拙作のアゴニー
eLe(エル)
第1話 存在価値
妖精みたいな女の子は、用が済めば小猿に変わる。俺から諭吉の束をもらった時、繕いもせずニヤついて見せる。
「ありがとね、パパ。それじゃまた」
「あ、ちょっと」
「何?」
「んと、ほら、前言ってたじゃん。今日は泊まってもいいかもって」
その場を去ろうとする彼女を引き止める。わかりやすく面倒くさそうな顔をする彼女。だが、そう簡単に帰してなるものか。こっちは十万も払ってるんだ。
「あー、それは気分が乗ったらっていうか」
「何だって?」
「もー、がっつく男は嫌われるよ? ね、次会ってくれたら、その時はパパの好きにしていいからさー?」
猫撫で声とは正反対に、蔑むような視線を浴びせられる。俺もクズだが、こいつはそれ以上のクズだ。引き止める術もなく、バイバーイ、と憎らしげに手を振って逃げるように去っていった。
「おい、ちょっとお前ッ……」
一人取り残される小太りの中年。周りにはそれほど人がいなくとも、駅前で小娘相手に怒鳴り散らしたり、無理やり腕を掴もうものなら、結果は明らかだ。それは自分でも分かっている。
「くそっ、あいつ足下見やがって……」
近くにあった空き缶を蹴飛ばす。しかし思ったより勢いが良いせいで、閉まっていた酒屋のシャッターに当たってしまう。シンバルのような音に思わず身を硬らせるも、幸い店の主人は留守のようだった。
「……仕方ない」
場所を変えようと向かったのはネットカフェ。慣れた手つきでパソコンを立ち上げ、おすすめのウェブサイトを巡回する。こんな日は十分な腹いせが必要だ。そうだな、アイツに似た小柄なタイプで、随分と酷い目に遭うようなシチュエーションを……
と、一人の楽しみに浸っている時、メールの着信が。滅多に鳴らない通知だ。ため息を吐いて、渋々眺める。そこには同窓会の案内が届いていた。
「……何が同窓会だ、下らねぇ。てか、なんで俺のアドレス知ってるんだよ、クソが」
そう呟いてスマホを机に放り投げる。思い出したくもない、青春の日々とは程遠い学生生活。誰にも見向きもされず、これといった特技もなく、パッとしないぽっちゃりブサイク。ラノベに良くあるような陰キャラダウナー展開をそのまま、異世界にも行けず仕舞いで早十五年。
救いの手を差し伸べてくれるような存在に出会うわけもなく、親のスネをかじって今に至る。だからって天罰が落ちるわけでもない。俺みたいなクズでも、世の中にはもっとクズがいるらしく、そいつらでさえもノウノウと生きている。
と、そんな俺は学生時代の外見から四割増しで肥大し、服や髪型に金を掛けるわけでもない。首筋を何度も爪で引っ掻きながら、先の通知を思い出していた。そんな近況を誰かが知ったのか、面白半分で俺に誘いを寄越したんだろう。まともに話したこともない陽キャ連中の顔を想像するだけで、虫唾が走る。
どうせどいつもこいつも、家買ったんだよねとか、子供が二人目でとか、幸せアピールする為に集まるんだろうよ。それもほとんど出来上がったグループでの出来レースみたいなもんだ。俺みたいな連中は所詮、場を盛り上がる数合わせ。何でそんなとこに金を払ってまで……
「……いや、待てよ。これは逆にチャンスじゃねぇか?」
そう呟いて、とあるサイトを開く。マイページにログイン。そこには自分の宝、存在価値が鎮座していた。
「くく、どうせ笑い者にしようとしてるってなら、逆に笑い飛ばしてやるか」
そうして数ヶ月後の同窓会への案内状には、出席に丸を付けて投函した。
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