星に願いを

青樹空良

星に願いを

「あ! 流れ星!」


 隣を歩いている歩美あゆみが急に大きな声を出す。

 指さす先を見上げても、そこにはもう何もなかった。

 ただ、星空があるだけだ。


「なんだよ。なんもねーじゃん」

「バカ。流れ星ってのは一瞬なの!」

「いてっ!」


 歩美は気安く俺の頭を軽く叩く。


「ぽんぽん叩くなって! 頭悪くなったらどうすんだよ」

「最初からバカなんだからいいでしょ?」


 ため息が出る。


「だいたい、家が隣だからってなんで勇一ゆういちなんかと一緒に帰らなきゃいけないんだか」

「はぁあ!? お前の母さんが危ないから送ってくれとか言うからだろ。別に好きでやってるわけじゃ……」

「ふぅん」


 急に歩美の機嫌が悪くなる。

 子どものころからずっと一緒にいても、こいつの機嫌が急に悪くなるタイミングはいまだによくわからない。


「あ」


 仕方なく見上げた星空に、今度は俺が流れ星を見つけた。


「本当に流れ星だ」

「嘘っ!? 今度こそ願い事しなきゃ!」

「あ~、もう消えた」

「ええー!!」


 さっきは自分で一瞬と言っておきながら勝手なもんだ。


「そういや、そんな迷信もあったな」

「迷信とか言うな!」


 再び頭に軽い衝撃。

 こいつはなんだ、俺の頭をクイズの早押しボタンか何かと勘違いしているのか。


「一瞬で流れる星に願い事が言えたら、叶いそうにない夢とか叶うかもしれないじゃん」

「そんなもんかね」


 歩美は本気で信じてでもいるのか、真剣な目をして星空を見上げている。

 もはやハンターの目だ。

 ちょっと怖い。


 再び流れ星。

 もしかして、今日は流星群でもある日なのかもしれない。


 歩美は何かを口に出そうとして、星の流れるあまりの速さに一言も発せないでいる。


 星は、まだ降ってくる。


「あ……!!」

「な、何!?」


 俺が突然発した言葉に歩美が驚いた顔でこちらを向く。


「急に驚かさないでよ」

「驚かそうとしたわけじゃねぇよ」

「だったら何」

「俺も願い事しようと思っ……あ……!!」

「あ、って何!」

「今また流れ星が見えたんだよ、だから」

「一言叫んでるだけじゃん!」

「一言しかいう暇がねぇの!!」

「口に出してるなら、もうそのまま全部言えばいいのに。とろいなあ」

「お前だって、さっきから一言も言えてないくせに」

「う……」


 歩美が黙る。

 一言でも口に出している俺の方が一歩リードだ。

 低次元の争いだが。


 確かに歩美の言うとおり、思い切って最後まで言ってしまえばいいだけなのかもしれない。

 流れ終わるまでに、なんてのが無理なら口に出したもん勝ちという気もしてくる。


 よし!

 声には出さずに気合を入れる。

 次に星が流れた時が勝負だ。


 何を言うつもりなのかは知らないが、隣で歩美も星空を睨みつけている。

 そこまで真剣にならなくても、なんて自分のことを棚に上げて思ってしまう。

 隣にいる俺のことなど、もう目に入っていないような顔だ。


 本当にこの幼なじみは、昔から変なことに夢中になる。

 まあ、そんなところが可愛いなんて思ったりもするのだが……。


 キラリ。

 細い光の筋が目の端をかすめる。


「歩美と両想いになれますように!」

「勇一と両想いになれますように!」


「「は!!?」」


 俺と歩美の声が重なる。

「「そんなの星じゃなくて私に直接言ってよ!」

「ああ!? お前こそ俺に言えよ!! どこが叶わない願いだって!?」


 言い争う二人の上を、新しい星がまた流れていった。

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星に願いを 青樹空良 @aoki-akira

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