第3話
そうそう、召喚されたのはたぶんお城の謁見の間みたいなところだったと思うんです。
ふと、昨日の出来事を思い出しました。
何が起こったのか全然分からないまま、魔力増強装置と呼ばれる機械を頭にはめられました。
それから、目の前に拳くらいの大きさの赤い石を置かれたんですよね。
今までで一番高い食べ物を言ってみろと言われたので、何だったかなと一生懸命考えて「大トロの刺身」って言ったら、目の前に出てきた時はびっくりしました。
でも、びっくりしたのは私だけではなかったみたいで、すぐに私の横にいた人が叫びました。白い服に青い模様のついたローブみたいな服を着ています。神官さんとかそういうお仕事でしょうか?
「これはなんだ?これが料理か?!」
「これは、マグロという大きなおさかなを切った身です」
大トロっていうのがどの辺の部位だとか詳しいことはよくわからなかったのでそれだけ説明するので必死です。
「陛下……どうやら、魚の身だそうです。生魚の切り身のようです」
それを聞いて、立派な椅子に座っていたおじさんが不快な表情をしました。
陛下って呼ばれていたから、今思えば、あの人が王様だったのでしょう。茶色の髪に茶色の立派なおひげを生やしたサンタクロースみたいな体型の人でした。
「もうよい、次だ!」
陛下の言葉に隣にいた人が「戻れ」と言うと、目の前の大トロの刺身がぱっと消えて、元の赤い石に戻りました。
うわー、手品なのかな?
魔法みたい。って思っていたら、魔法だったのですが。
「2番目に高い食べ物を言え」
って言われて、大トロの刺身の次に食べたことのある高い食べ物は何だったんだろうって、一生懸命また考えました。
めったに高いものは食べられません。奮発して1500円のランチがせいぜいなのです。いえ、ランチよりも年に3度の焼肉の方が高いですね。
「あ!神戸牛のステーキ」
レアに焼かれた神戸牛のステーキは、本当に美味しかったです。友達と旅行に行ったときに旅館の夕食で食べました。
思い出してよだれをたらしそうになっていると、目の前の赤い石が神戸牛のステーキに姿を変えます。親切に当時の記憶通り、瓦のお皿に載っています。鉄板ではなく瓦で焼いたステーキなのです。遠赤外線で美味しく焼けるとか。
隣にいる人……神官さんが神戸牛のステーキを見て口を開きました。
「生焼けの肉です、陛下」
ふえええ!生焼けっていうとちょっと不味そうですよ。レアです。こういう焼き方なんですよ。
「なんだと?生魚の次は生焼けの肉じゃと??次じゃっ!」
陛下が怒鳴り声を上げました。
言い方が悪いですよ。刺身とレアのステーキです。
「戻れ」
男の人の声で、じゅうじゅうとおいしそうな音を立てていた神戸牛のステーキが姿を消しました。
「高い物はやめだ。お前の好物を言え」
今度は好物ですか?
えーっと、アイスクリームとかでしょうか。また怒らせるといけません。男の人に尋ねました。
「好物というのは好きな食べ物のことですよね?ご褒美のように特別に食べる物か、毎日食べても飽きない日常の食べ物かどちらでしょう?」
「どっちでもいい、さっさと出せ」
うーん。いわゆる好きな食べ物はなんですかみたいな感じでしょうか。でしたら……。
「カレーライス」
大好きです。
「なっ、これは、うん〇ではないかっ!戻れ!」
ちょ、今、とんでもないカレーファンに対する、言ってはいけない台詞トップ3に入る単語を口にしませんでしたか?
「いったい、お前の住んでる世界の食べ物はどうなっている……次は、毎日欠かさず食べるようなものを出せ」
毎日欠かさず?米とかパンとか?主食のようなものの話でしょうか?
おかずなら、ほぼ毎日食べていると言えば……。
「納豆」
うん。これですね。家で三食食べるときは、必ず1回は食べてますよ。美味しくて栄養もあってヘルシー!
「臭っ、こ、これは腐った豆ではないかっ!戻れ」
納豆が赤い石に戻りました。
……腐った豆。
よく、見た瞬間に分かりましたね。
納豆。納豆菌により発酵した豆なのですが、発酵と腐敗は実は同じ現象で、ただ人に有益かどうかで呼び方が変わっているという話なので、間違っていません。日本人にはとても有益な食べ物なので、納豆は腐敗ではなく発酵なのです!
「陛下、申し訳ございません。どうやらこの世界の人間はろくな物を食べていないようです!」
「その役立たずは追い出せ。次の召喚にとりかかれ。今度は美味しい物を食べてる世界の人間を呼べよ」
陛下の言葉に、頭にはめられていた謎の機械を乱暴に外されて部屋から追い出されました。そして、あれよあれよという間に馬車に押し込まれて、今に至るというわけですね。
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ざくざく更新していきます(*ノωノ)どうぞお付き合いお願いいたします。
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