FAVORITE DAY

クロノヒョウ

第1話



 止まない雨はないなんて誰が言ったのだろうか。


 梅雨の時期に降りだした雨。


 テレビから梅雨明けしましたという言葉を聞くこともなく雨はそのまま降り続いた。


 日本の上空に雨雲が居座ってから半年。


 季節は変わり、冬になっていた。


「何? また雨を眺めてんのか?」


 ちょうど雨が降りだした頃に産まれてきた息子の大地。


 やけに静かだと思いベビーベッドを覗くと大地は窓の外をじっと見つめていた。


「雨が好きなのかしら」


 キッチンに立つ妻がそう言って笑っていた。


 大地はまだ晴れた空を見たことがない。


 雨が気に入っているようだが、息子にもキラキラと輝く太陽を見せてやりたかった。


「きっとお前も気に入るぞ」


 俺は大地のほっぺたをちょんっとつついた。


「じゃあ、行ってくるよ」


「あなた……」


 玄関に向かうと妻が心配そうな顔で駆け寄ってきた。


「大丈夫。きっとうまくいくから」


「でも……」


「大地と一緒に空を見ててくれ」


「……はい」


 俺は妻を抱きしめてからドアを開けた。


「行ってらっしゃい」


「ん」




 仲間と共に戦闘機に乗り込んだ。


 雨の中を上昇し、居座り続ける分厚い雲を抜けると半年ぶりに見る青空が広がった。


「ワオッ!」


「綺麗だな」


「気持ちいい」


「太陽最高!」


 仲間たちと興奮しながら無線で話した。


「さて、おしゃべりはそのくらいにして、皆位置についたか?」


「イエッサー」


「オーケー」


「いつでもどうぞ」


「ではこれよりスカイレスキュー作戦を開始する! 位置について……スリー、ツー、ワン、GO!」


 俺たちは空に散らばり、雲の中を戦闘機で駆け抜けながらミサイルを撃っていった。


 ミサイルで強制的に雲を散らそうというスカイレスキュー作戦だ。


 準備していたミサイルを全て撃ち終えた。


 そして再び雲の上に出た。


「任務完了!」


 俺たちは戦闘機の中から雲の様子を見下ろしていた。


「どうだ?」


「まだミサイルの煙でよく見えません」


「頼む。成功してくれ」


「止まない雨はないんだろう?」


 皆で祈るように下を見ていた。



 地上では日本中の人たちが空を見上げていた。


 皆傘をさしながら、半年ぶりに空を見上げながら。


 しばらくの間、雷のようなミサイルの爆発音がゴロゴロと鳴り響いていた。


 音が止むと人びとに緊張感が走った。


 雨はまだ降っている。


 皆が息を飲んだ瞬間だった。


「おおっ」


 どこからともなく歓声が聴こえた。


 一本、二本、三本と空から光の線が降ってきた。


 あっという間に何十本にもなった光の線は辺りを眩しいほどに包んでいった。


 そして降っていた雨に反射して空全体が、街全体がキラキラと輝き出した。


「わあっ」


 街はため息のような感嘆の声と共に光に満ち溢れていった。



「あっ」


 外を眺めていた妻は息子の大地の顔に光がさしてキラキラと輝いていることに気付いた。


 寝ていた大地が目を開けた。


 初めて見る太陽の光に眩しそうに目を細めながら体を一所懸命に動かしていた。


「ハハッ」


 大地の口から声が漏れた。


「大地? 今笑ったの? あはっ」


 妻は大地をベビーベッドから抱きかかえた。


「パパすごいねぇ。綺麗だね、大地」


 妻の腕の中で大地は体をバタバタさせている。


「気に入ったの? よかったでちゅね~」


 妻は嬉しそうに息子を抱きしめていた。


 日本中の人びとにとってこの光景は輝かしい誇りとなった。


 日本はこの日を「FAVORITE DAY」と名付け、国民の祝日となり今でも讃えられている。



          完



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