんだから」


ウルスラは小上がり席へ走っていく「こんわっち!」ウルスラはいう「はい、こんわっち!」氷の妖精家族は答える「変身させてください!!」ズコッー!!カウンター席はズッコケる氷の妖精夫妻は耳打ちする。ウルスラはいう「ここの食事代を奢ってくれたらいいって!!」ボッチは財布をのぞいて、泣きながら両手でOKサインをだす


5頁 多目的トイレ


《お手洗い》の暖簾がかかる前多目的トイレから出てくる男が、女に一万フレッド札を渡している姿をやり過ごしママ妖精は三人を連れて多目的トイレに入るピカッ!!多目的トイレはマグネシウムが発光するように輝く出てくる四人の影小上がり席から手があがるアケミが給仕にいく「ピッチェカルビ、上タン、チゲ、冷麺、カムテプガク(カジメの薄揚げ)、チェックサル(牛の腰下の肉)、韓牛のジョン(チヂミ)、アマダイの蒸し煮、コチュジャン、カルビチム、ユッケビビンパプ、チャックテンダーユッケ、韓牛とアワビとセリのお焼きとエビなどを薄切りにして韓牛から時間をかけてじっくり出汁をとったスープ、紅参ビンソン、紅参(6年ものの高麗人参)を使った人参アイスクリームを〆で」妖精ママはウルスラたちにピースをするアケミは「まいど」ズコーッ!!ボッチは財布を逆さまにして泣く


6頁 仮面舞踏会開催


トイレの通路から出てくると、居酒屋のなかの時が止まった。誰もが息をのんだまま呼吸を止めていた。それから一気にざわめきがあがるウルスラは世界を破滅させるほどの美しさでルーシーは世界を救うほどの妖艶さでボッチは魔王級の美男子になっていたウルスラとボッチとルーシーはカウンターに座り直す「ど、どんな魔法だったんだ…」マスターは訊ねる。ボッチは答える「本来の姿いや、ちょっとのあいだの仮の姿に」


後ろから、ネーチャン。と下品な声がするウルスラとルーシーはは振り向くと男が五、六人、色気で卒倒するマスターとアケミは「美がヤバすぎる!! ヒルダさまに匹敵するわ!!」マスターは思い出して「あっそうだ!! 仮面舞踏会が開かれるぜ!!」アゴで壁のお尋ね者のとなりのポスターを指さす


☆フレッド歴63987年、287月9021日☆☆第7648回グラン・ケ・フレディシマ王国主催☆      ☆大舞踏会を開催☆     


居酒屋は活気づく「おおッーー!!」「そうだった!!」「7648回連続優勝をつづける…」「ヒルダ女王に伏兵があらわるだ!!」奥に座る楽隊のよう一団が楽器を持ちだす彼らはフルートや バグパイプやハープやアコーディオンやバンジョーなどを演奏し始める


7頁 ノルド公爵家長男ギューク


「なんだ、下等民よ。騒がしい!!」奥の個室から貴族が現れ、背の高い体格のがっしりした男は太い声でさけぶ男は無数のスラッシュが入った丈の長いシャツに金襴のビロードの服地のチュニックをかぶり、袖のスラッシュは宝石でつないで強調し、70センチある厚底の靴を履いていた。股間には、コッドピーズと呼ばれる金貨やキャンディを入れる袋状の小物入れをぶらさげている。男は自分の魅力は形の良いふくらはぎだと思っていたために極端に短い足を白いストッキングで美しく見せていた。男のまわりにいる貴族たちの紋章はザルツニルベン太公家の紋章だ。ウルスラは男の目の前にガルド金貨を投げる「あッ、超激レアの500ガルド金貨だ!」男は500ガルド金貨を拾おうと前につんのめってシークレットブーツが外れた。男の背丈は美女ウルスラの膝下までしかなかった「ぎゃっはっはっは!!」酒場のなかは爆笑の渦になる「だまれッ!!」酒場はしんとなる。激昂した男はさけぶ「ここにいる...貴様ら全員!!………こんご一歩でも…」「わがノルド領地に踏み入れた者は…ノルド太公国入寇罪とし」「……即刻、斬首刑とする!!」「ひいぃ!!」「娘が嫁いでいるのに…」「朝、ノルドからやってきたのに…」「そりゃ、あんまりだぁ〜!!」「明日はどこにかえればいいんだ…」服の埃をぱんぱんと払う男「申し遅れた。私ノルドン公爵家…」「…の長男、ノルドン・ギューク・エリントンと申す」「あなたも仮面舞踏会に? じつは私も毎年………」


8頁 くノ一サクラ


カウンターで突っ伏していた赤髪の女サクラはさけぶ「ザルツニルベン太公家および…」「ノルドン公爵家その一族よ!!」「ノルドン公爵家その嫡男…」「…ノルドン・ギューク・エリントン!!」「たしかに、私はギューク・エリントンだが…」サクラは懐から小刀をだす。ギュークは笑って「物騒な…お嬢ちゃんはどちらの方かな?」「貴様にいってなんになる!!」「貴様は、戦争や紛争や虐殺でいくらの民を殺したんだ!!」ギュークは高らかに笑う「面白いことをいうね、きみは…」「私が百万の兵を引いて国を滅ぼしたとて…」「…私には罪などは微塵もないのだよ」「私は、ただノルドン家に生まれてきてしまっただけ」サクラは小刀を構えギュークを睨む「ごほん。きみにひとつ聞くがね」「もしきみがノルドン家に生まれていたら」「きみは戦争を防げたというのか?」サクラは睨む「きみだって一度、戦争に行けばわかるさ」「戦争は、戦争という大きな生き物なんだ」「人間が止めようとしてもダメなんだよ」


「うるさい、黙れ!! 父の仇だ!!」サクラは三人に残像しながらギュークに突進してくるパシッ腕をつかまれるサクラは腕を絶世の美男子になったボッチにつかまれはうッ!!ボッチのあまりの美しさに見惚れ、失神するボッチはギュークに「ここは私たちに免じて、お引き取りねがいたい」「キサマの面なぞ見たことはないぞ!!」「生まれて二十五億年、こんな顔でおます」ウルスラはルーシーに賞金首のポスターを指して「ごく最近にあの醜男になったのね」ボッチはウルスラとルーシーにツッコむ「醜男(ぶおとこ)いうな〜ッ!!」ギュークは笑っていう「ま、ノルドン公爵家は器は小さくはありませぬがな」ウルスラはルーシーに囁く「あいつは…ケチンボ…チンケな…チャチな…偏屈…さもしい…こせこせ…ちまちま…しぶちん…狭量…偏狭…ケツの穴……」「おんどりゃあッ!! じゃかーしぃわいッ!!」


ぜえぜえぜえ…


シークレットブーツを履いたギュークは片手をウルスラのあごにつけ「では、この貴族の恥の落とし前…」「絶世の美女でおられる…お嬢さまに…」「…どうつけても・ら・え・る・の・か・な?」「私の第十九番目の側室にでもなりますか?」ギュークとその取り巻きたちはどっと笑う「ぎゃっはっは!!」「こんなボロ居酒屋みたいに!!」「小料理でも経営してもらってな!!」


ギュークはいう「私と踊られることを引き換えに…」「…ノルド太公国入寇罪の件の反故に…」「…してやっても良いがな……」「お美しいお嬢様…あなたのお名前は?」「………ウルスラです……」「…私のウルスラよ…仮面舞踏会でお会いしましょう」


サクラ泣き崩れる


9頁 駆けこむフリード


ドンドンドンドン酒場のドアが叩かれるガタンッドアは開かれるフードを深く被った男が火傷を負った赤ん坊を抱え、酒場に駆けこんでくる「だれか!!助けてくれ!!」「赤ん坊が大火傷なんだ!!」「火事に襲われて、このなかに…」「…どなたか医者はいますかッ!?」「だれかッ!!」男はフードを剥いで大声でさけんだ「…この子の命を…」「助けてくれッ!!」


酒場の中は静まりかえっただれも答えようとしない(男のアップ)男は顔が溶けた醜い怪物のような大男だった


「だれか!!」「おれは農民だ」「ンだンだ」「肥溜めに手ぇつっこんで畑を耕すだ」「来年、おら東京さいぐだ」「ンだンだ」楽隊たちは楽器をしまい始める「明日は朝がはやい出発だな」「そろそろ宿に戻るかな」「がっはっはっは!!」ギュークは大笑いする。真横にいる背の高い男に話しかける「たしか……ゴザロ殿は軍医ではなかったかな」「去年までは上級軍医でした。が、いまは…」「…ラ・ザムザダール軍暗黒師団……」「第810(ハチイチマル)機械化部隊長に昇格しました」ギュークたちの取り巻きがいう「未来のないガキなど、助けてどうなる!?」顔が溶けた男は赤ん坊を抱え震えている「この赤ん坊にどうかご加護を!!」「医師は神の名のもと……」醜男はギュークの目を見て懇願する「…いかなる命もおなじ重さと!!」ギュークは醜男を制して「神に見放されたような醜い顔のお前がいうな」「がっはっは!!」ギュークの取り巻きは継ぐ「たとえ、その醜い命が救われたとて」「この貧しい国の穀潰しになるだけだ」「お前みたいな醜女(しこめ)になっら…」「火傷で死んだほうが幸せというもの…」ゴザロはいう「貴様の名は…」醜男は答える「フリードにございます」ゴザロはフリードに「フリードに訊ねるがな……」「お前その顔で人生は幸せだったか?」フリードは赤ん坊をつよく抱くゴザロはいう「生きていて……」「楽しかったのか?」


ギュークたちは大笑いする「ぎゃっはっは!!」すると、酒場内もつられて大笑いをする野次馬たちは笑う「ぎゃっはっはあ。はやく連れて帰れかえれ!!」「そうだ、そうだ!!」「飯がまずくなるぞ!!」


10頁 女王ヒルダ


カラン、カラン


ヒルダ登場「おおッー!! ヒルダ女王!!」


ギューグなどの爵位をもつもの以外はみんな床に片膝をつき胸に拳をつけるヒルダはいう「わたしがみなさんを邪魔してるのよ」「皆さんがお楽しみの場所では結構よ」「どうぞ膝をあげてみな楽しんで!!」ヒルダは笑うパッと、酒場内に赤いバラが満開に咲き乱れる


ワッー!!


楽隊はまた楽器を取り出して演奏を始めるみんな歌い始める


「♪あっヒルダさま、ヒルダさま」「美人のうえに、頭(おつむ)良し」「品格、風格、気だてよし」「才色兼備に、器量良し」「婿のきてありゃ、文句なし!!♫」


「かんぱ〜い!!」「がっはっはっは!!」


ボッチは訊ねる「この歌は………」ヒルダは答える「この国で、国歌に次ぐ有名なわらべ唄です」美女になったウルスラとルーシーも民衆とともに踊るコラー!!ヒルダは笑って怒る


きゃっはっはっはっ


「ささ、ヒルダさま、わしらがいっぱい奢りまさあ!!」「農夫のあっしから、一献(いっこん)どうぞ!!」ヒルダは優しく遮って「その、赤ん坊どうしたのです?」フリードに抱かれる赤ん坊はまるで真っ赤な肉の塊のようだ「ばぶ、ばぶ、ばぶ、ばぶ…」フリードは床を見て答える「火事に遭いまして……どうか」「ヒルダ王女さまのご慈悲を…」ヒルダは赤ん坊を見つめる


11頁 ヒルダの回想


ヒルダの回想三つ月の満月の夜フレディシマ城は火事になっているヒルダの母「ヒルダ!! だれかヒルダを助けて!!」王妃の間に入ってくるスノーデル国王「エイリーン!! 無事か!!」「裏切られた!! 副将ボーディンに!!「やつがここに火を放ったのだ!!」天蓋つきベビーベッドが燃えている。中で赤ん坊が泣いている「ああ〜!! ヒルダ!! 」エイリーンは火の中へ走っていき燃えるベビーベッドからヒルダを取りだし火だるまになってスノーデル国王に渡すスノーデル国王は赤ん坊をシーツで包み火を消す「だれか!! だれかおらぬか!!」スノーデル国王はさけぶ「はっ!!ココに!!第九勇者討伐遠征軍白虎旅団長のジーク・ボリス大佐であります!!」スノーデル国王は、旅団長を睨む「きさまあ!! ジークといったなっ!! 貴様が我がフレディシマ国王がみた最後の勇姿ぞ!! ヒルダを頼んだぞ!!」「国王は?」国王は優しい顔をしていう「ジークよ…妻を置いて逃げるような国王に…」「この国の……どの民がついてくるんだ……」国王は笑って涙をながす「ヒルダを頼んだぞ!! 窓から逃げるんだ!!」ジーク隊長はさけぶ「スノーデル国王!!」国王は大粒の涙をながしながら「フレディシマ国王七世…」「わが妻と灰となり燃え尽きようとも…」「きさまの命綱はぜったいに離さんッ!!」ジーク・ボリスは赤ん坊のヒルダを胸に縛りつける三つ月の満月の夜に燃えるフレディッシマ城の影王妃の間の窓からロープで降りるひとりの兵士の影


12頁 エッダ婆


ヒルダは真横にいる老婆に声をかける「エッダ婆」「はいな、ヒルダ姫」「その赤ん坊を、大至急、城に運びなさい」


ウルスラとボッチとルーシーはコソコソ話をする


ヒルダは醜男に「あなたの名前は?」「フリードと申します」「あなたは、あの赤ん坊の父親ですか?」「ただの通りすがりのものです」「あなたは家に帰りなさい」「はい」醜男はヒルダに深々と頭をさげて店をでる。


酒場の外しんしんと雪は降る醜男の後ろ姿の影が小さくなるエッダ婆と呼ばれた老婆は、侍従たちに指示をして、《救急》とプレートがある豪華なカボチャ馬車に赤ん坊を運びいれる。エッダ婆も乗り込むウルスラとボッチとルーシーも乗り込むエッダ婆は驚いて


「あなたがたは? どなたかしら?」「エッダさんですか?」「え? はい」「パウロ爺からのお手紙です!!」


第8話へつづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る