因習島特産フルーツ「さきみ」
なも
太平洋に浮かぶ白部島
ある日、俺は大学の研究で、太平洋に浮かぶ小さな島、
ジリジリと照りつける夏の太陽の中、東京港から船に揺られて数時間。白部島にたどり着いて、船を降りると、船着き場にいた少女に話しかけられた。
「下総大学の福島さん……ですよね?白部島へようこそ!」
俺の名前を呼んだ少女は、歳は10代後半くらいで、深緑の着物を着ていて、太ももまで伸びた黒髪を三つ編みにしていて、東京では見ないような垢抜けなさがある少女だった。
俺は彼女についていって、品川ナンバーの車に乗せられた。
品川ナンバーというとお金持ちそうだが、単にナンバープレートの区分が東京の離島では品川になるだけである。
「では、旅館に向かいますね。
あっ自己紹介しなきゃですね。私は
旅館で案内担当してます。島のいいところ、沢山案内しますから、よろしくお願いしますね」
「ああ。よろしく」
「ではまず、この島について語りましょうか……
この島は火山島で、この島の中心にある白部山は活火山です。
島民はこの山を『おしらべさま』と呼んで、神様として崇めているんですよ」
「そのおしらべさまについて、俺は知りたい。
白部島土着信仰には先行研究がない。俺が最初の論文を出して、学会をぎゃふんと言わせてやりたい」
「へぇ、もう既におしらべさまについてご存知なんですね。どこでこのことを?」
「高校の頃の友達が近くの島の出身で、白部島はヤバいって言ってたんだ。それで気になったけど彼が言うことは一切メディアに載ってなくて、本当なのか確かめに来たんだ。本当だった」
「なるほど……そんなルートからこの島のことがバレるんですね……
とりあえずこの島について興味がおありなら、今夜開催される祭りの主役になってみませんか?」
「俺が……主役?」
「白部島の祭りの主役はお客様です。
『さきみ』を食べて、山車が走り回って、島民のまんじゅうを堪能して、最後におしらべさまに挨拶するんです」
「ちょっと待て、『さきみ』って何だ?」
「この島でしか採れない、幻のフルーツです」
「へえ……そんなものがあるとは」
「祭りの時以外食べちゃ駄目なので、みんな楽しみにしてるんですよ」
「そうか……その『さきみ』のことも論文に書きたいな」
そんな話をしているうちに、旅館に到着した。
その旅館は島唯一の旅館で、名前が『さきみ』だった。
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