元ヒーローは悪の組織へ赴く

サトミハツカ

序章

 犬崎けんざきまことが住む街『モノクロタウン』には二つの組織がある。


 人助けをする正義の組織『ホワイトスター』と、その邪魔をする悪の組織『ブラックスター』。

 今よりも少し昔、犯罪が横行していた時代に出来た組織らしい。


 孤児院に居た真はこれらの組織を知らなかったが、自らを引き取った人物がホワイトスターの司令官だったので教えられた。

 同時に、真はその人から戦う術を叩き込まれた。真にしてみれば、正直嫌だと思ったし、何度も逃げだしたいと機会を伺っていた。


 だが、十七歳の誕生日を迎えるまでは正義のヒーローとして戦っていたのだ。

 確かに辛い日々だったが、人を助けた時に『ありがとう』と言われるのは好きだった。

 真もなんだかんだで人助けは嫌いじゃなかったと言える。


 しかし、そんな真も今やただの一般人に戻った。

 否。ヒーローを辞め、新たな職業についたのだ。


「さて、ここでアイツを待ってればいいんだよな」

『そうっす。もうすぐ正義の味方さんが――っと、早速来たみたいっすよ』


 黒いピッチリとしたタイツスーツを着用し、目出し帽を被った真は、耳に付けている通信機を確かめながらボソボソと喋る。

 その数秒後には一陣の風が吹いて、真の目の前に人影が現れた。


 真っ白な鎧を着込み、仮面を被った存在。

 体のラインは細く、女性だと分かる。しかし彼女が油断できない強さを持っている事は知っているので、自然体ながらも構える。


「――美しき白き牙、ホワイトファング見参ッ!」


『自分で美しいって言って恥ずかしくないなんて、ナルシストなんすかね?』

「羞恥心が無いのはお前もだろうが。もう切るぞ」


 甲高くケラケラと笑う無邪気な声にげんなりと返し、真は通信機を切った。そして、自信満々に仁王立ちしているヒーローの前に出て、リラックスするように指の骨を鳴らす。


「さて、と。思う存分、ヒーローの邪魔をすっかな」


 溢した独り言をきっかけに、戦いの火蓋は切って落とされた。


 犬崎真、高校二年生。元ホワイトスター所属のヒーローは現在、ブラックスターの一員となり、悪の手先として働いているのだった。

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