第232話 二つの門
Side 五十嵐颯太
「あっははは、それは災難でしたな、五十嵐殿」
俺の向かいに座っている魔王ディスティミーア殿が、紅茶を飲む手を止めて笑いだした。
昨日の宿の件を話したのだが、どうやらミーア殿には心当たりがあるようだ。
「何か、ご存じなので?」
紅茶の入ったカップを置くと、ミーア殿は話始めた。
「それは、教会が管理している勇者たちの一人だろう。
名前を何と呼んでいたかな?」
「確か、コウジ様と」
「ならばそいつは、勇者の一人のコウジキクチだな。
確か、神の目を持つと噂だが、鑑定眼というスキルを持っているだけだろう。
で、そのスキルで、五十嵐殿たちを鑑定されたというわけだ」
それで、俺たちを付けて宿を特定し、あの襲撃か。
しかし、いつ鑑定されたんだ?
「いつ鑑定されたのか、不思議に思っておるようだのう」
「まあ、そうですね。
ダンジョン都市の門から入って、何もやましい行動は起こしていないはずなんですが……」
「いやいや、門から入ったことが原因だ」
ミーア殿の言葉に驚いた。
まさか、堂々と正面から入ったことが原因だったとは……。
「ダンジョン都市の門は三つある。
そして、どの門にも門兵がいて検査される。
五十嵐殿、門兵に水晶玉に触れるように言われなかったか?」
「……言われましたね。
何でも、犯罪の有無を調べるとかで」
「フフフ、それは、嘘だよ。
あの水晶は、勇者の一人が作った魔道具でな、触れた者の簡易鑑定ができる代物だ。
おそらくそれで調べられて、怪しまれたか、見破られたかだろうな」
ここには、そんなものまであるのか……。
宿襲撃を見届けた翌朝、俺たちはすぐに魔王のダンジョンへ来たのだ。
気配遮断、魔力遮断、そして光学迷彩を使って誰にも気づかれることなく。
まあ、ダンジョンに侵入してすぐに、魔王ミーア殿が迎えに来られたが……。
で、今こうしてミーア殿とお茶をしながら、昨日のことを話していたのだ。
「教会は、勇者たちに何をさせたいのでしょうか?」
「まずは、このダンジョンの攻略だろう。
魔王が復活しているのだ。
教会としても、勇者としても許せないといったところか」
だが、勇者は異世界から召喚された人たちだ。
教会の言いなりというわけではないだろうが、魔王討伐は教会からのお願いか?
「それよりも五十嵐殿は、このダンジョンと五十嵐殿のダンジョンとの間で交流を持つために来られたのだろう?」
「はい、かなり遅くなりましたが、こうしてやってきました」
「構わん構わん。
こうして、交流を持ってくれるだけで、こちらとしてもありがたい」
笑顔で、ミーア殿は俺たちを歓迎してくれる。
この魔王のダンジョンの最下層にあるのが、魔族が集まった町ディスティーアだ。
この町と、俺たちのダンジョンにある町とを転移街道でつないで、交流を図る予定だ。
行き来ができるようになれば、貿易もできるだろうし本当の意味での交流も始まる。
それで、どの町と繋げるかだが、やはり最初のダンジョンの第七階層にある外泊の町と繋げることにした。
あそこは、異世界側の玄関口ともいえる町になっている。
あの町と繋げるのが、都合がいいのだ。
ミーア殿と、繋げる町のことや交流の計画などを話し合い、今後の計画がまとまった。
これで、交流の第一歩が始まったわけだ。
▽ ▽ ▽
Side ???
ダンジョン都市にある、大きな教会の中の会議室に勇者と名乗る人達が集まっていた。
その中には、宿に襲撃を掛けたコウジの姿もあった。
「それで、消えたその三人は、宿に戻ってきたのか?」
「戻るわけないでしょ?
あんな派手に襲撃を仕掛けておいて」
「うるさい! 三人は戻ってこなかったよ、オウカ」
会議室の円卓の席で、襲撃を掛けたコウジは、オウカに報告した。
このオウカこそ、教会の勇者たちをまとめている古参の勇者なのだ。
教会側も、信頼をおいているため勇者たちだけの行動を許している。
「オウカも甘いわね~。
襲撃を失敗したコウジを許すなんて」
「うるさいぞ、シズカ。
それに俺は、コウジを許した覚えはない」
ギロッと睨んで、コウジを震え上がらせるオウカ。
その行動にシズカをはじめ、会議に参加している勇者全員が緊張する。
「とりあえず、その逃した三人は、今は放置しておけ。
教会側で、捜索してもらう」
「わ、分かった」
委縮するコウジ。
このことで、勇者としての位を一つ落としたような感じがした。
「それよりも、魔王のダンジョン攻略の話だ」
「魔王のダンジョンなら、昨日、百七階層に到達したぜ」
「そうそう、ようやく罠も無くなったし、もうすぐ魔王のいる階層に届くんじゃない?」
「……甘いな、セイジ、リョウジ。
ミサキ、カナデ、ダンジョン鑑定は済んでいるだろう?
この二人に、現実を知らせてやれ」
円卓についている勇者の中に、あの相沢美咲と新城奏がいた。
ただ、この二人は、颯太の知る世界とは違う世界の二人なのだ。
「魔王のダンジョンの鑑定が、ようやく出来たわ。
それによると、ダンジョンの最下層は五百階層より下にあることが判明したわ」
「はあ?! 五百階層だと!」
「それだけじゃない」
驚く勇者たちに、カナデが現実を告げる。
「最下層に、魔界へ通じる門が存在することが判明した。
たぶん、魔王は魔界への扉を開ける気でいると思う……」
「も、もし、そんな扉を開けてしまったら……」
「魔界に住む魔物たちが、この世界に現れる」
そこへ、オウカが告げる。
「教会の伝承によれば、魔界の門を開けた時、魔神の封印が解かれるとある!
つまり、魔王よりも厄介な魔神が解き放たれるということだ!」
「そ、そんな……」
「それじゃあ、世界の終わりじゃない!」
勇者たちが困惑する中、オウカは再び告げた。
「安心しろ、こちらも考えがある。
魔界への門があるのなら、天界への門もあるはずだ!
そう思って、教会側に調べてもらったら、記載されていた書物を発見した。
それによれば、天界の門は、浮遊大陸にあることが判明した!」
浮遊大陸。
この世界で、唯一空に浮かぶ大陸である。
勇者たちは、ダンジョン攻略を進める者たちと浮遊大陸で天界の門を捜索する者たちとを決めることにした。
どちらも、大事なことなので疎かにできないのだ……。
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