第83話 攫った者と調べる者
Side とある医師
同じ町にできたファンタジーダンジョンパークの影響で、人の往来が増えてきた。
そのため、俺たちの仕事も増えてきたのだが相変わらず年寄りの相手ばかりさせられていてウンザリするな。
「先生、夜間受付に加藤という人が先生に会いたいと……」
「加藤? 加藤……加藤……あ、分かった。すぐ向かう」
今日も一日の診療が終わり、入院患者のカルテを整理していたら看護師の奈々子君に呼ばれた。
しかし、あの話が本当に進んでいるとはな……。
「お久しぶりです先生。約束の実験動物ですよ~」
「バカな言い方をするな。
この町で、あのパークの住人をそう呼んでたら袋叩きにあうぞ」
「それは、怖い怖い」
病院の夜間受付の前に、トランクケースを床に置いた黒服の男が笑顔で挨拶してくる。
この男が、あの先生が言っていた運び屋とかいう奴だな。
何とも口が軽すぎる、あのパークの住人を動物とはタブーな呼び方だぞ。
あのパークに来園した頭の悪いアホが、あの耳を見て動物扱いして住人達に袋叩きにあったのだ。
しかも、ダンジョン企画という運営会社からは出入り禁止とまで警告されてな。
「それで、そのケースに入っているのか?」
「ええ、奥光勝代議士の依頼ですからね。
私が攫い、医者の先生に届けるまでが仕事です」
「……それを私が調べればいいということか。
だが、大丈夫なのだろうな?」
この男、依頼者の名前を出してくるとは……。
与党自営党の奥光勝議員といえば、この辺りから出馬していて何期も衆議院議員をしている重鎮だ。
その先生から、調べてほしいと依頼があれば調べないわけにはいかないだろう。
だが、あのパークに関しては自治が認められたはず。
与党議員とはいえ、一枚岩ではないということか。
「それは心配いりませんよ。
攫ったのは親のいない孤児ですし、先生が調べやすいように人とは違う見た目の子供を攫いましたから」
「ほう……」
人とは違う見た目か、なら動画サイトなどで有名な獣人とかいう奴か。
それとも、一部で人気の天使とか魔族とかか?
……ふっ、まるでゲームだな。
俺は、ケースを開けて中身を確認する。
そこには、手足を縛られ猿轡に目隠しをされた三体の人らしき生物がいた。
「どうです? これなんて、ウサ耳ですよ。
後、こっちは羽が生えているし、こいつも羽が生えているんですが、コレですよ」
そう言いながら、この男は獣人のウサギのような耳を引っ張ったり、ケースの中で無理やり背中を向けさせて白い羽に蝙蝠のような羽を見せてきた。
「あまり無理な体制をさせるな。死んだらどうする」
「死んだって構いませんよ。また調達してきますから……」
こいつ、本当に動物と同じだと思っているのか。
あのパークがどうやってできて、あそこにいる住人がどこから来たのかもわからないのに……。
……なるほど、だから調べてほしいのか。
政治家というのも、大変な仕事なのかもな……。
「とにかく、こちらで引き取る。
……ところで、こいつらは言葉はわかるのか?」
「それが、攫って来てからこっち話している言葉が分からなくなったんだよ。
攫うときは、こいつらの喋る言葉が分かっていたんだがな……」
「そうか……」
まあ、言葉が分からなければ何を叫んでいるかもわからなくていいだろう。
罪悪感も減るというものだ。
俺は、男からケースを受け取り台車にのせて処置室へと運び込んでいく。
あのパークの住人が、どんな生物かこれで分かるだろう……。
▽ ▽ ▽
Side 黒服の男
台車に実験動物の入ったケースを載せて、廊下の奥へ押して行った医者の先生。
総理が、あのパークに自治を認めたことからすぐに動き出した調査計画。
何の調査も無しに、自治区を認めるほど日本は間抜けではない。
「……これで、あそこの秘密が分かるかな?」
ファンタジーダンジョンパークがオープンしたとき、日本国内のみならず世界中が驚いたらしい。
それはオープンイベントに出てきた、巫女と呼ばれた三人の美女。
他にも、パーク内の獣人やエルフなどのファンタジー住人達。
特殊メイクでもなく、CGでもない、本物の生きている生物だったのだ。
世界中の研究機関が、日本にサンプルを依頼してきた。
それを拒否した今の総理は、世界中の国から圧力を受けた。
食料や燃料の高騰はその影響との噂だが、高騰しているのは日本だけじゃないんだがな……。
「あの総理が、なぜあのパークを優遇するのか。
これで答えが出るかもな……」
俺は、夜間受付を後にして夜の駐車場を歩き自分の車へ。
そして、車に乗る前に夜の病院をチラリと見る。
『見つけた!』
「ん?」
後ろから呼ばれたような声を聞いて、俺の意識は途切れた……。
▽ ▽ ▽
Side とある医師
ケースを処置室まで運び込むと、開けて中の住人を取り出す。
そして、皮のソファに座らせて置いた。
今だ、気を失っているのか目覚める傾向はない。
「フム、今のうちに血液を採取しておくか……」
戸棚から、用意しておいた注射器をトレイにのせてソファに近づく。
一応注射器は三本用意したが、三体とも血というか体液は違うのだろうか?
三体の身体を観察すると、どうやら三体ともメスの様だ。
「チッ、メスばかりそろえてもしょうがないだろう。
今度は、オスを調達するように言っておくか……」
俺は採決するために、注射器を構えると一番右のウサギ耳の腕を軽く掴んだ。
そして、血管がどこにあるか調べていく。
「フム、脈はあるみたいだな。ならば……」
『見つけた!』
「ん? 何だ……」
後ろから声が聞こえたような気がして、振り返ろうとした時、俺の意識はそこで終わっていた。
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