第247話 手掛かり



Side 五十嵐颯太


あの国の首席が爆破テロで亡くなって、一週間がたった。

北の大国では、もう一つの爆破テロで亡くなった大統領の国葬がおこなわれ、全世界中継されていた。

そして昨日、あの国でワン主席の国葬がおこなわれた。


だが、爆破テロの犯人はいまだ分かっていない。

いくつもの組織が犯行声明を出したが、そのことごとくが嘘であることが分かった。


ICPOでも、捜査は行われていたが手掛かりすら掴めずにいた。

だが、分かったこともあった。


それは、爆破テロの実行犯が誰なのかだ。

北の大国の大統領に爆破テロを行ったのは、大統領の執務室を訪ねた男が自爆テロを起こしたことが判明した。

また、あの国で起きた爆破テロは、全人代でワン主席に近づいた、リーという男が自爆テロを起こしたことが現場の状況から分かった。


さらに、その二人の裏を捜査するが何も出てこなかった。


誰かに脅されていたとか、金で自爆テロをしたとか、誰かに洗脳されていたとか、まったく出てこなかったのだ。

それどころか、どうやって爆弾を入手したのかもわかっていない。


謎だらけの犯行だ。


俺はそれを、テレビの報道特集で知ることになったのだ。

そして、こっちでも調べてくれていたので、今、ダンジョンのコアルームでミアたちの報告を聞いている。


「それで、自爆した人達のことは分かったの?」

「あの国の方は、リーという男でした。

ワン主席のSPの一人でして、普段から主席の側で護衛をしていました。

また、怪しい思想に取りつかれてもいなかったことが分かりましたし、怪しい人物との接触もなかったようです。

ここ一カ月ほどの行動を調べていましたが、自爆テロを仕掛ける要因が全く分からないそうです」


ミアは、あの国の捜査している人たちに虫ゴーレムを付けて事件を探っていた。

だが、本当に、原因が分からなかったようだ。


「エレノア、北の大国の方はどう?」

「北の大国は、ポロストイという男でした。

アレクセイ大統領に、例の魔物襲撃後の人々の捜索状況と魔法を使った人間のことで報告に来たところ、自爆テロを起こした形になったようです。

彼もあの国のリーという男と同じで、怪しい思想や怪しい人物との接触はありませんでしたし、お金にも困っていなかったようです。

家族との仲は良好で、妻を愛し、娘二人を愛していました」

「人質に取られているようなことはないと?」

「はい、ありませんでしたね。

捜査員が彼の家族に会いに行って、初めて夫が自爆テロの犯人だと聞かされて驚いていたようでしたし……」


ん~、ますますわからないな。

まるで、彼らに爆弾を知らない間に仕掛けて、遠隔操作で爆発させたみたいだ。

だが、遠隔操作できる場所なのだろうか?


大統領執務室の前と、全人代の会場だぞ?

セキュリティーなんて、トップレベルの場所だし、通信電波も入るかどうか……。

そんな場所で、遠隔操作による爆弾テロ。


果たして、可能なのかどうか……。



そこへ、ソフィアがコアルームに入ってきた。


「見つけたわよ!

今回の、犯人と思われる人物への手がかりを!」

「それ本当? ソフィア」


エレノアが驚き、ソフィアに確認している。

ミアも、少し驚いているようだ。


「それで、その手掛かりって?」

「はい、マスター。

マスターは、蓮杖衆議院議員は覚えておいでですか?」

「……確か、票欲しさにあの国と繋がっていた議員だよね?

正確には、秘書の一人があの国の送り込んだ者だとか」

「そうです、その蓮杖議員がここ最近連絡をとった人物の中に、あの国の副主席と呼ばれている人物がいました。

今は、引退しているので元副主席ですね」

「副主席といえば、全人代に遅れて助かったという?」

「ええ、その元副主席で間違いありません」

「てことは、あの国関連の組織が関係しているのか?」


どこまでも闇が深いな、あの国は!

自分たちの国の、首席ですら暗殺対象とは……。


「組織、ではなく集まりといったところでしょうか。

主催は、ネット通販大手ホムカンのCEOをしているカンという男と、建設大手のあの国建設の役員の男が始めた趣味の集まりだったようですが、今やあの国の重鎮たちを集めて何やらゲームのように行動しているようです。

また、他にも様々な国から出資させて世界を思うままに操ろうとしているようですね」

「……そんな組織があるのか」

「北の大国の大統領選にも、手を出しているみたいです。

次の大統領は、自分たちの操れる人物を推しているとか……」


漫画や小説に登場するような組織が、現実に存在するとはな。

世の中、本当にどうなっているんだか……。


「それじゃあ、今回の大統領暗殺や主席暗殺は、彼らの仕業?」

「それはまだ分かりませんが、彼らが関わっていることは確かだと思います。

ただ、彼らに実行できるかは疑問が残りますが……」

「なら、実行を依頼した先があるってことか……。

ソフィア、このことを北の大国の捜査機関に、そっと知らせてくれ。

北の大国がどう動くが見てみてたい」

「分かりました、マスター」

「マスター自ら、動かないんですか?」


ミアが質問してくるが、俺は首を振りながら答える。


「大統領暗殺も、主席暗殺も俺は部外者だ。

それに、主催者があの国にいるなら、北の大国の捜査機関に知らせる方が握りつぶされることはないだろうからな」

「マスター、それともう一つ。

連中の、今度の標的も判明しました。

ダンジョン企画と、魔法使いの女だそうです」

「ダンジョン企画はまだしも、魔法使いの女?」


魔法使いの女というと、ダンジョンパークのトンネルを設置したときの俺の変身した姿だよな。

なぜ、魔法使いの女が標的になるんだ?


自分たちで、好き勝手にダンジョンパークの設置をさせようということなのだろうか?

そんな簡単に、ダンジョンパークができるわけがないのに……。








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