男の正義の味方はもう現れない

FIIFII

第1話

 雪が降り積もる、とある田舎町。

 私は本日の夕方から雪が降るとのことでタイヤを変え、お気に入りの車でドライブしていた。

 だが一人である。彼女は社員旅行で数日帰ってこないのだ。

 偶にはこんなのも良いだろうとゆっくり走らせていると、不意に電柱の下になにかが動くのが見えた。


 よく見ると、道端で少女が蹲って泣いていた。

 小学校にも通っていないような、幼い娘だ。

 慌てて車を降りて、会話を試みる。

 どうやら母親と離れてしまったようだ。典型的な迷子である。

 この近辺には田舎らしいこぢんまりとした店がぽつぽつとある。

 迷子になった時用の連絡先も持っていないようで、交番に届けようと考えた。

 ひとまず少女を車に乗せて、最寄りの交番まで行った。


「すいません」

「どうかしましたか」


 出たのは随分とお歳を召した男性職員だった。

 訝しげな目で私と少女を見やる。


「はい、この子が道で泣いていたもので」

「ははぁ、誘拐か?」

「はい?」


 わけがわからない。

 私は事情を説明しようと口を開いた。


「あの……」

「おい! 自首だ! 手続きするぞ」

「自首ですか!?」


 奥から若い男性が出てきた。

 見るからに熱血タイプだ。

 でかい声を出したせいで少女が怯えている。


「話を聞いてください」

「ああ、後でじっくりと聞かせてもらう」

「いや、ですから」

「部屋の準備できました!」

「よし、黙ってついてこい。抵抗するなよ?」


 本当にわけがわからない。



 ===



 結果から言うと、誘拐の容疑者として扱われた。

 少女の親からは軽蔑の視線をもらうし、どこからかマスコミが知ったようで実名報道はされるし、二週間ほど拘留された。

 追い打ちのように仕事を首にされるわで、まともな人間なら首を吊っているところだ。


 私は悪いことはしていないのに、理不尽だ。

 全く、納得いかない。



 ===



 数ヵ月経過した。

 心の傷も癒えて、新しい職場に慣れてきた頃だ。


 朝の準備を整えて、テレビをつける。

 ニュースが流れていた。


 内容を簡潔に説明すると、女子中学生が5歳の男の子を保護して警察まで連れていき、感謝状を貰ったということだ。

 ……男女差別も大概にしろ。

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