第261話 地球で緊急事態
Side ???
「浮遊大陸は現在、魔王のダンジョンから南に馬車で十日ほど行った位置にあります。
一つの場所に浮遊しているわけではなく、この世界の空を文字通り浮遊しているのです。
行き方としては、高い山から飛び移ったり、浮遊石を使った浮遊帆船などを使いますが、今回は教会が用意した特殊浮遊帆船で乗り込みます。
ですが、教会が用意した特殊浮遊帆船は、その構造上、今回の使用しか持ちません。
皆様、覚悟を持って天界門の捜索にあたっていただきたいのです!」
教会職員が説明する中、勇者たちは我関せずといった態度で聞き流していた。
勇者にしてみれば、天界門も魔界門もどうでもいいのだ。
何せ勇者の使命といえば、魔王を倒すか封印すること。
召喚された時から、そう教会に教えられていたため、今さら天界門だの魔界門だの出て来ても、その重要性や厄災になるなどの危機的意識が無いのだ。
「はぁ~」
「聖女エスリーナ様……」
聖女が、勇者たちの反応にため息を吐き、教会職員に心配される。
だが、これは聖女も分かっていたこと。
「勇者の皆様、魔王の討伐にはどうしても天界門が必要なのです。
どうか、浮遊大陸に乗り込み、天界門を見つけてきてくださいませんか?」
「……エスリーナがそう言うなら、力になってあげないでもないけど……」
「私たちを召喚した国の許可はあるんでしょうね?
後から、貴族連中にグチグチ言われるなんて、私は嫌だからねぇ~」
「そうなんだよね~。私たち勇者って、首輪付きなんだよね~」
「俺も、国の女に知らせておきてぇしな~」
「……僕も、王国の姫様が悲しむことはできないから……」
勇者ミサキは、聖女の力になってあげたいといい、勇者ショウコは、国の貴族連中が鬱陶しいようだ。
また、勇者カナデは自分に国からの監視がついていることにうんざりしている。
この傾向は、女性勇者だからこそなのかもしれないが……。
勇者アキラと勇者シンタロウは、どちらも女を当てられ篭絡されているようだ。
そして、残りの勇者トモヤも勇者レンジも、それぞれで何かあるようだ……。
結局、勇者とはいえ召喚した国の思惑からは逃れられていないらしい。
聖女エスリーナは、そこが気になっていた。
教会や各国から、いろいろと教育を受けている勇者たちだ。
どう導いていけばいいのか……。
「ご安心ください、勇者様方。
各国への説明や説得は、教会側が責任もってやらせていただきます。
ですから、天界門の捜索をよろしくお願いいたします」
そう言うと、聖女は勇者たちに向けて頭を下げた。
勇者たちは、その真剣な態度にそれぞれの顔を見ながら、了承したのだった。
「ところで聖女様、浮遊大陸の調査って上陸して行われたのですか?
もし上陸して行ったのなら、その時に天界門の捜索もしてしまえばよかったのではないですか?」
勇者トモヤが、ニヤニヤしながら聖女エスリーナに質問している。
お願いするだけで、自ら動こうとしない聖女にけん制してるようだ。
それを見て、他の勇者たちは緊張していた……。
「勇者トモヤ様、教会の調査は高い山の頂上から鷹の目スキルによる目視で調査したのですよ。
それで、ここまで調べたのですから教会側の本気度が分かりませんか?」
「……まあ、教会が天界門の捜索に本気なのは分かっているさ。
ただ、聖女は何をするのか、と思ってね?」
「フフフ、私は皆様の無事をお祈りし、日々の務めを果たすのみ。
聖女は、人々に癒しを届ける存在。
遊んでいるわけではありませんのよ?」
「……悪かったよ。疑うような真似をして。
ただな、町で教会に関する愚痴を聞いたんでな……」
「勇者トモヤ様、たとえ教会といえど清廉潔白とはいかないでしょう。
それぞれの思惑が、どんな者にも絡んでくるのですから……」
「そうだな、気をつけよう」
聖女は、すっと静かに立ち上がると勇者全員に告げる。
「さあ、勇者様方!
出発は明日の夕刻となります!
それまで、この大聖堂にてお寛ぎくださいませ。
教会の職員に申し付ければ、物資などの調達もおこないますので……」
この会議の次の日、勇者たちは浮遊帆船に乗り旅立っていった……。
▽ ▽ ▽
Side ミア
コアルームで、教会と勇者の会議を視聴しているとエレノアが飛び込んできた。
「見つけたわ、ミア!」
「……どうしたの? エレノア」
「見つけたのよ!」
「見つけたって、何を?」
エレノアは、操作盤を操作しながら空中に浮かぶモニターに何かを映しだそうとしている。
それを見ながら、ミアは質問していた。
「ダンジョンよ、ダンジョン!」
「ダンジョン?」
「そうよ。それも地球側にできたダンジョンよ!」
「ええ?! どこ? 地球のどこにダンジョンが?」
操作盤を操作していたエレノアの手が止まる。
「ここよ!
北の大国の東側、元独裁国家とあの国との国境近く、そこにダンジョンが生まれていたわ!
それも、自然と発生した野良ダンジョンよ!」
野良ダンジョン。
魔素溜りから、自然に生まれるダンジョンのことだ。
所謂、魔素の澱みから生まれるため階層や出現魔物などがランダムに決まる。
また、スタンピードが起こりやすくダンジョン特有の宝物が期待できないダンジョンになる。
そのため、探索者や冒険者から敬遠されるダンジョンで、発見したら国家戦力レベルで討伐が推奨されている。
つまり、人々に益をもたらさない災害的ダンジョンなのだ。
「死体がないって、どこかの誰かが指摘していたじゃない?
だから、ちょっと気になって調べていたの。
そうしたら、このダンジョンを発見したのよ……」
「魔物は? ダンジョン内に出現する魔物」
「スケルトン、ゾンビ、リビングデッド、他にゴーストや人魂を確認したわ。
何階層あるかは分からないけど、奥に行けばもっと強い魔物がいるかもしれないわ……」
「エレノアの推測でいいわ、どれくらいもちそう?」
「余裕をもって、約半年ね。
これは、対策を急いだほうがいいわ」
「……分かったわ。
マスターが、修学旅行から帰ったらすぐに対策会議を開きましょう。
その間、監視をお願いするわね、エレノア」
「ええ、了解」
ダンジョンが、ついに自然に地球に生まれてしまった。
これも、魔素の影響ということなのかしら?
……今は、対策を考えましょう。
マスターが帰ってきたとき、すぐに行動に移せるように……。
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