太陽が沈む

伊藤壱

第1話

私はたいがい七時半頃に目を覚ます。


普段は布団から出て顔を洗った後、

服を着替えるのだけれど、そういえば今日は休日だった。


私は布団にふたたび潜り込み、

昨夜脇に置いた読みかけの文庫本を開く。


最近好きになった作家さんの作品を、

少しずつ集めては読み進めている。


十時半頃に読み終わり、一息ついたらお腹が空いた。


冷蔵庫には卵が数個と、

以前友人が来た時に置いていった

レモンサワーの缶が二つしかなかった。


「はあ、、昼飯買いに行くか」私は寝巻きをぬるぬる脱ぎ、

近所のスーパーまで歩いていった。


ブロッコリーと納豆、あとはレトルトカレーを買って、

スーパーを出た私は、なんだか妙に夕暮れの気分になった。


今はまだ正午にもなっていないはずだったが、

私は確かに、あの何とも言えない物寂しさと、橙の空気を感じた。


私の右斜め上に太陽はいた。

ずいぶんと低い位置で、キラキラと輝いていた。




こういう時に誰かと一緒にいたくなるのは、

その体温を求めているからだろうか。


ちょうど、うちに帰ったらすぐに

こたつに飛び込んでぬくぬくしたくなるように。


それとも私は、ここにきて、

一人で生きていくことができなくなってしまったのだろうか。


このしようのない感情を少し前の私は、

そこまで重視していなかった。


そもそも、私の心の中にあったのかどうかも定かでない。

とにかく私には関係のないことだろうと、


どこかの誰かが感じるよくある感情なのだろうと、

軽く考えていた。


それが今になって、大事に大事に、胸の少し下の、

鳩尾あたりにぷかぷかと浮かべて持てあましている。


私には、こいつをどう扱えばいいのか分からなかった。

初めて赤んぼうを抱くときの、あのぎこちなさによく似ている。


何度も深く息を吐いて落ち着かせようとする私の身体は、

苦しくて、なぜか、熱かった。




私はそのまま、近所の骨董屋さんに向かい、

来客用の湯呑みと自分用のをふたつお揃いのを、新しく買った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

太陽が沈む 伊藤壱 @itohajime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る