ゲームは初心者だけど
[ところで、草白さんゲームの話したことないけど、実際どうなん?]
「ゲームですか? VRMMOはこれが初めてですよ?」
視聴者からの質問に、カラーはにこりと笑ってさらりと返事した。
そしてその瞬間にコメントの流れが騒がしくなったのは言うまでもないことである。
[まてーい!]
[ちょ、ま、初めてのVRMMOで配信って、ちょ]
[しかも最新作で誰もまだプレイしのノウハウ持ってないやつをやるとか]
[完全初心者キタコレ]
[MMOゲーム特有のマナーとか大丈夫か?]
[カラーは完全なる中立・善だから問題引き起こすとも思えんくはあるが……]
[でも草白さん、中の人が天然やん?]
[それな。てか、今まさにな]
[なぜそれでゲーム配信やろうと思ったの???]
[ちな、これまでのゲームの経験をお伺いしても?]
コメントを見ていたカラーが人差し指を自分の唇にとんとんと当てて考えを巡らせる。
んー、というのんびりした声がしばらくの間視聴者に届けられた。
「ゲームはあんまりやらないですねー、誰かに誘わなければ。こないだの大乱闘も半年ぶりでしたかねー?」
[不朽の名作]
[一世紀以上続くってよくよく考えるとヤバいよね、あのシリーズ]
[年末ってそれ、ミコトメゾンのみんなで遊んだやつやん]
[あー……みんなが気を使って草白さんを狙わないでいたのに、草白さんががんばって戦おうとして大技に巻き込まれて吹っ飛んでった回な]
[雫とカケルがお互い張り合って大技使い過ぎなんだよな]
[そして小技で隙がないアリス]
[傍で見てるオレらでさえ、どっから出て来たって叫んだミヅナの隠密もやばかった]
[早々に脱落して酒飲んでたまほパパと比べれば、カラママはがんばってた]
[でもカラーは他のみんなが好きすぎてまともな攻撃出せないっていうな]
[自発弱攻撃縛りは草]
[待って。半年ぶりってその前にやったゲームも全員企画のぷよ対決の時じゃん]
[そこに気付くとは天才か]
[【圧倒的初心者】なんかおもろい人がおもろい実況すると聞いて【新作ゲーム】]
「あの配信は盛り上がりましたよねー。みんなで遊べて楽しかったなぁ」
自分がまともに対戦出来てなかったのはまるで気にしてないカラーは、前のゲームを思い出してほんわかと笑っている。周りが楽しそうにしているのを見てれば幸せになれるし、こうして思い出すだけでも幸せになれるし、本当に性根が美しくはある。
「あ、それでなんでゲーム実況しようと思ったのかと言うとですね、カケルくんがカラーさんもやってみたら面白いんじゃないかって言ってくれたんですよー」
[元凶はバカケルか]
[その場にしずくんいなかったんだな]
[鞍目ちゃんが最近ゲーム実況にハマってるの知ってるけどさぁ]
[実際、カケルが見てる検証動画はプレイにめっちゃ役立ったわ]
[あのアクセル全開のバイク女、相変わらず騒ぎ起こしてからに]
[箱みんなで仲良い感じか、いいじゃん]
[ミコトメゾンのみんなは同居してるからね]
[なん?]
しかし初見の人がちょっと付いて来れてないのを見て、カラーはパンと手を打って注意を引いた。
「そう言えば、初見さんが多いので、ちょっとわたしの自己紹介もしましょうか。
カラーはそう言って腰を起点に上半身を左右に捻りながら、そこを指差した。
[草白なんて色初めて聞いた]
[アヴァターがアシンメトリーなのに整ってて美しいのよい]
[草白さん、見た目満点だよね]
[中身もおもしろいけどな]
自分の姿を褒められて、カラーはくすぐったそうに喉を鳴らす。
「それで、わたしたちMicotMaisonですが、六人でハウスシェアをしてまして、ライバー同士の日常でのやり取りも配信して人間関係も楽しんでもらうというコンセプトのレーベルなのですー」
[実際、日常回の面白さは癖になる]
[草白さんが家事をメインにやってて、日常配信も一番多いんだよね]
[大人組の飲み回とか、深い人生観語ってすげーんだよな]
[傘音×鞍目のケンカップル(カップルではない)も見てて尊いんよ]
[ミヅナちゃんがママに甘えてる様子のこっそり配信とか至高]
[その後、ミヅナちゃんが顔真っ赤にして絶叫してオレらの耳潰すまでがセット]
[平和だな]
[そんなことやってるライバーがいたんか。チャンネル登録しとこ]
「あ、チャンネル登録ありがとうございますー」
芸能人の私生活がゴシップで人気なので明白だが、憧れの存在、話題の人物がどんな生活をしているのかに興味を抱く人間は多い。プライベートは守られて然るべきなのは当たり前として、MicotMaisonではライバーとして見せていい普段の生活としてハウスシェアを企画した訳だ。問題を邪推する輩や覗き見根性で実在地を探る輩もいるのだが、MicotMaisonの運営会社であるエヴァリディールの施したセキュリティは、演者の素顔を欠片も露見させず、部外者も決して近寄らせていない。
[ところで配信が十五分経ってもゲーム始まってない事実について]
「あらー。全然ゲーム出来てなかったらタイトル詐欺になってしまいますねー」
至極もっともな指摘を受けても、カラーは困っているようには見えなかった。
それでも本題を進めようという気はあるようで、指でレトリック・プレイ・オンラインのアプリケーションスフィアを招きながら会話を続ける。
「そうそう。それでカケルくんが、草白さんは頭いいからきっと検証やったら面白いぜ、って言ってくれたので、検証をやってみることにしたんですよー」
[まてぇええええええええい!!!!!]
[バカケル! バカケル! お前はなんでそう! なんでそう!!]
[ママ、言われてそのまま始めるとか素直過ぎでしょ]
[検証すんの!? ゲーム自体がほぼ初心者なのに!?]
[そもそもこの人検証の意味分かってるのかな?]
[【トリプル役満】初心者ゲーマーによる独自システムありの最新ゲームの検証動画か【面白いことはやらかしそうではある】]
[ちょ、笑いすぎて腹痛いんですけどwww]
[なにがこわいって、この人めっちゃまじめに言ってるのがこわい]
カケルと二週間前に話して、あれよあれよとマネージャーと打ち合わせして本社に企画を通してしまったから他のメンバーが説得する間もなかったのはここだけの話だ。企画のプレゼンも行動力も有能なのだが、有能なのが困ったものというのも何とも言えない話だ。
「あ、検証っていうのはちゃんとカケルくんから教えて貰ってますし、他の方の動画も確認しましたよー。攻略法とか確認出来ないデータとかを実験証明して公開するんですよねー」
[草白さん、真面目で勉強家]
[まじめなのにぶっ飛んでるってどういう思考回路してんのこの人]
[カラー的には割と平常運転]
[取りあえず戦犯は鞍目カケル]
[実行犯逮捕レベルの明白な事実]
視聴者を大いに騒がせながら、ようやくRPOのアプリケーションが起動した。
配信空間が展開されたのと同様に、RPOのアプリケーションスフィアが自転しながら形を崩し、そのデータストリームでカラーのアヴァターを包みこんでいった。
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