現代でダンジョンマスターになった男の物語

光晴さん

確認と相談の章

第1話 始まりは異世界から



「マスター、今の避難民たちで全員収容完了です」


ドーム状の空間で、社長椅子のような椅子に座り、側で説明している女性の報告を聞きながら俺こと五十嵐颯太いがらしそうたは、空中に浮く八つのモニターを見ながら考えていた。



十年前、今いる国『レストゥール聖王国』は俺たち異世界人を召喚した。

その数、376人。

あの日、俺を含め電車に乗っていた客、鉄道職員を合わせた全員だ。


毎朝、高校に行くために利用していたが、異世界召喚に巻き込まれてしまった。

だが、この召喚はラノベなどでよくある『勇者召喚』ではなく、勇者召喚陣を研究していた宮廷魔術師たちが新たに組み上げた『異世界人召喚』だ。

そのため、勇者召喚では必ず付与されるはずのチートなスキルもなく、召喚者たちそれぞれは普通のスキルを持つだけだった。


さらに、召喚陣に付与されていた『契約』により、レストゥール聖王国所属の宮廷魔術師筆頭に逆らうこともできず、隷属に近い状態になっていた。


それでも、召喚時にスキルが現れたものはまだ良かった。

中には俺のように、スキルの無い無能力者たちもいたからだ。

当然、聖王国側は俺たち無能力者を少しでも使えるようにするため、無理やりスキルが持てるようにある手術を行った。


それが、ダンジョンコアの移植手術だ。


ダンジョンコアは、それ単体で魔力を生み出し、その生み出した魔力で様々なものを作り出すことができた。

そのため、ダンジョンコアが作ったダンジョンの恩恵は計り知れず、人々は一獲千金の夢を見てダンジョンへ潜り続ける。


そんなダンジョンコアが時たま作り出す、ダミーコアというダンジョンコアの偽物を移植者の心臓の側に埋め込むことで無能力者の体の中で魔力を生み出し、魔力循環ができるようになる。

こうしてその生み出した魔力によって、後天的にスキルを発生させることができるらしい。

……ただし、これは理論上可能だっただけで、実際に埋め込まれたことはなかった。


何故なら、この世界の命あるものは生まれつき魔力を持っているので、ダンジョンコアを埋め込む必要がないのだ。


だが、俺たちという無能者の異世界人が召喚されたことにより、この理論が注目される。

そして、聖王国側は俺たちを使えるようにするため、理論を証明するため、俺が最初の実験体となり、一時間ほどの手術でダンジョンコアを埋め込まれたのだ。


そして、一カ月の経過観察ののち、問題ないと分かると他の無能力者へも移植が行われ、無事、手術を受けた全員が魔力を持つことができ、スキルを発生させた。



「……全部で、約6万人か。 ミア、ダンジョン内の様子を見せてくれ」

「分かりました」


側で報告してくれるダンジョンサポーターのホムンクルス、ミアにダンジョン内の様子を見せるようお願いする。

すると、ミアの返事とともに、目の前に浮かぶいくつもの画面にダンジョン内の様子が映し出された。


「……やっぱり、最初の町の人口が多いな」

「今、その先の町への誘導も行っていますから、いずれ解消すると思います」

「そうか……」


戦争や魔物の氾濫で、避難してきた人々の様子を見ながら俺は再び考える。



もうわかると思うが、ここは、俺が造りだしたダンジョンだ。

俺の中に埋め込まれたダンジョンコアは、ダミーコアなのではなく、オリジナルのダンジョンコアだった。


移植手術をした奴が間違えたのだろう、ダミーもオリジナルも見た目も重さも同じなのだから、こればかりはしょうがない。

で、俺は偶然、ダンジョンマスターとなり聖王国を支えることになった。


まず求められたのは、聖王国の食糧事情の問題だ。

聖王国のすべての領土で、食糧不足が発生しており、いくつかの辺境では飢饉なんかも発生していた。

そのため、俺はダンジョン内で食物を生産して、食糧問題を解決しようとした。

ダンジョンマスターの能力のダンジョン操作で、ダンジョンの階層を限界まで広くし、二階層と三階層を畑階層や牧場のための放牧地階層を作った。


これにより、その後の聖王国の食糧事情は改善に向かうことになる。

また、村々で食い詰めていた人々をダンジョンに受け入れることで、人手不足も解消されていき、ますます生産量が増えていった。


次に求められたのが、聖王国の財政問題の改善だが、これは俺がやることなのか?と文句を言ったのだが、ダンジョンが作れる宝物を提供しろと命令された。


俺は命令を無視したかったのだが、召喚時に掛けられた契約の呪いの影響で無視することもできず、渋々ダンジョン操作を行い、様々な宝石や鉱物を採掘し提供することに。

また、その他の聖王国側からの命令などの問題も、ダンジョンを利用することで解決し、レストゥール聖王国は段々と強国へ変わっていった。


そして、聖王国が抱える様々な問題が解決していけば、今まで叶わぬ夢と抑えてきた愚か者たちの野望が頭を持ち上げ始める。

王族や貴族が必ず見る夢、領土拡大に大陸統一の夢だ。



「お、みんな頑張っているな……」

「今やゴーレム自動車は、このダンジョンの主な移動手段ですからね。

操縦できる異世界人たちは、こちらに回してもらいましたから」


ダンジョン内の映像の一つに、ゴーレム自動車乗り場が映り、そこで避難民たちの相手をしている俺と同じ召喚者たちの姿があった。

この召喚者たちは、聖王国から戦力にならないと送られてきた者たちだ。


あの召喚された日から戦えるものは戦場へ、戦えないものはダンジョンができるとダンジョンへと選別され送られる。

そのため、助けられなかった召喚者たちもいた……。



俺のダンジョンが、聖王国を支えるようになって三年後、ついに戦争が始まる。


勇者召喚陣を有する聖王国こそがこの大陸を統一し、次の魔王誕生に備えなければならないとか何とか、もっともらしい理由を付けて始めたらしい。

だが、大陸の中央に位置する聖王国の周りには魔物などの敵がいなかったため、周辺の国に比べ屈強な兵が少ない。

そのため、自国の兵の強化を俺のダンジョンに求めてきた。いや、強制してきた。


俺は、渋々ではあるが国を守る兵士の強化のために、六階層と七階層を強化階層として、ダンジョンの魔物をいくつか配置した。

そのダンジョンの魔物と戦ってレベルを上げて強くなっていくはずだからだ。

所謂レベリングを行わせることで強くしていこうとしたのだ。


それに、配置する魔物はこちらで制御できるため、死者を出すことなく聖王国の兵士たちは強くなっていく。

それにより、聖王国の始めた戦争は、連戦連勝を重ね数々の国々を取り込んでいくことに……。


強化された聖王国兵は、開戦から二か月ほどは無敵を誇ったが、すぐに抵抗され押し戻されることになる。

それは、大陸最大の帝国グラスドールが大陸中の国々と一時的とはいえ同盟を結び、聖王国に抵抗し始めたからだ。


さらに、俺のダンジョンの魔力が枯渇し始めたため、強化が滞ったことも原因となった。

ダンジョンの魔物で、聖王国中の兵士たちを相手にしたためダンジョンコアの内包する魔力の減りが早まってしまったのだ。


実は、ダンジョンの魔物は生み出す魔力と倒した後に回収する魔力には差がある。

これは倒した魔物の魔力の半分は、倒した者へ吸収されるからだ。この吸収した魔力が所謂経験値となり、レベルを上げていく。


ただ、これには解決策があった。


あるダンジョン研究の資料に、魔力を作り出せる『トレント』系の魔物をダンジョン内で栽培したり、世界樹という世界を支えているとか言われた伝説の樹木の種を植えて育てたりすることで、内包魔力が劇的に回復したということが記されていた。


また、ダンジョン内で生物を殺してダンジョンに吸収させることで魔力回復や魔力増幅となるらしいのだが、今回は見送られることになった。

戦争しているのに、生贄を用意するわけにはいかなかったということらしい……。


だが、同盟軍へはどう対処することもできず、日々占領した領土を解放され、今は聖王国内へと進軍されていた。



「颯太さん! 連合軍が、王都への攻撃を開始しました!」


ドーム状の部屋に、息を切らせて女性が入ってきた。

彼女は、俺と同じ異世界召喚で召喚された日本人の一人。学校は違うが、同じ高校生だった相沢美咲あいざわみさきさんだ。


「い、今、かなでさんから、連絡があって……」

「王都決戦、か。 参戦していた、召喚者たちは……」

「マスター、エレノアの部隊が救出に向かいました」


奏こと新城奏しんじょうかなでも、俺たちと同じ異世界人だ。

『忍術』というロマンスキルを得たとかで、聖王国の王都で他の異世界人たちと一緒に情報収集をしてもらっている。


また、ミアの言っていたエレノアは、俺のダンジョンサポーターの一人で、奏と同じ忍術スキルを駆使して情報収集や裏工作などを担当している。


エレノアたちに任せておけば大丈夫だろう。

ここ数年の戦いで、何十人という異世界人が最前線で死んでいった……。


すでに聖王国は、王都まで進軍されている。

逃げるなら、進軍されていない他の貴族の領土へ逃れるだろうが、同盟軍の兵士たちが逃すわけない。


王都決戦で、俺たち異世界人を召喚した宮廷魔術師が死ぬことがあれば……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る