第52話 グレイル視点

ダン、頑張れ……グレイル視点です

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「いや、その……エルフはエルフの容姿をどう思っているのかと……美人だなぁと思う基準とか……その、恋する相手とか……」

「は?もしかして、また髭の話ですか?エルフは髭がない男もモテるのかなって何度も何度も言ってましたよね?今度はエルフの女性?エルフの女性なら自分のことを好きになってもらえるかもとか思い始めたってことです?それとも、エルフの女性を魅力的に感じるなんておかしいんだろうかとか悩んでるんじゃないですよね?」

 ダンが書類をくるくると丸めて、俺の頭をポコポコとたたき始めた。

「何度も言ってるでしょう。好みなんて千差万別なんです。人間とかエルフなんて関係ない。エルフのような女性が好きな奴もごまんといますし、エルフにだって細い女性よりもどっしりと恰幅のよい女性が好きな者もいますって」

 ダンが今度は丸めた書類で、俺の顎をくいっと持ち上げた。

「このつるっつるの顎に魅力を感じてる女性もいるっていうのに、一向に信じないのはなんでですかねぇ?私がエルフの女性とでも結婚すれば、人の好みもいろいろだなぁと納得するんですか?だいたいねぇ、容姿にコンプレックスを持つのは思春期男子にはよくあることですよ。ですけど、ちょっと根深すぎやしませんかね?」

 ダンが再び丸めた書類で頭をポコポコ叩き始める。

「そりゃぁね、グレイルには同情しますよ。告白されて付き合った女性が裏で、髭つるだけどあれでも王族だし。つるつるは我慢するわと陰口を言っていたのを聞いてしまったり、かっこ悪い男ランキングなる女性たちの秘密のランキング表に名前が載っているのを見てしまったり……」

 うぐぐ。過去の傷をダンがこれでもかとえぐってくる。

 かっこいい男性の条件。まずは立派な髭。大きなのどぼとけ。がっしりとした体格。太い骨に大きな筋肉。身長が高いよりも横に安定感がある方が素敵……というこの国で、俺はといえば思春期に差し掛かり同級生が髭や胸毛が生えてくる時期になってもつるつる。身長ばかりひょろりと伸び、鍛えても筋肉は薄く……。のどぼとけは平均程度。

「だけどねぇ、ありゃ、訓練校の、強い男が好きっていう女の集団の意見ですからねぇ?信じられないかもしれませんが、同じくらいエルフの男性が好きな女性が世の中に入るんですよ?信じられないかもしれませんけどねぇ、髭を剃ってくれる?お願い!っていう女性もいるんですよ?あなたみたいなごっついのタイプじゃないのって、振られる男もいるんですよ?」

 典型的なごっついタイプのダンの言葉に怒りというか悲しみがにじみ出ている。

「ダン、お前のように男らしくてほれぼれするような男でも、振られることがあるのか?」

 ダンが、書類をもう一枚丸めて右手と左手にもち、両手で俺の頭をポコポコポコポコとたたき始めた。

 地雷を踏んでしまったようだ……。

 しかし、そうなのか。

 知らなかった。

 好み……によっては、そうか。世間一般……だと俺が思い込んでいた美醜の基準以外も好きになったりするものなのか。そりゃそうか……。

 ……晴れた日が好きな者もいれば、雨の日が好きな者もいるわけだし。好み……か。

 好み……。俺の、好みは……。

 リツの顔が思い浮かんだ。

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