第13話 隣の芝は青くない

 午前中は結局、自分の机周りを整えたりしているだけで過ぎてしまった。

 研修で一緒になった同期たちの中では、生き返り課はあまり配属されたくない部署の上位に入っていた。それは、もうすぐ死ぬ人と向かい合わなければいけないという精神的なものもあるし、忙しいという噂も聞いていたからだ。ただ、生き返りに縁がない人がほとんどの為、謎に包まれているというのも確かだった。


 かなり身構えて来たのだが、今のところ考えていたイメージとはかけ離れている。

 百戦錬磨の公務員といった感じの人たちに囲まれて怖い思いをしそうだ、なんて思っていた。だが、課長の松下を除けば意外とみんな若い。そして、自分の父親より年齢が上そうに見える松下はとても穏やかだ。

 これからはどうなるかはわからないが、上司が優しそうな人だというのは心強い。



 お昼は新人研修で知り合った同期の大西おおにし亮介りょうすけと一緒と食べることになっていた。初日くらいは一緒に食べようという話になっていたのだ。

 食堂で会った彼は、目に見えてぐったりしていた。疲れのせいか険しい顔をしていたので、合流したときに思わず一歩引いてしまったくらいだ。かなりお腹が空いているのか、カレーを食べている和季の横で、もっさりと皿に盛られた揚げ物をがつがつと食べていた。


「窓口はやばすぎる。まだ何もわからないのに人がどっと来て、右も左もわからない初心者なのに容赦など無い。初心者マークが、欲しい……」


 掠れた言葉を呟いた後がっくりと机の上に突っ伏した姿が、辞世の句を残して倒れた人のようだ。すでに山盛りだった揚げ物は消えている。


「そっちも大変なんだろ?」


 と、言われると誤魔化すように笑うしか出来なかった。こっちはまだ仕事らしき仕事はしていない。

 どうやら部署によって初日でも激務になってしまうようだ。



 昼休みを挟んで生き返り課の部屋に戻ると、昼休憩終わりのチャイムが鳴っても霧島の姿がなかった。が、誰も何も言わない。

 部屋の中を見回すと、ホワイトボードには『霧島・外回り』と書かれていた。


「あ、あの……」

「ん?」


 和季が声を掛けたからなのだが、白瀬がこちらを向く。やっぱり目つきが鋭い、というか怖い。一瞬体を引きかける。が、


「えっと、生き返り課で外回りってあるんですか?」


 気になることをそのままにしておくのは、あまりよくない。


「ああ、霧島さんか」


 余計なことを聞いただろうかと思ってしまったが、白瀬はごく自然な様子で答えてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。


「うん、生き返りを担当するとき以外でも色々あるよ。生き返りの人には割引もあるでしょう?」

「はい」


 それは聞いたことがある。


「あれね、出来るだけたくさんの施設とか店にお願いしたいから、直接交渉に行ってるの。すでにやってくれてるところにも継続してもらえるように挨拶に行ったりね」

「そうだったんですか……」

「そのうち、萩本君にもやってもらうことになるよ」

「は、はい!」


 てっきり生き返り課の仕事は生き返りの人をサポートするだけかと思い込んでいた。


「そうですよ~。色々やることあるんですよ。暇だと思ってました?」


 向かいの席からひよりの声も飛んでくる。


「え、と、そんなことは」


 暇などということは考えていない。生き返りが出ていないときでも人と関わらなければいけない仕事があるのかと、身構えてしまっただけだ。

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