第202話 違反の武闘大会



Side 五十嵐颯太


今日も夏休み返上で、俺はコアルームでミアたちから報告を受けている。

今回は、セーラやルナもいるからダンジョンパークの報告もあるんだろうな……。


「では、まず私から報告を」


そう言って話始めたのは、エレノアだ。

エレノアには、相沢美咲と新城奏のことを調べてもらっていたが、本人たちは魔王討伐に燃えているため、今のところ干渉しないとした。

そこで、政変のあった王国内部を調べてもらっていたのだ。


「ブリーンガル王国内部で、何かあったの?」

「はい、現在フィレット国王には何も問題はないのですが、その側近の宰相に問題がありました。

そして、宰相一派が裏でかなり動いております」

「確か、第二王子暗殺を成功させて、第三王子を王位につけたことで後見人になったとか?」

「そうです。

そして、後見人の立場を最大限に利用して王国を裏から牛耳っているようです」

「牛耳る、ね~。

その宰相一派が裏で動いているって、どんなことを?」

「第二王子派の残党貴族たちの粛清です。

今、その筆頭だった貴族をあらゆる手を使って膝を折らせるため動いているようです。

また、薬を使った形跡も確認できました……」

「薬? 薬って麻薬の類の?」

「こちらで使用されている麻薬よりも、かなり強力なものが使用されているようです。

使い続ければ、生ける屍と化します」

「……救出できたら、治療は可能なの?」

「それは、問題ありません。

ただ、精神を壊されると救出できたとしても、治療に時間がかかります」


手段を選ばないってか?

政変に巻き込まれただけの人たちは、救出した方がよさそうだな……。

それに、異世界でも麻薬が使われるとはな……。


俺は少し考えて、エレノアに指示を出した。


「エレノア、政変に巻き込まれた人たちを救出してくれ。

第二王子派で、牢に入れられている人たちもついでだ。救出を頼む。

麻薬まで使って、何をしようとしているか分からない連中に付き合う必要はないだろう」

「分かりました。

すぐに、部隊を編成し救出します。

それで、転移の魔道具の使用を許可していただきたいのですが……」

「分かった、許可しよう。

ついでに、治療チームも編成して転移場所に待機させておけば治療も早いだろう」

「ありがとうございます。

早速、部隊編成に動きます」


そう言うと、コアルームからエレノアは出ていった。

何やら、急いでいたようだが……。


「マスター、エレノアは心配していたんですよ」

「心配?」

「王国の内情を調べていて、政変に巻き込まれた人たちの実情を知りましたから……」

「なるほど、今も行われている拷問を知ってしまったと」

「はい。王国内部は、かなり真っ黒のようです……」

「ん~、それって多分、歴史の変換点の光景なんだろうな……」

「そう割り切れるものではありませんよ。

見てしまった、知ってしまった以上は……」

「……そうだな」


たぶん俺も、エレノアのように心配するのだろうな。

そして、自分に何ができるのかを考えて動くだろうな……。



「それで、ミアからの報告は?」

「私からは、難民の報告です。

現在、異世界側の町に難民が押し寄せているとの報告が上がってきました。

警備に出ている兵士だけでは対処が難しいと、応援を要請されています。

それと、町に入りきらない可能性も報告されました」

「難民は、全員受け入れること。

それと、警備などの応援の要請を受諾。各ギルドに知らせて、人を出させるように!

それから、ダンジョン内の外泊の町を開放する。

すぐに取りかかってくれ、ミア」

「了解しました。

異世界の町と繋がる、ダンジョン側の町を開放します。

それで、難民の受け入れは大丈夫でしょうが、食糧とかはどうしましょうか?」

「外泊の町の外を、ある程度開放しよう。

それで、畑とか作れるだろうから、大丈夫だろう。

自給自足ができるようになるまでは、こちらで食料を提供しよう」

「了解しました。

そのように、こちらで動いてみます」


これで、異世界の方はある程度目途が立ったかな。

今後、緊急事態が起こる可能性もあるが、すぐのすぐではないだろう。

ブリーンガル王国とは、あの大きな激流の川で遮断できているわけだし……。



「次は、私ですね」


そう言って、俺の前に出てきたのは、九州ダンジョンパークのテイムフィールドを任せていたセーラだ。


「ダンジョンパークで、何か問題でもあったの?」

「大ありです、マスター。

現在、武闘派テイマーたちによる、武闘大会が勝手に開催されて大変なことになっています!

また、エントリーは自由とうたいながら、強制的に参加させられるケースが増え、苦情がダンジョン企画に上がっています」

「何!? そんなことが起こっているのか……。

あ、ホントだ。こんな場所に会場を作っていやがる」


すぐに、九州ダンジョンのテイムフィールドをモニターで確認すると、どこから持ち込んだのか武闘大会の会場が設営され、勝手に開催されていた。


ネットでこのことを調べてみれば、ホームページまで開設されており、武闘大会のルールまで載っていた。


「何々、テイム魔物が死ぬまで戦う、デスマッチが人気?!

賞金一千万円!! 動画配信は、随時更新中!

って、誰がこんなことを許したんだ?!

セーラ、ダンジョン企画から注意や指導は行っているの?」

「行っています。

でも、強制できなくて放置せざるを得ない状況です……」


クッ、異世界のことに気を取られ過ぎていた。

魔王様との会談からこっち、ダンジョンパークのことをおざなりにした結果がこれか……。

セーラとルナだけでは、人手が足りなかったということか?


「とにかく、こちらも動かないと。

まずは、強制的に動く前に、警告を出す。

後、ダンジョン企画の方からも、警告を出すように連絡しておく、と」

「それでも聞かない場合は?

まあ、聞かずに続けるでしょうけど……」

「そうしたら、ダンジョンマスターとしての出番だ。

強制的に、テイム解除を行い魔物たちを転移させてダンジョンへ。

人々の方は、ゲート入り口に転移させる。

そして、ゲートの通行許可を取り上げる」

「それじゃあ、二度とダンジョンパークに入れないってことですか?」

「迷惑行為をしたからね。

まあ、警告一回で強制排除はやりすぎかもしれないが……」

「いえ、今までも警告や注意はしました。

やり過ぎとは思えませんので、それでお願いします!」

「了解」


それにしても、会場の設営機材とか、どこから運び込んだのかな?







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