第3話 宝箱が自動でリスポンするわけないでしょ。

 さて、今日も冒険者たちを迎え入れますか。

 俺は今日も朝早くから「深淵の迷宮」に出勤する。基本的にダンジョンは24時間年中無休で営業している。おっと、訂正。週に一回、各階層を順番にメンテナンスしている。簡単に言うと安全点検だ。一応命を預かっている仕事だからな、こちらの不手際で冒険者たちに迷惑をかけるわけにはいかないんだ。……本当はそんなときの補償金を払うのが大変だから、という理由もあるんだけど。


「マスター、マスター!」

 俺のことをそう呼ぶのは、泊まり番をお願いしていた「宝箱師」のポプリだ。ノームの女の子で、宝箱師の名前の通り、ダンジョンに宝箱を設置するのが主な仕事だ。

「どうしたポプリ?」

 俺が尋ねると、ポプリは大きなあくびをしながら言った。


「そろそろ第4層の宝箱がなくなりそうだってプリメーラが言ってた。最近4層に冒険者が殺到しているからさ」

「そっか、ならまたポプリに仕入れをお願いしていいか? この前王都から仕入れた武器が好評だったろ……また似たようなものを頼むよ」


 宝箱師は宝箱に入れるアイテムを仕入れるところから仕事が始まる。王都で縁のある武器商人から特別な武器を仕入れたり、鎧技師に特注品を作ってもらったり、貴重な魔物の素材を探してきたり。宝箱設置よりも、どちらかというと仕入れの方が大変かもしれない。冒険者が欲しがるようなアイテムにしないと文句を言われることもあるからな。

「今日は無理だよ、これから帰って寝なきゃ。で、明日王都に行くとして……ええっと……4日ちょうだい。そしたら収納袋いっぱいにアイテムを入れて帰ってくるから!」

 俺はわかった、とポプリに告げると業務を交代した。


 そして言葉通り4日後、ポプリは収納袋いっぱいに戦利品を詰め込んで帰ってきた。「えへへ、今回は掘り出し物も多かったんだよ!」という彼女の言葉通り、炎の剣に雷の杖、侍が使うカタナと呼ばれる武器や魔力の込められた鋼の鎧などなど大量のイイものを自慢げに見せてくれた。


「こりゃあ第4層はますます繁盛するかもしれないな、ありがとうポプリ。これだけあれば当分アイテムには困らないな」

「いやいやマスター、これは6層レベルのアイテムも含まれているからね! 4層程度にはもったいないものもたくさんあるから!」

 ポプリの鑑定眼は確かなもので、俺には価値がよくわからないものも的確に分別する。ほんと、彼女を雇うことができてよかったと心から思う。ポプリとの出会いはまた別の機会があれば話すことにしよう。


「じゃ、今週末のメンテナンスのときはマスターもいっしょに手伝ってね。結構な数の宝箱を準備しないといけないんだから」

「えっ、今週末は家族でピクニックが……」

「マスターががんばって早く仕事を済ませれば、その分ピクニックの時間も増えると思うよ」


 やばいぞ、宝箱設置のためには――まずアイテムの選別をして、それらをひとつずつ宝箱に入れる。そしてそれを持ってダンジョンを駆け回り、ポプリが指示する場所に設置する――相当な時間を必要とする。

 こりゃ毎日少しずつ残業して、メンテナンスの日にできるだけ作業が少なくなるようにしないといけないぞ!

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