第10話 人間の大人

 どうも、小さいおじさんです。

 前回は子供に確認をしようとして失敗してしまいましたが今回は危険の少ない大人に確認をしようと思います。


 子供の確認はまた改めてしようと思います。


 というのも、人間の事に詳しい仲間によると私のこの姿は人間の子供ではなく大人が想像したのではないかという事です。

 確か何かで私たちの存在が広く知れ渡った事で見える人間が増えた結果として私たちの姿を想像する人間も増え、私たちの姿もこのように変わったのだと。

 確かに私と似た格好をしている大人をよく見かけます。


 しかし、いざ見える人間の大人を探してみると中々見つからないものです。


 今もこうして昼間に公園のベンチで佇む私と似た格好をした人間の大人の男性の前に姿を現しても、男性は下を向いたままでまったく反応してくれません。

 その後も男性に向かって変顔やお尻ペンペンなどをしてみても男性は下を向いたまま溜息をつくばかりで私の事は全く見えていない様です。


 仕方なく今度は昼間に人間の大人が集まる会社という建物に来てみました。

 ちょうど給湯室というところで大人の女性が一人になったので近づいてみました。

 すると女性が何かぶつぶつ言ってるのが聞こえてきました。

「クソ課長が!何がお茶だよ!時代錯誤なんだよ!」

 女性はそう呟くと足元のバケツに入っていた雑巾をお茶を注いだ湯呑の上で絞っていました。

 何をしているのかわかりませんでしたが、その女性のどす黒い怒りの感情が伝わってきて、あまりの恐ろしさに私はその場を足早に去りました。


 私はそのまま公園まで戻ってきました。


 すると、先ほどの大人の男性が座っていたベンチに今度はおじいさんが座っていました。

 もしかしたら人生を達観したお年寄りになら私の事が見えるかもしれない。

そんな期待を抱き私はベンチの背もたれに登ると意を決してそのおじいさんに話しかける事にしました。


「ちょっと、いいですか?」

「……はあっ?」

 どうやら声は聞こえてる様です。

「私の事が見えますか?」

「ええ、おかげさまで」

 私が前に出るとおじいさんは笑顔で答えてくれました。

「私はどのように見えますか?」

 意思疎通が取れた事に嬉しくなった私は前のめりになって聞きました。

「本当にいい天気ですね」

……ん?どういうことでしょう?

「……あの?」

「今年で90歳になります」

「いえ、年齢を聞いたのではなく……」

「本当に可愛い孫たちです」

「私の事は見えますか?」

「ああ、婆さんには先立たれましてな、今は一人なんですよ」

「……」

 どうやら耳が遠いようです。

 これではいくら話しかけても会話は噛み合わないでしょう。


 結局、私がどのように見えているのか確認する事はできませんでした。

 やはり人間と意思疎通をとる事はできないようです。

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