第215話 口封じ



Side ???


「では、次の会議では修正案の審議に入りましょう。

皆様、長い間お疲れさまでした」


長い長い会議が終わり、それぞれの議員が立ち上がる。

はあ、女性ながら今の総理はよく考えているな。昔の連中では、考えもしなかったことに、あの手この手の法案を持ってくる。


これが、実力で勝ち取った総理大臣の力か……。


「蓮杖さん、この後どうです?」


一人の議員が、右手をくいっと上げながら聞いてくる。

行きつけの料亭で、飲もうと誘っているのか。

まったく、飲み会と称した報告会というわけか。


「構わんぞ、小原くん。

君の行きつけだ、さぞや美味しいものが食べられるんだろうな?」

「期待しててください、蓮杖さん。

では、また後で」


そう言って離れていく。

さて、今回の参加メンバーは……。


「蓮杖議員」

「ん? これは総理、私に何か用でも?」

「先ほど、小原議員と話していましたが?」

「ああ、これからどうですか? という飲みの誘いです。

法案は一段落しましたし、この先は議会での話し合いだけでしょうから……」

「ですが、まだ法案が通ったわけではないのですから、息抜きもほどほどにしてください?」

「分かってます。

この間のような、野党に突かれることは避けますよ」

「頼みますよ?

ああ、それから」

「?」

「あの国派の方たちへの報告は、気をつけてください?

今は、大人しくしておく方が得だと言い聞かせてくださいよ?」

「……分かりました」


そう返事をすると、総理は会議室を出ていく。

日本には、あの国へ尻尾を振っている議員がまだまだいる。

だが、今回のあの国の者が起こした事件は一時的に、大人しくさせる切っ掛けとなった。


だが、それで離れる議員はおるまい。

あの国から、かなりのものを貰っているみたいだからな……。


ま、人のことは言えんが。


「先生、こちらを……」

「……本気か?」

「そのようです、お力をお貸しくださいと……」

「私は何もできん。

今の総理は、今までの連中とは違う。

それが分かってて、私にお願いしてくるのか?」

「あの方からの直接連絡がありましたので……」

「無理を言ってくれる……」

「先生、この後の席でお願いしてみては……」

「はぁ~、また頭を下げるのか……」

「申し訳ございません」

「秘書のお前が、謝ることじゃないだろう。

私の頭を下げてお願いすれば解決だ。

それだけのものを貰っているのだ、やるだけやるよ……」

「ありがとうございます」


クソ! 下げたくもない頭を下げて、あの国の暗躍に目を瞑る。

そして、あの国派の連中にお願いして回らないといけないとは……。


昔は、党の重鎮と呼ばれるようになり、次の総理は私だと持ち上げられて、今はここまで落ちぶれるとはな……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


今日は土曜日。

クラスのみんなで、ダンジョンパークに行くことになっている。

始めは、良太のやつがダンジョンパークに行ったことがないとかで、陸斗が連れて行ってやるとかから始まったんだよな。


それがなぜ、クラス中でいくことになるのか……。


「颯太! これを見てみろ!」


父さんが、新聞を見ながらテレビの音量を上げている。

注目しろってことなんだろうか?


『……昨日未明、留置所で連続殺人を首謀したあの国の外交官たちが首をくくって自殺しているのが発見されました。

警察では、留置場の看守たちから事情聴取をしているとのことですが、詳細はまだ分かっておらず、懸命に捜査しているとのことです。

また、実行犯と思われる者たちは昨日未明の移送の際の爆発事故で全員の死亡が確認されたとのことです。

政府は……』


「……父さん、これって……」

「口封じだな。あの国がやりそうなことだ……」

「でも、総理は気をつけていたんだろ?」

「総理は気をつけていても、下の連中の中にはあの国と繋がっている奴らがまだいるらしいからな……」


この日本で、あの国の連中にいいようにやられるなんてな……。

政治の世界も、政府の中にもあの国の影響はまだまだあるってことか……。


「この事件、どんな扱いになるのかな?」

「いつもの通りだろ?

一通り調べて、終わり。あの国の関与があったとしても、遺憾の一言で終わる。

いつものパターンだな」

「深く追及はしないと?」

「例の連続殺人事件の被害者には申し訳ないが、被疑者死亡で終わりだ。

あの国には何もなし。

政治が変わり、総理が変わろうともずっとこのパターンだからな」

「……なんだか、やるせないね」


俺たちに何かできることは……、あるな。

例のミアの報復がまだあった!

ここに来て、ミアの報復が役に立つ時が来るとはな。


でも、あの国の国民にも犠牲が出るわけだし、少しだけ心が痛むな……。

俺は、テレビのニュースを眺めながらそう思った。



「ところで時間、大丈夫なのか?」

「ああ、待ち合わせはお昼近くだから大丈夫だよ」

「いいな~、私もダンジョンパーク行きたいな~」

「麗奈は、友達と行っているだろ?

俺たちと一緒に行っても、つまらないだけだろう?」

「そんなことないよ。

お兄ちゃんのお友達が、いっぱい奢ってくれるから」


それって、陸斗のことか?

あいつ、俺の妹にまで奢っているのか?


「陸斗のことか?」

「うん、そう。あの人、よく奢ってくれるんだよね~」

「まあ、今はそんな余裕ないと思うぞ?」

「そうなの?」

「ああ、従魔にいろいろと強請られて、お小遣いがピンチだって嘆いていたからな……」

「おいおい颯太、それって今流行りの従魔貧乏ってやつか?」


従魔貧乏。

今、世間で話題になっているワードだ。

九州ダンジョンパークでテイムが解放されて、起こり始めた現象らしい。

従魔が可愛ければ可愛いほど、貧乏が酷くなるのだとか……。


まあ、特にひどいのがドラゴンテイマーだそうだ。

あの食事量だからな。


今度、ミアたちとその辺りのことを話し合ってみるか。

ダンジョンパークに来て、貧乏になりましたじゃあ来場者が減るかもしれない。

対策は、早めにってことだな……。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る