第25話
「リツも、いくらお腹が空いたからと言っても、もう無理して変なものを食べなくていいからな……(腐った豆を毎日のように食べていたというのは、好んで食べていたわけではあるまい。それしかなかったのか、はたまた無理やり食べさせられていたのか……。粘土の塊よりは豆なだけましなのか?)」
無理して変なもの?
変なものは食べてませんが……現状食べられるものがとても少ないので……。
ちょっと無理をしても仕方がないといいますか……。
答えにくい言葉にへらりと笑って答えます。
「そうだな、これも渡しておくか。このサイズなら肉が出せる」
グレイルさんが、ポケットから親指の爪サイズの魔石をいくつか取り出しました。
「あ、いえ、いいです、いいです、あの、必要ないです!」
そんなにたくさんもらうわけにはいきません。何も恩を返すことができないのですから。
「遠慮することはない」
「遠慮……ではなくて、その大きさの魔石は……」
というか、パン魔石と呼んでいたサイズの魔石ですら魔力が足りないというのに、親指の爪サイズの魔石はどうあがいても魔力は足りませんよね……。
「お!」
グレイルさんが取り出した魔石を見てから頭をかきました。
失敗したって表情をしています。超イケメンなのに、気取ったことろがなくて表情が豊かで……。それがまた全部かっこいいとか……。うー。今の表情は、かわいいですっ。かっこかわいいです!
「そうだったな。まだ子供だもんな祝福を受けてすぐじゃぁ、このサイズは無理だよなぁ……。悪かったな。じゃぁ、こっちだ」
グレイルさんはポケットに魔石をしまうと、腰にぶら下げていた革袋をはずして私の手の上に載せました。
どっさり。
「え?」
中身は見えませんが、聞こえた音からするとお金のこすれる金属音ではなく、石がぶつかるようなジャラジャラ音なのでパン魔石でしょうか。
「いえ、これも、いただくわけには……」
「子供が遠慮するな」
いえ、子供じゃないんです。
あまりにグレイルさんがいい人なので、このまま黙っていることが心苦しくなってきました。
「こ、子供じゃないんです、あの……だますつもりは全然なくて、言う機会がなかったんですが……というか、その、私も気が付かなくて……勘違いされていることに……。えーっと、わ、私の住んでいた世界ではその、男女でそれほどの違いはなくて……年々ジェンダーレスが進んでもいて、えっと、その……なんていうか……」
グレイルさんが私の言いたいことがさっぱり分からないというように首をかしげている。
はい、そうですね。遠回しすぎて何を伝えたいのか分からないですよね。
「私の住んでいた世界では、奇妙に思うかもしれませんが、女性もズボンをはきますし、髪の毛を短く切ったりするんですっ」
早口になりながら、一気に口にして、顔を上げる。
「……!」
グレイルさんが私の顔をまじまじと見て、数秒停止。
「う、え……ま……マジで……か……」
あーっと、頭を両手でガリガリと激しくかいています。
「ご、ごめんなさい、その、あの、早く言えばよかったんですが、性別をわざわざ相手に伝えて自己紹介なんてしたこともなくて、えっと、街について初めて、あれ?もしかして……女だと思われてないって気が付いたので……えっと……」
グレイルさんが、地面に片膝をついて座りました。えーっと、ほら、よく異世界の騎士とかが忠誠を誓うときにする座り方ですよ。
ああ、かっこいい。グレイルさんは何をしても様になります。
片腕を胸の前に当てて、もう片腕は後ろにしています。……あ、手を差し出すそれではないのですね……?
わ、私ったら何を期待していたのでしょうか。いえ、何も期待していません。
そのままグレイルさんは深々と頭を下げた。
「申し訳なかった。気が付かなかったこちらの落ち度だ。……女性に対する態度ではなかった。森に一人放り出すなど……いや、もちろん子供に対してもひどいことをしたと思っているが……女性を守るべきが騎士だと言うのに……騎士どころか、男として情けない……」
どーんと落ち込むグレイルさん。
「いえ、その、こちらの世界の常識からでは想像もできなかったと思うので……その、ひどい扱いを受けたとも思ってないですし……」
陛下やお城にいた白装束の人たちに比べたら、グレイスさんはとても親切でした。
「いいや、見た目だけの話ではないのだ……俺はこんなんだから女性にもてないと、ダンはまた笑うだろう。仕草などからすぐに見抜くことができただろうと……」
ダン?
「もっ、もてないなんてことはないですっ、私の住んでた世界では、グレイルさんは追放レベルのイケメンですっ!」
「は?追放レベル?イケメンとはどういうことなんだ?」
あうっ。思わず口をついて言葉が出てきました。
「髭とか、私の住んでた国では少数派でした。8割とかそれ以上生やしてませんでしたし、むしろ、髭は仕事に不適当だから暗黙の了解で禁止になっているところもたくさんありました」
あんまりいいイメージ持たれないんですよね。日本だと口ひげはまだしも顎髭とかは、漫画などでも漂流している人とかそんな感じの髭をそる環境がない人の表現で、現実世界に戻って髭をすっきり剃るとイケメンだったみたいなのも定番中の定番の漫画のネタです。
あとは賢者やサンタクロースやドワーフですかね……。あとはゴミ屋敷に住んでそうなだらしない男の無精ひげ……。少女漫画で描くのはそれくらいかもしれません。あとは変装とか?うーん。
「は?仕事に不適当?禁止?髭が?」
グレイルさんが首を傾げました。
「例えば飲食店……料理を提供するお店とか……」
爪、髭、頭髪、清潔感が大切なんですよね。
「は?なぜだ?別に髭があろうがなかろうが関係ないではないか?むしろ立派な髭をたたえた者が売っていた方が信用できるのではないか?」
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異文化コミュニケーション('ω')ノ
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