第24話 グレイル視点

前話に続いてグレイル視点となります


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「異なる世界と道を通じることができるのは……早くて3か月。長ければ数年。次の召喚はいつ行われることになるのか……」

 一人目は、陛下の食事係として城にとどまっている。食べたことのない数々の料理に陛下は満足している。召喚された者も、住んでいたところよりも優遇された生活に満足しているようだ。

 二人目は、この世界の空気が合わなかったのかわずか数週間で体調を崩してそのまま亡くなってしまった。

 一人目で成功してしまったものだから、陛下は二人目の悲劇など頭になく、今回の三人目の召還だ。

 相次いで人を召喚していることで、隣国からの目も厳しくなってきている。

 西の国のようなとてつもない力を持った者を召喚し、戦争を仕掛けてくるのではないかと警戒しているのだ。

 さすがにもう、このまま召喚を続けさせるのは危険だろう……。

 頼りなさそうな小さな子供の肩を思い出す。

 馬車の中で眠ってしまったあの子……。小さくママ、パパとつぶやく声が聞こえた。親元から引き離してしまった罪は大きい。

「神官に聞くのがはやいんじゃないですかねグレイル隊長」

 確かにダンの言う通りだ。あとどれくらいで次の召喚が行われるか聞いたうえで……。

 1年先ならば、それまでに今のこの状況をひっくり返すよう準備すればいい。

 もし、準備が間に合わないような近い日であれば……。

「全く、人には三大欲求があると言うが……陛下も食欲にとらわれるんじゃなく、性欲にとらわれてくれたらよかったものを」

「ははは、世継ぎいなくて隊長が呼ばれたんですもんね~。今からでも陛下が結婚して子供作ってくれるといいですね」

 ダンの軽口に痛むこめかみを抑えて息を吐きだす。

 本当に。自分の子供を次の王にするというような欲があれば、自分が死んだ後の国のことをもっと考えてくださるのか。

 陛下は、自分が生きている間の快楽しか考えていないように思える。美味しい物を好きなだけ食べる。

 そのためならどんなことでもする。その結果教会が好き勝手し始めたのも野放し。

 隣国との関係が悪化しようが構わない……とは。

「今子供が生まれても、成人するまでには15年……その間、もつか?」

 陛下で、この国はもつのか……。

「やだなぁ隊長、陛下の命があと15年持たないって言ってるんですかぁ?」

 ダンが分かっていてわざと違うことを口にする。

 陛下の命が尽きれば王座は……。

「でも、あれだけ不健康そうな食生活をしていれば長くはないかもしれませんねぇ。異世界の住人の食べ物が我々に毒である場合だってあるでしょうし」

 ダンが俺の顔を見て口端を上げた。

「こりゃぁ大変だぁ。陛下に長生きしてもらうために、諫言したほうがいいんじゃない?まぁ、聞き入れるかは知らんけど」

 ダンの言葉に苦笑するしかない。

 邪魔になれば始末してしまえばいい、異世界の食べ物が毒だったせいにでもして……と暗に告げているのだ。

 世継ぎの問題がなぁ……。

 それにさすがに、腐っても陛下なのだ。その魔力は膨大なもので、簡単に人の手に落ちることはない。それ相応の犠牲を覚悟して綿密な計画を立てなければ。


 召喚が行える神官の部屋に来た。

「これはこれは、グレイル様。この度は……私が召喚した者が使えない人間でお手間を取らせました」

 神官の態度にイラっとする。

 申し訳ないと頭を下げているが、それは俺に対してだ。

 召喚した人間に対して悪いなどと少しも思っていない。

 確かに一人目は幸せそうに過ごしている。が、二人目は召喚されなければ死ぬことはなかっただろう。

 お前が召喚したせいで死んだのだ。良心がとがめるならば、三度目に子供を召喚してしまったことに心も痛めるだろう。そして、4度目の召喚の準備が手につかなくなることだって……。

 いいや。違う。この男のせいにするべきではない。陛下が命じている。命じられたことを遂行しているだけだ。我らとて、任務となれば人の命を奪うこともある。

 できることを一つずつしてくしかないな。まずは召喚を止めることだ。

「ところで、三人目の子供はどうして追放になったのだ?どんな食べ物を出したんだ?」

 もらった粘土のような食べ物を思い出す。あれが本当に食べ物なのか回復とかのアイテムなのかは分からない。他にどのようなものを食べているのかが分かれば、ヒントになるだろう。

「今までで一番高価な食べ物として出したものは、生魚でした」

「は?」

 生の魚が、一番高い料理?

「その次が生焼けの肉で」

「え?」

 肉はしっかり焼いて食べろと、もっとしっかり言い聞かせるべきだったか……!

「その、好きな食べ物として出したのは……排泄物のようなその……」

 神官の言葉に思わず手を口にやる。

「毎日食べているものと、最後に出したのは、腐った豆でした」

 ……。

 何ということだ!

 腐った豆や排泄物さえも口にしなければ生きていけないような過酷な世界で生きてきたのか。

 俺は……そんなことも知らずに……。

 自分では大した食べ物を出すことができないからと、何も差し出さなかった。

 が、あの子にとればパンさえもご馳走……!しっかり焼いた肉ですらもご馳走!そうだと分かっていれば食べさせてやったのに……!

 くそっ。

 今からだって、遅くないよな……。

「おい、ダン」

 神官の部屋を出ると副隊長を呼びつける。

「数日、隊はお前に任せた」

「はぁ?またですか?」

「俺がいない方が、のびのびとできていいだろ?」

 ダンがふぅと小さくため息をついた。

「のびきっちゃわないうちに帰ってきてくださいよ」

 あきらめたような顔をしたダンの背中をバンっと叩いてマントを翻す。

 まずは神殿に向かうか。本物の塩とはちみつを買ってあの子に食べさせてやろう。

 そうすりゃ、生きていくことはたやすくなるはずだ。

 塩は金貨30枚。はちみつは金貨100枚だったか。

 昔はそこまで高くなかったはずだ。塩やはちみつ業者と結託して値段を吊り上げているのは分かり切っている。裏金ももらっているのだろう。

 だが、本物を扱っているところが他にないから教会はやりたい放題だ。

 もうすでに庶民では手が出ない価格になっている。まぁ、本物を手に入れなくても、業者が庶民に手に入りやすい価格で塩もはちみつも売っているのだから、あえて庶民は本物を買おうとはしないのだが……。

 ギルドに行けば、異世界の食べ物を出すことで商売もできるだろうと思っていたが、排泄物や腐った豆では商売になるはずもない。

 塩とはちみつ。これは異世界に召喚してしまったせめてもの償いだ。安くはないが、償いとしては高くもない。



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てなわけで、塩をリツに食べさせたグレイルさんでした。

次話から視点戻ります

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