第238話 最終兵器
Side 五十嵐颯太
「……すごいな、いろいろな魔物が出現しているじゃないか」
コアルームで、ミアと一緒に動きのあった遺跡ダンジョン関連の映像を見ていた。
そこではすでに独裁国家では、ゴブリンが占領しつつあった。
ゴブリンエンペラーやゴブリンロードなどの上位種も出現し、統率し始めていた。
数も独裁国家の国民を上回り、もはや戦う以前の話である。
また、動き回る石像は、おそらく誰を模した石像だったのだろう。
独裁国家では有名な女性の石像が、国民に襲いかかっている。
「あの石像、ゴーレム化しているぞ?
こんなことがあるのか? ミア」
「おそらく、高濃度の魔素を浴びて、石像内に魔石ができたためゴーレム化したのでしょう。
石像は、その形からゴーレム化しやすいといわれますから」
「……確かに、人を模したものが多いからな」
その時、ある映像が流れてきた。
あの国の偵察ドローンが、その光景をキャッチしたのだろう。
俺たちは、その偵察ドローンの映像をハッキングして映しだしているのだ。
「車の列?」
「いえ、あれは独裁者とその家族です。
独裁者とその家族を乗せた車列に、国民が襲いかかっているようですね。
あ、パンクさせられたようです!」
五台の特別製の高級車に、たくさんの国民が襲いかかっている。
次々に撥ねられていても、怯むことなく襲いかかっていた。
防弾加工がされている窓に銃を乱射しているし、タイヤをパンクさせるために釘を打ちだす大工道具で攻撃している人もいる。
そして、とうとう五台ともパンクし、中にいた独裁者やその家族が引き摺りだされ、殺されてしまった。
歓声を上げる国民たちだが、そこへゴブリンの集団が襲いかかる。
すぐに逃げ惑う人々や、戦う人々で、大パニックとなってしまった。
さらにそこへ、川の方から飛んでくるのはワイバーンだ。
しかも、かなり大型のワイバーンがゴブリンと独裁国家の人間を同時に襲い、バリバリと音が聞こえてきそうな勢いで食っていた。
俺たちは、嫌なものを見たという顔をしながら、音が聞こえてこなかったことに感謝した。
「……酷いな、これは」
「ですが、これで独裁国家は終わりです。
次の政権が誕生までは、混沌とするでしょうね……」
「次の政権があればいいがな……」
地上に、通常のダンジョンを設置したらどうなるかの実験兼制裁で設置したが、ついに一国を滅ぼしてしまった。
しかも、制裁を加えたい当初の目標と違う国を滅ぼしてしまったのだ。
これは、少し反省しないといけないな……。
その時、ハッキングしていたある国の偵察ドローンの映像が光り輝いて眩しくなった。
そしてすぐに黒くなり、映像を映さなくなったのだ。
「……おいおい、まさか……」
「マスター、間違いないでしょう。
すぐに、どこが撃ち込んだのか調べます!」
「頼む。
俺は、各地のニュースや国連の動きを注視する」
おそらくあの輝きは、核だ。
そして、それを映していたドローンは遺跡ダンジョンを映しだしていたはず。
つまり、どこかの誰かが遺跡ダンジョンへ核を撃ち込んだということか……。
▽ ▽ ▽
Side ???
私が、報告を受けて議場へ入ると、すでにたくさんの各国代表が集まっていた。
話題は、核の話がほとんどだ。
先ほど、ある国の北、北の大国との国境近くで核爆発が起きた。
核施設のない場所での核爆発ということで、どこの国が核を撃ち込んだのか大騒ぎになっている。
私も、この一報を聞いたときは、すぐに信じることができなかった。
『リー代表! 核爆発ですか?!』
『今、本国に確認中だ!
だが、十中八九間違いない! 核の光りだった!』
『ロレンツ! 西側で撃った国はないの?!』
『ない! ミスさやか、西側は白だ!』
日本は、あれだけ世界に対して被爆の恐ろしさを発信してきたのに、よりにもよって核を使うなんて……。
私は、ガックリときた気がした。
日本の核抑止は、意味がなかったのではないかと思ってしまったからだ……。
もっと、日本の政治がしっかりしていれば……。
その時、議場へ国連職員の男が駆け込んできた!
『分かったぞ! 北の大国だ! 北の大国から核弾頭を搭載したミサイルが、二発発射されたことが分かった!!』
『二発だと?!』
議場にいた全員の視線が、北の大国の代表者たちに注がれる。
驚きの目で見る者、睨みつける者、憐みの目で見るものなど様々な視線を浴びている。
もちろん、私は驚きの目で見ていた。
あれだけ核をチラつかせながらも、民族解放を掲げて戦争をしていた北の大国が、本当に核を使うとは……。
『……何だ!! 何か文句でもあるのか!?』
『あなた方の国は、本当に核を使用するとは……』
『お前たちアメリカでも、今回ばかりは使っていただろう!
一万人以上だ! 一万人以上の国民が犠牲になったのだ!
あの国の遺跡のせいでな!!』
すると、今度はあの国の国連大使に視線が注がれる。
私も、あの国の国連大使を見た。
そして、あの国の国連大使に近づく北の大国の国連大使。
それを抑えたのがアメリカの国連大使だ。
『貴様らの国が! 貴様らの国が、あのような遺跡を掘り出さなければあの犠牲はなかった! 二つだ! 二つの町が犠牲になったのだ!
元凶に核を撃ち込んで、何が悪いっ!!』
『おい! これ以上は……』
『クッ!』
北の大国が、どんなことを画策して核を撃ったか分かりませんが、この大使は本当に、犠牲者のことを悲しんでいるように見えます。
戦場でもない場所で、国民が犠牲になる。
それに心を痛める感情があるなら、戦争が起きる前に止めればいいのに……。
遺跡での犠牲者も、戦争で犠牲になった人たちも同じ命でしょうに……。
あの国の大使は、北の大国の大使を睨んだまま、しばらくして議場を後にした。
これから、核の影響を話し合わなければならないのに……。
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