山を掘る男
ツヨシ
第1話
休みの日、近くの山に山菜を取りに行った。
趣味と実益を兼ね備えて。
いつものルート、まず人に会うことがないところを歩いていると、音が聞こえてきた。
ザッ、ザッ、ザッ。
なんだろうと思いながら、恐る恐る近づいていく。
ここは山の中だ。
危険な動物とかがいるかもしれない。
近くまで来てわかった。
男が地面を掘っているのだ。
その男は古びた作業服を着ていた。
男は背を向けていて、私には気づいていない。
夢中で掘っているようだ。
刑事ドラマが好きな私は「死体でも埋めているのか」とも思ったが、男のまわりにはそのようなものは見当たらない。
しばらく隠れて見ていたが、男の穴掘りは順調に進んでいるとは言えなかった。
山の土は一般の人が思うよりはずっと硬い。
おまけに振っている男は、背も低くく痩せていて、服の上から見るその身体に多くの筋肉が備わっているようにも見えない。
私が見ている間、穴掘りはほとんど進まなかった。
――なんでこんなところに穴を掘っているんだろうか。
そう思いながらも、私は静かにその場を後にした。
しばらくして、また山菜を取りに山に入った。
山菜取り。
山の中を歩きまわり山菜を探すのは、楽しいことは楽しいのだが、身体はどうしても疲れてしまう。
仕事で疲れているのに、休日のさらに疲れを増すのはよろしくない。
ゆえに一度行くと、次はしばらく間を開けるのだ。
またいつものところを歩く。
山で慣れていないところを歩くのは危険だからだ。
すると、また聞こえてきた。
ザッ、ザッ、ザッ。
そろりそろり近づく。
するとあの男がまた同じ場所で穴を掘っていた。
男は穴の中に入り、穴の深さは男の櫛の高さくらいになっていた。
あれから約一か月が経つと言うのに、この男はまだ穴を掘っているのだ。
穴の形状は長方形で、大の大人一人が横たわれるくらいの大きさがあった。
――やっぱり死体でも埋めるのか。今は見当たらないが、穴ができてから死体を持ってくるつもりなのか。
そう考えたが、死体を隠すために穴を掘っているとしたら、時間がかかりすぎている。
死体なんてものは一刻も早く埋めたいはずだ。
腐るし見つかるとまずいし。
私は悩んだ。
通報するべきかどうかを。
でも見ている限りでは男は穴を掘っているだけで、男が死体を埋めようとしていますなんて言えないし、死体を埋めるにしては、男の行動はなんとなく不自然だ。
そのまま見ていたが、特に進展はなさそうなので、私はその場をゆっくりと立ち去った。
それからしばらくして、また山に入った。
そしていつもの決められたルートを歩く。
するとまた聞こえてきたのだ。
ザッ、ザッ、ザッ。
これで三度目だ。
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