第61話
マーリーさんのシルエットが、店の中に消えました。
またしばらくしたらこちらを見るのかもしれません。
私は……いつまでここでミック君を待てばいいのでしょう。もう少ししたらすっかり暗くなるでしょう。広場に灯りはありません。店からわずかに漏れてくる灯りと月あかりの中……人の姿もなくなった広場に……。
どこかもう少し安全な場所に移動したほうが……。
ううん、ミック君はここで待っていてと言っていました。
ミック君……来ますよね?
戻ってきますよね?
ちょっとだけ不安になりソワソワし始めます。
ミック君が向かった先に視線を向けると、一人の小柄な人影がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えました。
「リツ兄ちゃーーーんっ!」
「ミッ」
立ち上がって、駆け寄る人の姿に向かって走ります。
「ミック君っ!」
ミック君だ。ミック君が戻ってきた。
駆け寄ると、ぜーぜーと息を切らしながらミック君が頭を下げました。
「わりぃ。遅くなって……。はぁー。はぁー。なんか、神官皇様がしつこくて。リツ兄ちゃんに会いたいから連れてけって。仕事があるから無理だって神官たちに止められて、じゃぁ終わるまで待ってくれとか言い出して……結局終わらないどころか、新たに仕事が持ち込まれたもんだから、おいて来た」
へ?
えーっと、神官のコウ様とやらが、私に会いたい?
ああ、そうか。ミック君の保護者みたいなものだし、変な人とかかわるといけないから、私がどんな人間なのか確かめたかったのですね。きっと……。
「ミック君……えーっと、その、ありがとうね。その、コウ様はきっと心配しているだろうから……あの……」
子供に肉を売らせるなんてろくな大人じゃないかもしれない。うん。心配するのももっともです。
そのうえ……私は……。
ミック君がもしかしたら戻ってこないかもしれないって……。
疑うような最低な人間です。
「ごめんね……ミック君……私、ごめんなさい」
情けなくて、ミック君に悪くて、思わず涙がこぼれてきました。
「ちょっとだけもうミック君は戻ってこないかもって疑って……本当にごめん……」
辛い経験をしたのにとっても優しくいい子に育っているミック君を疑うなんて。孤児だから悪いことするだろうと決めつける最低な人間と何が違うのか。信じきれないという点ではこれっぽっちも違わない。
「リ、リツ兄ちゃん、おいらが悪かったんだよ。こんなに遅くなっちまったおいらがさ……もっと早くに神官皇様おいて戻ってくればよかったんだ」
ミック君は自分が疑われたというのに、私を責めるどころか慰めようとしてくれてる。
「ありがとうミック君。私、もうミック君のこと二度と疑わないよ……だから、だから……お友達でいてくれる?」
お友達という言葉がふさわしいかどうか分からないけれども、知り合いよりも親しい間柄で、損得関係も上下関係もないそんな関係に名前をうまくつけられなくて……。年齢差があるし、本来はもっと違う言葉もあるのかもしれないけれど……。
ミック君がうつむいてしまいました。
あれ?迷惑だったでしょうか。
「おいら……。おいらこそ……リツ兄ちゃんを利用してたんだ……いいや、利用しようとする人間の言うこと聞いてた……」
え?
利用?私なんて何の利用価値もないと思いますけど?
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