第244話 助かる命
Side 五十嵐颯太
「颯太、アメリカダンジョンパークの内容が発表されたんだけどよ、教えてくれるか?」
「ん? 何か、分からないことがあるのか?」
昼休みの教室で、スマホの画面を見ながらパンを食べている陸斗が話しかけてくる。
今月末ごろに開園する、アメリカダンジョンパークの内容で分からないことがあるようだ。
「この、十六のダンジョンの一つの筋肉ダンジョンって何だよ。
俺、のんでいた牛乳、吹きそうになったぞ?」
「それは汚いな!」
「……いいから、答えろよ」
「筋肉ダンジョン。
それは、筋肉による筋肉のためのダンジョンだ!」
「分かるか! もっと、ちゃんとどんな内容なのか答えてくれ」
「しょうがないな……。
筋肉ダンジョンは、筋肉だけがものをいうダンジョンだ。
力、ポージング、そして、笑顔!
この三点の合計で、敵に与えるダメージが決まる。
また、敵も同じように力、ポージング、笑顔で勝負してくるぞ」
「……おま、それ、大丈夫なのか?」
実は、このダンジョンは実験ダンジョンの一つだ。
ボディビルの大会をテレビでやってて、それを見て参考にしてしまった。
アニメや漫画でも、筋肉キャラがポージングを決めて胸をピクピクさせるシーンがあるし、それで対決できないか? と考えて造ってしまったんだよな。
敵の魔物も、ゴブリンがあの身長でムキムキで現れたりするし、オークもデブキャラではなく相撲取りのような筋肉をつけて現れるようになる。
しかも、このダンジョンの特徴が武器が持ち込めないという制限がついていること。
敵の魔物も、武器を持たず筋肉で勝負する。
まさに、筋肉による筋肉のためのダンジョンなのだ!
「でもよう、力とポージングと笑顔の合計点って、誰が点数を付けるんだよ」
「それは、自動的に採点されるようになっているんだ。
しかも、世界ボディビルダー連盟が全面協力して国際基準の採点を自動化できたんだからな」
「ところで、何だよその世界ボディビルダー連盟って」
「ボディビルダーの国際組織だな。
日本にもあるけど、ボディビルの大会の国際基準を決めている組織だ」
「へぇ~」
「陸斗も、筋肉ダンジョンでポージングを決めてみろよ。
すぐに採点してくれるぞ」
「0点が出そうだからいいや……」
▽ ▽ ▽
Side ???
瓦礫の中から出ている手に、ケットシー化した猫が周りをうろついている。
時折、出ている手に向かって鳴くと、ぴくぴくと手が少しだけ動いていた。
「ニャー」
そこへ、捜索隊の一人の男性が近づいてきた。
二足歩行をしている、猫が気になったのだろう。
「……また、立った猫か。
この辺りには、二足歩行の猫が多いな……ん?」
「ニャー」
猫の影で見えなかったが、瓦礫の中から出ている手を発見する。
「なっ! ……生きているのか?」
「ニャー」
男の質問に答えるかのように、猫が鳴く。
すると、瓦礫の中から出ていた手がぴくぴくと動いた。
「……動いている、生きているのか?!」
男はすぐに仲間の捜索隊を呼び、瓦礫の下から手の持ち主を掘り出した。
そこにいたのは、一人の女の子だった。
掘り出された女の子は、まだ息があったがかなり衰弱しておりぐったりとしている。
「すぐに、医者の元へ運べ!」
「車をまわしてくれ! ここから救護所までは距離がある!」
「おい、この猫はどうする?」
「その辺に、捨て置け!」
「いや、女の子から離れないんだよ!
……もしかしたら、この子の飼い猫かもしれん」
「……なら、一緒に連れて行け!」
「了解!」
この女の子が、助かるかどうかは分からない。
だが、こうして助かったのだから生きてほしいものだ……。
▽ ▽ ▽
Side 五十嵐颯太
「なあ颯太、また分からないことが出てきたんだがいいか?」
「何が分からないんだ?」
筋肉ダンジョンについて教えた後、再び分からないものが出てきたようだ。
スマホを見ながら、俺に質問してきた。
「この料理ダンジョンって何だよ。
魔物を倒すと、料理でも出てくるのか?」
「違う。
魔物倒して、料理がドロップしてたら地面に落ちて汚いだろ?
そうじゃなくて、食材がドロップされるんだ。
たまに、調味料なんかもドロップする。
そして、階層の途中で調理場があって、そこで調理するんだ。
後は、階層のボスにその料理を試食してもらって、合格すれば下層へ行けるって仕組みだ」
「へぇ~」
この仕組みは、テレビでしていた料理対決番組が切っ掛けだった。
スーパーかどこかで、食材を時間内に集めて調理して審査員に出す。
そんな料理対決をしていたかな。
それで、料理が鍵になるダンジョンは造れないかなって考えて、こんなダンジョンにしたのだ。
魔物を倒せる冒険者と、料理人が組んでダンジョンを進める。
各階層のボスは、料理人が担当し合格できる料理を作る。
そんなパーティーが増えそうだな……。
「……一つ確かめたいんだが」
「ん? 何だよ」
「ボスに出す料理を、俺たちは試食できるのか?」
「できるよ、料理を多く作ればね」
「おお~」
でも、数多くの魔物を倒しても、ドロップする食材はかぶることもある。
それに最小限の魔物からドロップする食材で、合格できる料理を作ることもできるってわけだ。
ダンジョンの階層ごとに、出現する食材も変わるようにしてあるし、料理人の腕の見せ所も用意してある。
他にも、実験的なダンジョンを用意してあるし開園が楽しみだな。
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