第32話 グレイル視点2

 残念イケメングレイル視点です

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あまりにも、召喚された子供が哀れで仕事をダンに任せて飛び出してきた。

 腐った豆を毎日のように食べていたというのは……。

 服装を見れば浮浪児のような生活をしていたとは思えない。顔や手も傷どころか荒れた様子もなかった。

 いいところの子なのに、ろくなものを食べさせてもらえなかったというのは、後継者争いなどでひどい扱いを受けてきたのだろうか。

 側室の子……。

 そうだ、例えば、長子として生まれたが、母親の身分が低いとか。正妃に王子が生まれていれば正妃に疎まれる存在だろう。側室に別に王子がいるが正妃には王子がいない場合が一番ひどいかもしれない。正妃の子は特別だが、側室の子は生まれ順で王位継承権が決まる……っと、あの子の生きてた世界、国の仕組みはどうなっているか分からないんだから、違うかもしれないが……。もし、側室生まれでも長子が王位継承権1位なら……王妃にとっては邪魔だろうな。

 排除しようと……。

「はっ!まさか、そういうことか?」

 王室でなくても貴族……いや、豪商ですらそうかもしれない。妾の産んだ子が正妻の子を差し置いて家を継ぐなんてことがあれば……そりゃぁ、邪魔だ。

「毒殺を恐れて……出された料理を口にすることができなかったとか……?」

 ゴミとして捨てられていた物しか食べられなかった……と、考えれば、腐った豆や排泄物のようなものを食べていたことも分からなくはない。そして、粘土……。

 ポケットからあの子にもらった銀色に包まれた粘土を取り出して見る。

「あの子からしていた甘ったるいようなにおいがするな……」

 匂いだけなら美味しそうな気もしなくはない。

 だがなぁ。さすがにちょっと、口に入れる勇気はないな。

 子供にしては、しっかりとした受け答えをしていたが、教育が行き届いていたということばかりではないのかもしれないな。

 細くて折れそうな手足をしていたが、あれは食べ物をろくに口にしていたせいなのかもしれない。

 身長も低くて幼く見えたが、見た目以上の年齢だったのかもしれないな。

 声変わりもしてなくて髭も生えてなかったから、子供には違いないだろうが……。

 子供の、黒くて大きな目と長いまつ毛を思い出す。

 なんか、エルフの血でも混ざってたんだろうか。女みたいな顔だったな……。

 まぁ、俺も人のことは言えない。

 俺も、どれだけ頑張っても顔も体も太く立派だとはいいがたい。筋肉はつくが、横にどっしりと安定感のある体系には程遠い。身長ばかっかり伸びたために、より細く見えると言うかっこ悪さ。

 顔だって、まぁさすがに女に見えるようなことはないが……。いや、ないと思いたいが……。目は情けないことに目じりが下がっている。男らしく切れ長でしゅっと目じりが上がっていればよかったのに。まつげも無駄に長く目も大きい。

 眉毛だって、伯父のように太くて立派ではない。伯父から比べれば半分ほどの太さしかないんじゃないだろうか。情けない。

 髭も……はぁ。

 あの子供の苦労するかもしれないよな。コンプレックスを持っていたら、先輩としてアドバイスしてやろう。

 世の中には、エルフの血が混じっているような細くて女みたいな顔をした男が好きな女もいるから安心しろと。

 ……まぁ、俺の場合、俺の男らしくない容姿を好んで寄ってくるわけじゃなくて、地位や財産目当てで近づいてくる女ばっかりだがな……。

 ……。もうちょっとマシなアドバイスができたらいいんだが。だめだな。

「あ、いた」

 町についてどうやって少年を探そうかと思っていたら、町に近い森の道の端に少年は座り込んでいた。

 細い煙が上がっているのが見える。火を起こせたのか。

 火を起こしたことはないと言っていたが……。そうか。何かを焼いているのか?

 それにしても、もう何日か前には町についていたはずだよな。どうして町の手前の道にいるんだ?

 ……知らない町で、居場所が見つけられなかったのか?

「ギルドは何をしているんだ……」

 たしかあの町にギルド長はいたはずだよな。

 王都に居れば、貴族連中のくだらない依頼やクレームを聞かされる羽目になるからと逃げていたはずだ。

 まぁ、気持ちは分かる。あいつらすぐに「責任者を出せ!」と騒ぐからなぁ。

 ギルドが本気を出せば国を乗っ取るだけの力があると馬鹿な貴族は知らないのか。

 王家と教会とギルドがどれほど微妙な力関係であるか……。

「やたらと面倒見のいいギルド長……が、困ている少年を見捨てるようなことはしないはずなんだがなぁ。ギルドの宿泊施設に生活が落ち着くまでいて、食事も面倒見てくると思ったんだが……」

 もしかしたらギルド長は留守で下っ端が判断できなかったのか?

 ギルド長は時間があればすぐにギルドの建物から逃走……いや、逃亡……いや、逃げ出す……じゃないな、何ていうんだ、えーっと、とにかく、あちこちフットワークが軽く出歩くと聞いたことがあるからなぁ。

 ……ダンに「隊長がそれを言う?」と言われそうだな。

 ……うん、まぁ、確かに、今の俺も似たような……は、はは。

 子供が手に何かを乗せたパンを口に運ぼうとしていたところに声をかけた。

 少し待って食べ終わってから声をかければよかったと思った時には、少年はこちらを向いて目を丸くしている。

 なぜそんな驚いた顔をしているのだろうか?

「な、なぜ……兵士さんは兜を取ってしまっているのですか?」

「え?」

 ああ、そうか。少年と移動していた時には、確かにずっと兜をかぶっていた。顔を半分隠していたんだった。

 俺の顔を知っている人間に会うのも面倒だと思っていたのだが……。

 少年は私をただの兵士だと思っているし。隊長だということも、殿下だと呼ばれる立場だということも……わざわざ言うことでもないだろう。

 あの陛下の同類だと思われて嫌われるのも……避けたい。

 ん?いや、嫌われても仕方がないんだよな。事実同じ国の人間なんだし、陛下の行動を止められなかった責任もある。

 ……嫌われて当然なのに、嫌われたくない?

 自分のわがままな考えに心の中で首を振りつつ、兜をかぶっていた理由の一つを口にする。

「あ、ああ。いい年して髭も生えてないから恥ずかしいんだが……」

 正体を知られ炊くなかったというのは王都にいる間だけの話だ。王都から出てしまえば俺の顔を知る者は少ないから、本当は途中から外すこともできた。だがずっとつけていたのはもう一つの理由から。

「伸ばそうと思っても、薄くてはげかけた頭みたいな髭しか生えないからあきらめたんだ」

 少年もいつか同じ悩みを抱えることになるかもしれない……と思うと、恥ずかしいなどと言うべきではなかったかと……。

 やたらと少年は驚いた顔をして俺のみっともない顔を見ている。

 どういうことだろうか……。将来自分もこうなっちゃうのかとがっかりしている?

 なんだか、俺の体系もじっくる観察してないか?

 そうだよな。髭だけの問題じゃないんだよ。

 イケてる男たちは俺の倍は太い。なんだろうな。骨がそもそも太いのか。筋肉の質さえ違う気がする。

 どうしたらあんなに太くなれるのか……。ぶよぶよに太っていいるのとは違う太さ……。俺にも先祖にエルフの血でも入っているのかもしれないなぁ。それが先祖返りかなんかで出たか……。じゃなきゃしっかり食べて体を動かし鍛えているというのに情けない体格のままなんておかしいもんな。

 うん、もうよそう。容姿に関する話題は、へこむ。

 かっこよくなってもてたいわけじゃないが、コンプレックスを話題にするのはへこむ。

 話題を変えるために、少年のことに話題を振る。

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