第329話 悪魔の封印と精霊
Side 五十嵐颯太
俺の腕をしっかりと掴み、放そうとしない女の悪魔。
顔が半分と上半身が半分だけの状態で、よく生きているものだ。
残っている右腕もボロボロの状態だし、顔半分残っているとはいえ口しかない状態だ。
その口で、喋って笑うのだからさすが悪魔といったところか……。
『へ、へへ……』
「あんた、上位悪魔だろ? 名前は?」
『……何や、人間の、癖に……肝、据わってる、やん……。
うちの、名は、ディスティニス。
上位悪魔の、ディスティニスや……』
「そうか……。ガブリエル!」
『は~い』
夜の暗闇に、光が上空から出現して俺と悪魔のディスティニスを照らす。
その光りこそ、俺が召喚した大天使ガブリエルだ。
『ガ、ガブリエルやて?!』
『マスター、それ、悪魔のなれのはて?』
驚き、焦る悪魔をしり目に、ガブリエルはボロボロのディスティニスを見て呆れた表情をしている。
「ガブリエル、こいつ治せるか?」
『な?! 天使になんぞに治されたら、治るもんも治らんわっ?!!』
『だ、そうですよ?』
「そうか……。
それなら、どうやったら元の姿になるんだ?」
『ん~、悪魔のことは討伐対象としか見てないからな~』
『う、うちを治したいんなら、あんたの命を「ていッ!」ガッ!』
ディスティニスが、俺に命をよこせと言いそうになったところで、大天使ガブリエルが顎を殴って地面に叩きつけた。
俺の足元で、藻掻く悪魔のディスティニス。
『オゴォォ…』
『このゴミ、何どさくさに紛れてマスターの命を貰おうとしているのですか?!
マスターは、この大天使ガブリエルのものです!
あなたのような悪魔に、私はしません!』
いや、俺は誰のものでもないんだがな……。
ますます後光を光らせて、大天使ガブリエルがディスティニスを照らす。
……何か、ディスティニスが苦しんでいるようだ。
『こ、この……』
『フフン』
俺は、埒が明かないのでミアに携帯で連絡を入れた。
『はい』
「あ、ミアか?
悪魔の姿を元に戻したいんだが、どうすればいいか分かるか?」
『通常の回復魔法で、元の姿に戻ると思います。
後、ポーションを使っても戻ると思いますので、確実に戻したいならポーションをお勧めします』
「ありがとう」
そう言って、携帯を切ると俺はアイテムボックスからポーションを取り出した。
回復といっても、体力か魔力か分からなかったのでどちらも回復する紫色のポーションだ。
ポーションの蓋を取り、地面に転がるディスティニスの口にポーションを飲ませた。
すると、すぐにディスティニスの身体が光り、姿を変えていく。
そして、ものの三十秒ほどで元の姿を取り戻した
『お、おお?! おお!! 元に戻ったぁ!!』
『チッ!』
自身の元に戻った姿に、全裸ながらディスティニスは立ち上がって喜んでいる。
それを見て、俺の上に浮かぶ大天使ガブリエルが舌打ちをした。
天使としては、悪魔の復活が気に入らないようだ。
ディスティニスは、ひとしきり喜んだあと俺に抱き着きお礼を言う。
『おおきに、人間ッ?!
うちの体治してくれて、メッチャ嬉しいわ!!』
『ちょ、ちょっと!』
『なあ、うちの体、堪能してみぃひんか?
今なら、極上の昇天を味あわせたるでぇ?』
『離れろっ! この淫魔!!』
『何や、ガブリエル!
悔しかったら、あんたも一緒に混ざるかぁ?』
『な、な、な、な!』
……こいつら、仲いいな。
まあ、ディスティニスの体を戻したのは、封印するためなんだけどな。
俺は、ガブリエルと言い争っているディスティニスの後方に、魔界の門を出現させた。
『な?!』
「ガブリエル、放り込め!」
『!! 了解です!』
バンッと、魔界の門が開くと、ガブリエルがディスティニスを思いっきり門の中へ蹴り飛ばした。
驚いた表情をしたまま、上位悪魔のディスティニスは門の中へ消えていった。
そして、ディスティニスを飲み込んだ魔界の門は、すぐに閉じる。
「上位悪魔ディスティニス、封印完了」
『完了!
というかマスター、封印するなら最初に言ってくださいよ~。
あの悪魔を、気に入ったんじゃないかと思ったじゃないですか~』
「俺があいつを?
ナイナイ、そんな訳ない。
ここに来たのも、後始末をするためだしな」
そう、ミアの観察では、男四人の命を取り込んだ上位悪魔ディスティニスは、スクロール魔法のメテオでは消滅させるに至らないと計算した。
まあ、その計算通り、ディスティニスは消滅していなかったわけだが……。
「とにかく、悪魔の封印は完了した。
次の天使か悪魔を捜索して、封印作業を急ごうか」
『了解、マスター』
大天使ガブリエルに、次の天使か悪魔を捜索することを話し解散となる。
ダンジョンマスターは、まだまだ世界中にいるようだし、天使や悪魔を召喚した者もいる。
そして、ダンジョンマスターの元から解き放たれた悪魔も、世界中で行動しているようだ。
どうやって、すべてを封印すればいいのか……。
▽ ▽ ▽
Side ???
都内にある大型スーパーの店内に、カートを押しながら買い物をする男が一人。
そして、その男の側には床から少し浮いた女性がいた。
「シリィ? 今日はシリィの大好きな、シチューにしようか?」
「ホント? 嬉しい!」
パアッと明るく笑顔になる女性。
そして、男の腕に抱き着き顔をよせる。
女性が宙に浮いていなければ、仲のいい恋人同士に見えただろう。
女性の髪は水色をしていて、耳はエルフのように尖っている。
そして、服は服屋に売っている既製品だが、やはり宙に浮いていた。
「風の精霊と一緒に暮らせるなんて、思いもしなかったよ」
「私だって、レイジと一緒にいられて幸せ!」
喜び合う二人。
だが、その後ろから見守る一人の女性。
買い物をしているように見せかけてはいたが、二人を監視しているのはバレバレだった……。
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