第43話
この世界だと、魔石をパンにすることしか見たことがない子供は……何が食べられて何が食べられないかすら知らないで放り出されてしまうんです。
「ミック君……レンガ……ハンバーグって言うんだよ。美味しい?」
「うん。今まで食べたもんの中で一番美味しい!」
私にすれば、いまいち……なハンバーグモドキなのに、ミック君はまぶしい笑顔を見せます。
「遠慮しなくていいから。食べて」
美味しい物を食べさせてあげたい。飢えて死ぬくらいなら毒でもなんでも食べてお腹いっぱいになって死にたいなんて……。
子供が。
もっと小さかったころのミック君が……。本当に毒を食べて苦しんでいる様子を想像すると、胸がつぶれそうだ。
孤児ならば、額に脂汗を浮かべてもがき苦しんでいても、誰も助けてもくれなかったのだろう。ただひたすら苦しみや痛みが過ぎるのを我慢して……。
何歳だったのか分からない。5歳?7歳?いつの話?
涙が出そうです。
「あ、そうだ。パンもあるよ?」
ナンみたいなパンだけれど、おなかの足しにはなるはずです。。
「あー、おいら、レンガ……じゃない、ハンバーグだっけ?これだけでいいよ」
出したナンもどきのパンは自分で食べることにします。
ハンバーグモドキをパンの上に載せてパンを二つに折り曲げます。
「ハンバーガーモドキになりました」
モドキだらけ。
「ハンバーガーモドキ?」
ミック君が首を傾げます。
「うん。私の住んでいたところでは、パンにハンバーグをはさんだハンバーガーっていう食べ物があったの」
ミック君が私の手にあるハンバーガーモドキを見ます。
「んじゃ、それがハンバーガーだよな?なんでモドキ?」
ああ、確かに、今の私の説明だと、ハンバーグをはさんだパンなので、ハンバーガーですね。
ですけど……。違うんです。
「パンはね、丸くてふっくらして柔らかいものだったの。ハンバーグも玉ねぎとか卵とか入ってるし、あとソースやレタスも挟まっていて……ちょっと違うのよ」
ミック君が首を傾げました。
「パンが丸くてふっくらして柔らかい?他の教会のパンは違うのか?」
他の教会のパン?
「えーっと、よく分からないんだけれど……教会によってパンは違うかどうかも……」
グレイルさんも、パンを見て変な反応してなかったし、あれが通常のパンなのではないのでしょうか?
「そっか。うん、神官皇様に聞けば分かるかな。おいら聞いてみる。それで、ハンバーガーをリツ兄ちゃん作りたいんだよな?」
「……作りたい……の、かな?」
ハンバーガーじゃなくても、なんか美味しい物が食べたいんです。食パンでもいいです。日本で食べていた食事が懐かしいのです。駄菓子じゃない食事が食べたいのです。
「なぁー、リツ兄ちゃん……作ったらさ、おいら……その……」
ミック君がモジモジとしています。
「あのね、料理はいつも美味しいわけじゃなくて、失敗して美味しくないものができるかもしれないというのは前に話したよね?」
ミック君がうんと頷きました。
「それでもいいなら、ミック君も食べてね!」
ミック君がさっきよりもずっとずっと大きく頷きました。
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